不動産の相続は、法律に関わる難しい手続きが多く、費用や必要書類も複雑で分かりにくいものです。
この記事では、不動産を相続する際に必要な手続きや注意点、費用の目安、必要な書類まで、具体的にわかりやすく解説します。
相続で悩んでいる方が一歩を踏み出せるよう、実務経験と最新の情報を踏まえた内容をお伝えします。
1. 不動産を相続するまときの大まかな流れ
不動産を相続するには、法律に基づいた手続きを適切な順番で行う必要があります。まずは、その大まかな流れを確認しておきましょう。
(1)誰が相続人になるのか確認する
相続手続きを始めるには、まず誰が法定相続人になるのかを確認します。

法定相続人は、民法に基づいて決まっています。具体的には、配偶者は常に相続人となり、その他に子、直系尊属(父母など)、兄弟姉妹の順に優先順位があります。
相続が発生したら(ご家族が亡くなられたら)、まずは戸籍謄本や除籍謄本を取り寄せて、被相続人の出生から死亡までの記録を確認し、相続人を確定することが重要です。
相続人を確定しなければ、その後の手続きが適切に進められません。万が一相続人を間違えたまま様々な手続きを進めてしまうと、全てやり直すことになり、多くの時間・労力・お金を無駄にしてしまうこともあるため、焦らず慎重に進めていきましょう。
(2)遺言書の有無を確認する
次に、被相続人が遺言書を残しているかを確認します。遺言書がある場合、基本的にはその内容に従って遺産を分けることになります。
遺言書にもいくつか種類がありますが、最も典型的な「自筆証書遺言」がある場合は、開封前に家庭裁判所で「検認」という手続きを行わなければなりません。
公正証書遺言であれば検認は不要ですが、いずれにしても速やかな確認と開示が求められます。
遺言の有無によって、相続手続きの方向性が大きく変わりますので、しっかりと確認してください。
(3)被相続人の財産を特定する
不動産だけでなく、預貯金、有価証券、債務など、すべての財産を把握することが必要です。
不動産については、登記事項証明書や固定資産税の納税通知書などで所在や内容を確認します。
借金などのマイナスの財産も含めて正確に把握することで、相続放棄や限定承認といった選択肢を検討する判断材料となります。
(4)遺産分割協議を行う
法定相続人全員で、遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。
不動産は共有にするとトラブルのもとになりやすいため、現物分割や代償分割などを活用して単独所有にするのが望ましいでしょう(現物分割や代償分割の意味については後述します。)。
協議が成立したら、「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名・押印します。この書類は、後の相続登記や税務申告に必要となるため、正確に作成しなければなりません。
(5)不動産の名義変更(相続登記)をする
遺産分割協議がまとまったら、不動産の名義を被相続人から相続人に変更します。これを「相続登記」と言い、法務局で手続きを行います。
相続登記には遺産分割協議書、相続人の戸籍・住民票、被相続人の除籍謄本、不動産の固定資産評価証明書などが必要です。
なお、2024年から相続登記は義務化されており、期限内に行わないと罰則(10万円以下の過料)の対象になるため注意が必要です。
(6)相続税の申告・納付をする
相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
相続税の申告は、全てのケースで行わなければならないわけではありません。相続税の要否は、遺産の合計金額が、基礎控除額である「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超えるかどうかが一つの目安となります。
上記の基礎控除額を超えそうな場合は、相続税の申告が必要となる可能性がありますので、税理士に相談をしましょう。
なお、相続税の申告の期限は上記のとおり10ヶ月ですが、税理士に依頼するタイミングが遅いと、税理士に支払う費用が高くなる(追加料金が発生する)のが一般的です。
そのため、税理士への相談は遅くとも6ヶ月以内にした方が良いでしょう。
2. 不動産の遺産分割方法4つ
不動産は現金のように簡単に分けられないため、分割方法には工夫が必要です。主な4つの方法をご紹介します。
(1)現物分割
現物分割とは、不動産そのものを相続人の誰かが取得する方法です。たとえば、長男が実家(土地と建物)を相続するなど、物理的に財産を分ける形になります。
シンプルで明快ですが、他の相続人からの不満が出やすいため、公平性を保つためには他の財産とのバランスを考慮する必要があります。
不動産が複数ある場合は、それぞれの物件を各相続人に割り当てる形での分割も可能です。
(2)代償分割
代償分割は、不動産を特定の相続人が取得し、その代わりに他の相続人に金銭を支払って調整する方法です。
たとえば、1000万円相当の不動産を長女が相続し、次女に500万円を支払うことで、二人の公平性を保つような分け方です。
公平性を保ちやすく、トラブルも少なく済むため、実務でもよく使われる手法です。ただし、代償金を支払う資力が相続人にあることが前提となります。
(3)換価分割
換価分割は、不動産を売却し、その売却代金を相続人で分ける方法です。不動産の共有を避けられるため、後々のトラブルを防ぐことができます。
一方で、売却するまでに時間がかかることや、市場価格によっては想定より低い価格になるリスクもあります。また、譲渡所得税の課税も考慮しなければなりません。
(4)持分割合で共有分割
共有分割は、相続人が不動産を持分割合で共同所有する方法です。たとえば、兄と弟が2分の1ずつ所有する形です。
共有状態は一見すると公平ですが、後々、管理・売却の意見が分かれたときにトラブルになりがちです。
共有名義の不動産は将来的なリスクが高いため、できれば避けた方が良いでしょう。
3. 遺産分割における不動産評価額
不動産の価値をどのように評価するかは、遺産分割の場面や税金の計算において非常に重要です。不動産の評価方法は複数あります。
(1)時価(実勢価格)
時価とは、市場で実際に取引される価格のことです。遺産分割協議では、不動産会社の査定や近隣の取引事例を基に時価を把握し、分割の基準にすることが一般的です。
(2)不動産鑑定評価額
不動産鑑定士が行う専門的な評価で、より正確かつ法的な根拠を持った価格です。遺産分割がもめた場合や訴訟に発展した場合には、裁判所でも重視されます。
ただし、鑑定費用として数十万円かかるため、費用対効果を考慮して依頼する必要があります。
(3)公示地価
国土交通省が毎年発表する土地の価格で、標準的な地点における1平方メートルあたりの価格です。公的な価格指標として使われますが、実際の売買価格とは異なる場合もあります。
おおよその土地評価の参考にはなりますが、相続税評価や実勢価格とはずれがある点に注意が必要です
(4)相続税評価額
相続税の申告に用いられる評価額で、国税庁が定める路線価や倍率方式に基づいて計算されます。
税務上の基準となるため、相続税を正確に申告するためには、この評価方法を理解し、適切に計算する必要があります。
専門家の助言を受けることで、評価ミスによる過大な納税を防げます。
4. 不動産の相続登記について
相続登記は、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する手続きです。ここではその具体的な方法や費用について解説します。
(1)相続登記の方法
相続登記は、法務局で行う手続きです。
遺産分割協議が成立していれば、その内容に従って名義変更を申請します。申請は相続人自身でも可能ですが、書類の不備や記載ミスがあると受理されないため、司法書士や弁護士に依頼する方も多くいらっしゃいます。
(2)相続登記の必要書類
相続登記に必要な書類は、相続の方法や事情によって異なります。具体的には、①法定相続分に従って相続する場合、②遺産分割協議に従って相続する場合、③遺言書に従って相続する場合の、大きく3つのパターンに分けられます。
①法定相続分による相続登記
遺言書も協議もない場合は、法定相続分に基づいて登記します。この場合、
- 登記申請書
- 被相続人の除籍謄本や戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍の附票
- 法定相続人の戸籍謄本
- 法定相続人の住民票
- 固定資産課税明細書
などが必要です。
②遺産分割協議による相続登記
遺産分割協議を経て相続登記を行う場合は、
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
- 被相続人の除籍謄本や戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍の附票
- 法定相続人の戸籍謄本
- 法定相続人の印鑑証明書
- 固定資産課税明細書
- 法定相続人のうち新しく所有者になる人の住民票
などが必要です。ここであらかじめ作成しておいた「遺産分割協議書」が必要になるわけです。
③遺言による相続登記(遺贈登記)
遺言書がある場合、登記申請には
- 登記申請書
- 遺言書
- 被相続人の除籍謄本や戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍の附票
- 固定資産課税明細書
- 新しく所有者になる人の戸籍謄本
- 新しく所有者になる人の住民票
などが必要です。遺言が自筆証書遺言である場合で、法務局に保管されている場合は、「遺言書情報証明書」が必要です。法務局に保管されていない場合には、家庭裁判所での検認が必要ですので注意しましょう。
※ 相続登記に必要な書類に関する詳しい情報は、「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」など、法務省の最新の案内を確認すると良いでしょう。
(3)相続登記の期限(罰則あり)
令和6年(2024年)4月1日に相続登記を義務化する法律が施行されました。覚えておきたい主な内容は次のとおりです。
- 相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
- 遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
上記1と2のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象となります。
正当な理由とは、例えば、相続人が極めて多数にのぼり戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなどが想定されます。
(4)相続登記にかかる費用
①登録免許税
登録免許税とは、登記を申請するときに国に納める税金のことで、平たく言えば登記申請時にかかる手数料のようなものです。
税額は土地や建物の「固定資産税評価額」に税率(1000分の4)をかけて算出します。
- 登録免許税=不動産の固定資産税評価額 × 税率0.4%(1000分の4)
例えば、固定資産税評価額が1000万円の土地であれば、登録免許税は4万円となります。
「固定資産税評価額」とは、固定資産税や都市計画税を算出するための基準となる土地や建物の価格のことで、自治体から毎年郵送されてくる固定資産税の納税通知書を見ればわかります。
手元に納税通知書がない方は、固定資産評価証明書を取得することで確認することができます。
「固定資産税評価額」は、不動産の「実勢価格」や「固定資産税課税標準額」とは異なりますので、混同しないようにご注意ください。
②登記事項証明書などに関する費用
戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍や、不動産の登記事項証明書の取得、必要書類の郵送にかかる費用も発生します。取得する量によって変動しますが、数千円〜1万円程度かかることは想定しておいた方が良いでしょう。
③司法書士に支払う報酬
相続登記の手続きを司法書士に依頼する場合は、別途報酬が発生します。報酬として5万円〜10万円程度はかかると想定しておきましょう。
もちろん、司法書士が定めている料金体系や、不動産の数などにより金額は変動します。具体的な金額を知りたいときは、司法書士に見積りを依頼してください。
5. 相続税申告における不動産評価額
不動産の相続税評価は、土地と建物で評価方法が異なります。正確な評価が相続税の軽減にもつながるため、適切な知識が必要です。
(1)土地の評価方法
①路線価方式
市街地や宅地で多く採用される方法です。国税庁が定める路線価(道路ごとに定められた1平方メートルあたりの価格)を基に計算します。地形や間口、奥行などの補正が加わり、より実態に即した評価になります。
②倍率方式
路線価が設定されていない地域で採用されます。固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価します。倍率は国税庁が地域ごとに定めており、毎年更新されます。
(2)家屋の評価方法
家屋は、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。評価額は各市町村が3年ごとに見直すため、相続時には最新の評価額を確認することが大切です。
(3)居住用の区分所有財産(マンション)の評価方法
マンションなどの区分所有建物は、共用部分を含む評価が必要です。土地部分の評価は敷地権割合で按分し、建物部分は固定資産税評価額を基準にします。
特例として、小規模宅地等の評価減(最大80%減額)が適用できる場合もあるため、条件を満たすか確認する必要があります。
6. 不動産相続時に頼るべき専門家は?
不動産の相続には法律、税務、登記など多岐にわたる知識が必要です。以下の専門家に相談することで、安心して手続きを進められます
(1)弁護士
遺産分割や遺留分をめぐって相続人間でトラブルが発生している場合や、遺言の有効性を巡って争いがある場合は、弁護士に相談すべきです。
争いごとになっていなくても、法定相続分で適切に遺産分割を進めるためのお手伝い、遺産分割協議書の作成、相続放棄の手続きなどを依頼することもできます。
専門知識が豊富で、できることが多いという特徴がありますので、迷ったらまずは弁護士に相談してみると良いでしょう。
(2)司法書士
司法書士は、特に相続登記の手続きにおいて頼れる存在です。複雑な書類の作成や法務局への申請を代行してもらえるため、手続きのミスを防ぐことができます。
(3)税理士
相続税の申告・納付には税理士のサポートが不可欠です。相続発生前の段階でも、不動産の評価や特例適用など、節税の観点から専門的な助言を受けることも期待できます。
特に高額な不動産を相続しそう、あるいは相続した方は、できるだけ早めに相談するのが賢明です。
(4)不動産会社
不動産の評価や売却に関しては、不動産会社に相談するのが適切です。市場価格の査定や売却の手続き、仲介業務などを依頼できます。換価分割を考えている場合には特に有用です。
また、相続をきっかけに田舎の実家が空き家になってしまい、都心で暮らしている相続人が使う予定もない、といったケースでも、空き家を直接買い取ってくれるなどして力になってくれる不動産会社も存在ます。
7. まとめ|不動産相続時の煩雑な手続きは専門家に相談を
不動産の相続は、手続き、費用、書類、評価と多くの要素が絡み合い、非常に煩雑です。
一人で進めるには限界があり、誤った手続きや評価ミスは後々大きなトラブルに発展しかねません。
各専門家の協力を得ることで、正確かつ円滑な相続手続きを実現できます。少しでも不安を感じたら、早めに専門家に相談することが、円満な相続への第一歩となるでしょう。