相続放棄を弁護士に依頼するメリットとデメリットは?相談の流れや費用も解説

元弁護士

山内 英一

相続放棄を弁護士に任せるメリットとデメリット 相続放棄に関するコラム

自身で手続きを進めることもできる相続放棄ですが、手続きを弁護士に任せるという選択肢もあります。この記事では、相続放棄を弁護士に任せるとどのようなメリット・デメリットがあるのかわかりやすくご紹介します。

1. 相続放棄を弁護士に依頼するメリット

(1)相続放棄すべきかどうかのアドバイスをもらえる

弁護士に相談すれば、「そもそも相続放棄をするのが最善の選択なのか」といったお悩みについても、弁護士から助言をもらうことができます。

場合によっては、相続をした方が負担が少なく済んだり、限定承認や遺産分割など他の方法を検討すべきであるということも少なくありません。

また、相続放棄の手続きが完了するまでの間、「被相続人の部屋の清掃や遺品整理はしても良いの?」といったように、些細な疑問が生じることもあるでしょう。

そのような疑問が生じたら、依頼している弁護士に連絡してその都度確認することができます。

(2)相続放棄申述書の作成を任せることができる

相続放棄をするには、「相続放棄申述書」と呼ばれる書類を作成し、家庭裁判所に提出する必要があります。

弁護士は、裁判所に提出する書面を日常的に作成していますので、自身で作成するよりも正確かつ迅速に書面を作成することができます。

(3)必要書類の収集を任せることができる

相続放棄の手続きで難しいのは、戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍・住民票除票・戸籍附票といった必要書類を不足なく収集する点です。

単に取得するだけでなく、記載されている内容を読み解きながら取得していかなければならない点に難しさがあります。

ゆっくりと自分で調べながら進めていっても良いですが、3ヶ月という制限期間内に必要書類を正確に把握して不足なく集め切るのは、想像以上に労力や時間がかかるものです。

そのような手間やプレッシャーを避けたいのであれば、相続放棄を弁護士に依頼した方が良いでしょう。丸っと任せてしまえば、弁護士が必要な書類を判断し、弁護士の権限で戸籍謄本等を収集してくれます。

(4)財産調査を任せることができる

亡くなった方(被相続人)の財産状況がよくわからないという場合には、財産調査も合わせて弁護士に任せることができます。

個人間でのお金の貸し借りなどを調査することは困難ですが、銀行や消費者金融からの借入れなどを調査することは可能です。

もちろん、「相続放棄をする意思は固まっているので財産調査は不要」ということであれば、相続放棄の手続きのみを依頼することもできます。

(5)相続放棄に失敗するリスクを減らせる

裁判所に提出する書類に不備があった場合や、制限期間内の申立てができなかった場合、相続放棄前に禁止行為を行なってしまった場合など、相続放棄にも失敗してしまうリスクが少なからず存在します。

法律の知識が不十分な状態で自身で手続きを進めるよりも、相続放棄の経験がある弁護士に手続きを任せた方が、うっかり失敗してしまうリスクを減らすことができます。

(6)家庭裁判所とのやりとりを任せることができる

相続放棄の申述を行うと、家庭裁判所から連絡がくることがあります。例えば、書類の記載内容に関する質問や、必要書類の補正に関する連絡などです。

日中に電話に出られない方や、裁判所とのやりとりを負担に感じる方にとっては、これらの対応を全て弁護士に任せることができる点もメリットとなるでしょう。

(7) 3ヶ月の期間を過ぎても相続放棄できる可能性がある

すでにご存知の方も多いと思いますが、相続放棄の手続きは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」以内に行わなければなりません(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」と呼びます。

3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄をすることができなくなってしまいます。その場合、単純承認したものとみなされ、通常通りすべての財産を相続することになります(民法921条2号)。

残された期間が少なく、自分で手続きを進めていたのでは到底間に合わないようなケースでも、弁護士に依頼すればなんとか間に合わせてくれることも少なくありません。

例えば、早急に相続放棄の期間伸長の申立てを進めたり、相続放棄申述書を早急に作成して家庭裁判所に提出し、添付資料は追完するなど、経験に基づいた手法をとることができます。

また、3ヶ月の期間を明らかに過ぎていたとしても、裁判例に照らして相続放棄が認められる可能性があるケースも存在します。そのような例外的なケースは弁護士に依頼した方が良いでしょう。

(8)相続に関わるトラブルに柔軟に対応できる

相続放棄の申述そのものに限らず、相続放棄に関係する他の業務についても、弁護士であれば柔軟に対応することができます。

相続放棄に関係する他の業務の例
  • 相続放棄の熟慮期間の伸長の申立て
  • 相続放棄が却下された場合の即時抗告
  • 被相続人の債権者から金銭支払請求をされたときの対応

また、相続放棄に限らず、相続に関するトラブルが発生してしまった場合にも、弁護士であれば代理人として対応することができます。

相続に関するトラブルの例
  • 相続を巡り相続人間でトラブルになってしまった
  • 調停や訴訟を起こされてしまった

このように、司法書士等の他の士業と比較して、対処できる範囲が広い点も弁護士に依頼するメリットの一つでしょう。

もっとも、どこまで対応できるかは法律事務所によって異なりますので、各法律事務所との契約前にしっかりと確認しておきましょう。

2. 相続放棄を弁護士に依頼するデメリット

(1)弁護士費用がかかる|相場は5万~10万円

弁護士に代理人としての手続きを依頼した場合、弁護士費用(弁護士に支払う報酬)がかかってきます。

各事務所によって費用体系は異なりますが、弁護士費用の相場として、相続放棄1件あたり約5万円〜10万円は見込んでおくと良いでしょう。

安く感じるか高く感じるかは人それぞれですが、「自分で手続きを行った場合にかかる時間や労力、失敗のリスクなどを踏まえた上で、金額に納得感が得られるかどうか」がポイントになると思います。

(2)弁護士とのやりとりが必要となる

弁護士に依頼する場合、初回の相談を行います。相談は電話で行うか、事務所に行って直接面談するのが一般的です。相談にかかる時間は30分〜1時間程度です。

依頼すると決めた場合は、契約書に署名・押印を行います。遠隔地の事務所に依頼した場合は、契約書を郵送で取り交わすこともできます。

依頼した後も、手続きを進める上で追加で確認したい事項について、弁護士から連絡(電話やメール)がくることもあります。

このように、手続きを任せるとはいっても、弁護士との最低限のやりとりは必要となります。このようなやりとりを負担に感じる方にとっては、一つのデメリットといえるかもしれません。

3. 相続放棄を相談・依頼する際の弁護士の選び方

相続放棄について弁護士に相談するのであれば、相続関係の業務を日常的に取り扱っている法律事務所を選んだ方が良いでしょう。

法律事務所のホームページなどで「相続放棄を扱っている」ことを明示している事務所を選ぶのが簡単な方法です。

また、「相続放棄を扱っている」ことを明示していなかったとしても、遺産分割・遺言書作成・遺留分侵害額請求などの相続関係の業務を扱っているようであれば、基本的には相続放棄もできるものと考えて良いかと思います。(※ただし、事務所の方針として「相続放棄の依頼は受け付けていない」という可能性もあります。)

当サイト「相続放棄ナビ」では、相続放棄の経験が豊富な弁護士、相続放棄に強い弁護士を掲載していますので、よろしければ「相続放棄を扱う弁護士に依頼する」をご覧ください。

4. 相続放棄を弁護士に相談してから完了までの流れ

弁護士に依頼したときの流れ

相続放棄を弁護士に依頼すると、一般的には上記のような流れで進んでいきます。

初回の相談は電話や対面で行い、30分〜1時間程度で終わるのが一般的です。無料相談を行っている法律事務所もあります。

相談をしたからといって、必ずその法律事務所に依頼しなければならないわけではありません。

弁護士に相続放棄を依頼する場合は、費用を先に支払うことが多いでしょう。

弁護士に依頼をし、必要な情報を弁護士に伝えた後は、依頼者の方がやることは特にありません。

ただし、裁判所によっては、照会書(回答書)を依頼者本人に送付する場合がありますので、その場合は担当弁護士に聞きながら手続きを進めます。

相続放棄を弁護士に相談してから手続きが完了するまでの詳しい内容については、下記の記事で詳しく解説しています。

5. 弁護士と司法書士の権限の違い

相続放棄の手続きの代行・代理は、弁護士か司法書士に依頼します。では、弁護士と司法書士の違いはどのような点にあるのでしょうか。

弁護士の特徴①|相続放棄をすべきか否か広い知見から判断できる

相続放棄について弁護士に相談した結果、相続財産に含まれる債務について時効の援用ができそうであるとか、交渉によって借金の金額を減額できそうであるといった事情が発覚することがあります。

その場合、時効の援用や交渉を弁護士に依頼してしまえば、そもそも相続放棄をする必要がなくなってしまうこともあり得ます。

また、限定承認や遺産分割協議などによって問題を解決した方が良いケースもあるでしょう。

このように、弁護士であれば、相続放棄にとどまらず、より広い視点から依頼者にとって最善の解決策を検討することができます。

なお、弁護士は、被相続人の財産について、弁護士会を通じて金融機関や行政機関等に対して情報開示を求める「弁護士会照会」(23条照会)をすることができます。

弁護士会照会を利用すれば、司法書士による調査よりも精度の高い財産調査結果が得られることもあります。

弁護士の特徴②|依頼者の代理人として業務を行うことができる

弁護士は、申述書の作成、添付書類の収集、家庭裁判所との連絡、相続放棄照会書・回答書の記入や返送などを全て代理人として行うことができます。

わかりやすくいうと、手続きを弁護士に丸っと任せてしまうことができるのです。

(※ 裁判所の方針により、相続放棄照会書・回答書については依頼者本人に届くことがあります。)

また、ほとんど起こり得ないケースですが、万が一裁判所からの出頭要請がある場合も、家庭裁判所から弁護士に直接連絡がいき、弁護士が代理人として出頭することができます。

一方で、司法書士が行うのはあくまでも「書類作成の代行」がメインです。弁護士のように「代理人」として業務を行うことができません。

弁護士に依頼した場合とは異なり、申述人本人の名義で手続きを進めていくことになるため、裁判所からみると、申述人本人が相続放棄を行っていることになります。

したがって、司法書士に依頼したとしても、裁判所からの質問や連絡は申述人本人の電話にかかってきます。そして、問い合わせへの対応等も申述人本人が行うことになります。

万が一裁判所への出頭を求められた場合には、申述人本人が出頭します。

弁護士の特徴③|難しい事案も代理人としてサポート可能

相続放棄には、受理されないリスクが高くなるケースも存在します。例えば次のようなケースです。

  • もう少しで3ヶ月の期限が到来してしまう場合
  • 被相続人の死亡からすでに3か月以上が経っている場合
  • 申述人(相続放棄をしたい人)が相続財産を処分してしまっている場合

期限が迫っているケースでは、書面の作成を代行するだけではなく、代理人として迅速に対応することが有効な場合があります。

また、難易度の高いケースでは、相続放棄が認められるべきという主張を論理的に適切な根拠に基づいて行う必要があります。弁護士に依頼した場合には、弁護士がそのような主張を組み立て、「事情説明書」や「上申書」といった書面を作成し、申述を行なってくれます。

このように、難しいケースも代理人として適切に対応できる点は、弁護士ならではの強みといえるでしょう。

上記のケースに当てはまりそうであれば、弁護士に依頼することをおすすめします。

6. 弁護士への依頼に関するよくある質問【専門家が回答】

Q. 相続放棄を弁護士に依頼する場合、どのような弁護士に依頼すべき?

A. 相続関連の業務の経験がありそうな事務所を選ぶのが良いでしょう。法律事務所のウェブサイトに掲載されている「取扱業務」などをみると、相続関係の業務を扱っているかがわかります。

Q. 相続放棄を弁護士に依頼する場合、自宅に近い法律事務所を選んだ方が良いですか?

A. 弁護士への相談は電話やメールで、契約書の締結などは郵送で行えますので、相続放棄については県外の法律事務所に依頼しても特に問題はありません。実際に、全国各地からの相続放棄の依頼を受けている法律事務所も存在します。

それでも、電話やメール、WEB会議などの方法ではなく、弁護士と直接対面して相談したいという方は自宅や職場の近くの法律事務所を選ぶと良いでしょう。

なお、相続放棄の手続きは基本的に郵送で行えますので、法律事務所と管轄の家庭裁判所との距離を気にする必要もありません。

Q. 相続放棄は弁護士よりも司法書士に依頼した方が良い?どちらに依頼すべき?

A. 「弁護士の方が良い」「司法書士の方が良い」というのは一概に言い切れるものではありません。どこまでの手続きを任せたいのかや、予算感によっても変わってくるでしょう。

この記事でも説明したように、弁護士は依頼者の代理人として手続きを進められる(依頼者にかかる手間や労力が少ない)点や、弁護士の方が相続に関する業務を広く取り扱える点などに、弁護士と司法書士の違いがあります。

弁護士と司法書士の違いについては「相続放棄の相談先は?困ったら誰に相談すべき?」でも解説していますのでぜひご覧ください。

Q. 弁護士に依頼すれば裁判所に行かなくて良い?

A. 相続放棄の手続きを弁護士に依頼した場合、依頼者が家庭裁判所に行く必要はありません。

なお、相続放棄の手続きでは、弁護士に依頼する場合であってもご自身で手続きをする場合であっても、基本的に申述人が家庭裁判所に行く必要ありません。裁判所に提出する書面によって審理が進められるためです。

ただし、出頭を求められる場面が全くないとは言い切れません。万が一出頭を求められた場合、弁護士に依頼していないのであればご自身で家庭裁判所に行くことになります。

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