相続において「孫」に遺留分があるのかどうかは、相続の経緯によって異なります。原則として孫には遺留分が認められませんが、一定の条件を満たす場合には遺留分侵害額請求も可能です。
この記事では、孫の遺留分の基本ルールや、請求の方法、具体的な計算方法までを詳しく解説します。
1. 孫は原則として相続人ではない=遺留分は認められない
孫が遺留分を主張できるのは特定の場合に限られます。原則として孫は相続人にはならないため、遺留分も認められません。
すなわち、民法では相続人の順位が定められており、第一順位は子(直系卑属)、次いで親(直系尊属)、兄弟姉妹と続きます。

被相続人(亡くなった方)の子どもが存命であれば孫は相続人とならず、結果として遺留分もありません。遺留分は法定相続人にのみ与えられる権利だからです。
よって、祖父母の遺産について、孫が“当然に”遺留分を主張できるわけではありません。
2. 孫が相続人になる場合は遺留分あり
一方で、孫が法定相続人となる特別な状況においては、遺留分も認められます。すなわち、「代襲相続」により孫が相続する場合には、孫に遺留分が認められます。
代襲相続とは、本来相続するべき人(例:被相続人の子)が死亡していたり、相続欠格や相続廃除となっている場合に、その子(例:被相続人の孫)が代わって相続する制度です。
この代襲相続によって孫が法定相続人になる場合には、民法上の遺留分の対象者となります。
3. 孫に遺留分が認められるケースとは?
孫に遺留分が認められるケースとしては、例えば次のような場合が想定されます。
(1)法定相続人である子が亡くなり、孫が代襲相続人となる場合

被相続人の子が、相続開始以前にすでに死亡しており、その子(被相続人の孫)が代襲相続人となるケースです。
この場合、孫は直系卑属として法定相続人の地位を引き継ぐため、遺留分も認められます。
実務でもよく見られる例であり、孫が他の相続人(例:配偶者)とともに相続人となる場合などには、遺留分の侵害が争点となることがあります。
(2)法定相続人である子が相続廃除され、孫が代襲相続人となる場合
相続人の廃除とは、被相続人が家庭裁判所に請求することで、特定の相続人の相続権を排除できる制度です。廃除の理由には、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行などが含まれます(民法892条)。
廃除が認められた相続人もまた相続権を失いますが、その子どもには代襲相続が生じます。
その結果として、孫には遺留分の権利も生じます。
(3)法定相続人である子が相続欠格となり、孫が代襲相続人となる場合
相続欠格とは、法律上、重大な非行を行った者に対して相続権を剥奪する制度です。たとえば、被相続人を殺害しようとした、詐欺や脅迫で遺言を書かせた、遺言書を偽造・破棄したといった行為が該当します(民法891条)。
相続欠格者には一切の相続権が認められませんが、その子どもには代襲相続が認められます。
たとえば、欠格者となった者の子(被相続人から見た孫)は、欠格者の代わりに相続人となります。
その結果として、孫には遺留分の権利も生じます。
(4)孫が被相続人の養子である場合
孫が被相続人の養子である場合、実子と同様に法定相続人の地位を取得します。したがって、遺留分も当然に認められることになります。
養子縁組が有効である限り、遺留分の計算においても実子と区別されません。
4. 孫が代襲相続人となる場合の遺留分の割合と計算方法
代襲相続人である孫が遺留分を持つ場合、他の法定相続人と同様に遺留分の割合を計算する必要があります。
遺留分の割合は、被相続人に配偶者がいるかどうか、直系尊属や兄弟姉妹の有無によって異なります。以下の事例を用いて具体的に解説します。
【事例①】被相続人の配偶者+孫1人が相続
この場合、法定相続分は配偶者が1/2、孫が1/2となります。遺留分は各自の法定相続分の1/2であるため、配偶者と孫それぞれ1/4ずつ遺留分を持つことになります。
【事例②】被相続人の配偶者+孫2人が相続
配偶者1/2、孫2人で1/2を均等に分けるため、それぞれの法定相続分は配偶者1/2、孫1人あたり1/4です。
遺留分はその半分となり、配偶者1/4、孫1人あたり1/8が遺留分割合になります。
【事例③】被相続人の孫のみが相続
被相続人に配偶者も他の子もおらず、孫だけが相続人となる場合、法定相続分は孫1人で全体となり、その遺留分は1/2、つまり全財産の1/2となります。
5. 孫の遺留分が侵害されていたら?
孫が代襲相続人などとして遺留分を有しているにも関わらず、遺言や生前贈与によって、自身の遺留分が侵害されていた場合には「遺留分侵害額請求」が可能です。
この請求は、遺留分として不足する部分について、金銭で支払うことを求めるもので、不動産等の現物の一部を返還させるものではありません。
6. 遺留分侵害額請求の方法
遺留分が侵害された場合、孫は次の手順で遺留分侵害額請求を行います。
(1)話合い(交渉)による解決
まずは他の相続人と遺留分について話し合い、任意の支払いによって解決を図ります。
交渉の場面でも、遺留分侵害額請求権を行使した記録を明確に残しておくために、内容証明郵便を送っておいた方が良いでしょう。
(2)話合いが現実的でなければ遺留分侵害額請求調停を申立て
交渉がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では、調停委員と呼ばれる第三者が間に入り、中立的な立場で話合いをサポートしてくれます。
(3)調停でも解決しない場合は、遺留分侵害額請求訴訟を提起
調停でも合意に至らなければ、最終的には訴訟により解決を図ることになります。訴訟は、調停と比べて時間と費用がかかるのが一般的です。
法的な知識や経験を必要とする厳格な手続きですので、弁護士に依頼して進めることになるでしょう。
7. 孫の遺留分に時効はある?
さて、ここまで説明した遺留分侵害額請求ですが、いつまでも無期限で請求できるわけではありません。遺留分侵害額請求権には「時効」があるため、注意が必要です。
(1)遺留分侵害額請求権の消滅時効
遺留分侵害額請求権は、
- ①遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間 または、
- ②相続開始の時から10年
で消滅してしまいます。
せっかくの権利を消滅させてしまわないためには、早めに専門家に相談し、請求の準備を進めることが大切です。
(2)遺留分侵害額請求権の時効を止める方法
権利行使によって時効の進行を止めることができます。具体的には、内容証明郵便の発送、調停の申立て、訴訟提起によって時効の進行を止めることができます。
遺留分侵害額請求の時効については、下記の記事で詳しく解説しています。
8. まとめ|遺留分で困ったら弁護士に相談を
孫に遺留分が認められるのは限られた場合ですが、代襲相続人や養子であれば遺留分を有することになります。相続の場面では複雑な法的判断が求められるため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。遺留分侵害が疑われる場合には、時効のリスクもあるため、迅速な対応が必要です。