遺留分は、相続人に最低限保障される相続財産の取り分です。非常に重要な権利である一方、計算方法が難しく、相続人間でトラブルになってしまうこともあります。
この記事では、遺留分の基本的な割合や計算方法について、具体例を交えて詳しく解説します。
1. 遺留分の割合と計算例【ケース別】
遺留分の割合は、相続人の構成によって異なります。代表的なケースごとに割合と計算例を示します。
計算方法は後ほど詳しく解説しますので、まずは相続人の組み合わせと遺留分の額を確認してみましょう。
(1)相続人が配偶者のみ
配偶者のみが相続人の場合、配偶者の遺留分は相続財産の2分の1です。
たとえば、相続財産が1,000万円なら遺留分は500万円となります。
(2)相続人が配偶者+子1名
配偶者と子が1人いる場合、全体の遺留分(総体的遺留分)は1/2で、配偶者と子の個別的遺留分は1/4ずつになります。
- 配偶者:1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/4
- 子:1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/4
たとえば、相続財産が1,000万円なら配偶者と子の遺留分は250万円となります。
(3)相続人が配偶者+子2名
配偶者と子2人が相続人の場合、遺留分全体(総体的遺留分)は1/2です。この総体的遺留分を、法定相続分にしたがって分けます。
その結果、各自の遺留分は次のとおりとなります。
- 配偶者:1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/4
- 子①:1/2(総体的遺留分)×1/4(法定相続分)=1/8
- 子②:1/2(総体的遺留分)×1/4(法定相続分)=1/8
たとえば、相続財産が1,000万円なら、配偶者の遺留分は250万円、子の遺留分はそれぞれ125万円となります。
(4)相続人が配偶者+直系尊属(父や母)
配偶者と直系尊属が相続人の場合、遺留分全体(総体的遺留分)は1/2です。この総体的遺留分を、法定相続分にしたがって分けます。
- 配偶者:1/2(総体的遺留分)×2/3(法定相続分)=1/3
- 母:1/2(総体的遺留分)×1/3(法定相続分)=1/6
たとえば、相続財産が3,000万円なら、配偶者の遺留分は1000万円、母の遺留分は500万円となります。
(5)相続人が配偶者+兄弟姉妹
兄弟姉妹には遺留分が認められていません。したがって、配偶者のみが遺留分を有します。配偶者の遺留分は相続財産の2分の1です。
(6)相続人が直系卑属のみ
子など直系卑属のみが相続人の場合、遺留分全体(総体的遺留分)は相続財産の2分の1です。子が複数いる場合は、その2分の1を人数で等分します。
- 子①:1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/4
- 子②:1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/4
たとえば、相続財産が1,000万円なら、子の遺留分はそれぞれ250万円となります。
(7)相続人が直系尊属のみ
父母など直系尊属のみが相続人の場合、遺留分全体(総体的遺留分)は相続財産の3分の1です。父及び母がいずれもご健在の場合は、その3分の1を人数で等分します。
- 父:1/3(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/6
- 母:1/3(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/6
たとえば、相続財産が3,000万円なら、父と母の遺留分はそれぞれ500万円となります。
(8)相続人が兄弟姉妹のみ
兄弟姉妹は遺留分を持たないため、遺留分はありません。
2. 遺留分の計算方法
遺留分の計算は少し複雑です。下記の順番通りに、段階的に計算していく必要があります。
(1)相続開始時に有していた財産を確認する
遺留分の計算は、まず相続開始時点での被相続人の財産を正確に把握することから始まります。
(2)生前贈与された財産を加えて計算する
生前贈与のうち、
- 相続開始前10年以内の相続人への特別受益にあたる生前贈与
- 相続開始前1年以内の相続人以外への生前贈与
- 遺留分権利者に損害を与えることを知りながら行われた生前贈与
など、一定の条件を満たす生前贈与の金額を、相続財産に加算します。
(3)被相続人の借金は控除する
プラスの相続財産から、被相続人の借金や負債を差し引いて純資産を算出します。
(4)総体的遺留分額を算出する
純資産に総体的遺留分割合を乗じて、相続人全体の遺留分を算出します。
総体的遺留分割合は、
- 相続人が直系尊属のみで構成される場合には1/3
- それ以外の場合には1/2
と決まっています。
(5)個別的遺留分額を算出する
総体的遺留分に法定相続分を掛け、各相続人の具体的な遺留分額を算出します。
【具体例】Aさんの遺留分侵害額は?
具体的な相談事例をもとに、遺留分侵害額請を計算してみましょう。
- 被相続人である父が亡くなりました。相続人は次男である私(A)と、長男(B)の2名です。
- 父は長男Bに対し全ての財産を「相続させる」旨の遺言を作成していました。
- 父は亡くなる5年前に、長男Bに対して、不動産の購入資金として500万円を援助していました。
- 私としては、長男Bに遺留分侵害額請求をしたいのですが、遺留分侵害額はどのように計算すればよいでしょうか。
- 父の相続財産は、プラスの財産が3000万円、債務が1000万円です。
■遺留分を算定するための基礎となる財産の価額
遺留分を算定するための基礎となる財産の価額は、
- 「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」に
- 「贈与した財産の価額」を加算し
- 「債務の全額」を控除
して算定します(民法1043条1項)。
上記の事例における「遺留分を算定するための財産の価額」は、
3000万円(プラスの財産)+500円(贈与額)-1000万円(債務)=2500万円
ということになります。
■総体的遺留分の算出
総体的遺留分率は、相続人がどのような親族によって構成されるかによって異なります(民法1042条)。具体的には、次のとおりです。
- 相続人が直系尊属のみで構成される場合には1/3
- それ以外の場合には1/2
上記の事例では、被相続人の子が相続人となりますので、総体的遺留分率は1/2となります。
総体的遺留分の額は、
2500万円(遺留分算定の基礎財産)×1/2(遺留分率)=1250万円
ということになります。
■個別的遺留分の計算
次に、各相続人に認められる遺留分(個別的遺留分)を計算します。個別的遺留分は、原則として次の算定式によって算出できます。
- 個別的遺留分の額=総体的遺留分の額×法定相続分の割合
上記の事例では、相談者Aさんは被相続人の子であり、本来遺産を長男Bと半分ずつ分け合うことになります。つまり、法定相続分は1/2となります。
したがって、Aさんの個別的遺留分は、
1250万円(総体的遺留分)×1/2=625万円
ということになります。
■遺留分侵害額
Aさんには、625万円の遺留分があるにもかかわらず、被相続人である父は、長男Bに対し全ての財産を「相続させる」旨の遺言を遺しています。つまり、この遺言に従えば、Aさんの取り分は0になってしまいます。
言い換えると、Aさんは625万円の遺留分を侵害されていますので、長男Bに対して、625万円の支払いを請求することができます。
3. 計算の結果遺留分を侵害されていたら
遺留分が侵害されていた場合には、遺留分侵害額請求をすることができます。
(1)遺留分侵害額請求の検討
遺留分の取り分が不足している場合、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)を検討します。
遺留分侵害額請求は、侵害されている遺留分にあたる金額を、金銭で支払うことを求めるものです。
(2)遺留分侵害額請求の方法・流れ
遺留分侵害額請求をする方法は、大きく以下の3つです。
①交渉・話合い
まずは当事者間での話合いが基本です。冷静に事実を整理し、金銭的な折り合いを探ります。
口頭でのやり取りでは、言った・言わないの争いになり、時効の成否にも影響を与え得るので、内容証明郵便等、記録に残る形の書面で意思表示するようにします。
②調停
交渉で合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てて話し合いを進めます。場所は家庭裁判所で行いますが、あくまでも話し合いの場です。中立的な立場である調停委員が間に入ることで、円満な解決が期待できます。
遺留分を求める調停の申し立て方や、当日にどのようなやり取りが行われるかなど、詳しい情報は下記の記事でご紹介しています。
③訴訟
調停でも解決しない場合は、請求者は民事訴訟を提起することになります。
ただし、訴訟は、時間と費用がかかるというデメリットがあるため、できる限り調停での解決を目指すのが一般的です。
やむを得ず訴訟を提起する場合は、弁護士に相談・依頼するようにしましょう。
4. 遺留分侵害額請求はいつまでできる?
遺留分の請求には2つの期限が設けられています。いずれか早い方の期間が経過すれば、請求する権利は消滅してしまいますので注意してください。
(1)消滅時効:遺留分侵害を知った時から1年
一つ目の期間は、「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」です。
1年はあっという間に過ぎてしまいますので、うっかり期限を過ぎてしまわないように注意が必要です。
(2)除斥期間:相続開始から10年
2つ目の期間は、「相続開始の時から10年」です。つまり、被相続人が死亡した日から10年間で消滅してしまいます。
(3)消滅時効を止める方法
権利行使によって時効の進行を止めることができます。具体的には、内容証明郵便の発送、調停の申立て、訴訟提起によって時効の進行を止めることができます。
5. 遺産に不動産が含まれている場合
遺産に不動産(土地・建物)が含まれる場合は、その評価額を算定して、遺留分を計算する必要があります。
不動産の評価額は一律に判断できるものではなく、様々な指標・基準を用いて算定しなければなりません。
遺留分侵害額請求をする側とされた側とでは、不動産の評価額の主張が食い違い、大きな争点になることもあります。
相手の主張が正しいのか検証したい方や、正確かつ自身に有利な金額で交渉したい方は、弁護士に相談すると良いでしょう。
6. まとめ|遺留分の計算や請求は弁護士に任せるのがおすすめ
遺留分の計算方法は複雑な上、どの財産を含めて計算するのか、不動産の評価額をどうするのかなど、検討すべき事項が多岐に渡ります。
不明点を解消したり、トラブルを避けるためにも、相続問題に詳しい弁護士に相談し、適切な計算と対応をお願いすることをおすすめします。
プロのサポートのもと、自身の権利を守りつつ、スムーズな相続手続きを進めていきましょう。