相続で家や土地などの不動産を引き継いだ場合は、その価値を正確に把握するため、プロに査定の依頼をしたい方も多いでしょう。
この記事では、不動産の査定方法や、相続後の分割方法について詳しく解説します。
1. 相続した家の査定は受けたほうがよい?
相続した家の査定は、遺産総額の正確な把握と円滑な相続手続きのために重要な役割を果たします。
まずは、なぜ査定を受けたほうがよいのかについて確認しておきましょう。
(1)公平に遺産分割するため
相続人が複数人いる場合に、相続人間で遺産を分け合うことを遺産分割といいます。そして、遺産分割の話し合いのことを「遺産分協議」といいます。
遺産分割協議では、次のようなことを相続人全員で話し合います。
この遺産分割協議を円滑に進めるためには、どのような遺産があって、それぞれどれくらいの価値があるのかを把握しておくことが大切です。
特に不動産においては、客観的な価値評価があることで、相続人全員が納得できる分割方法を模索することができます。
不動産は遺産において大きな割合を占めることが多いため、価値を正確に把握することが非常に重要なのです。
不動産の分け方についてはこの記事の後半で解説します。
【注意】相続した不動産のローンが残っているケース
住宅ローンが残っている不動産を相続したら、まずは被相続人が団体信用生命保険(いわゆる「だんしん」)に加入済みかを確認します。
もし加入していない場合、相続人が住宅ローンの残債を引き継がなければなりません。
このとき、不動産の価値がローンの残債を下回る(オーバーローン)場合は、実質マイナスの財産を相続することになります。
できれば、相続開始前に不動産の価値とローン残債の金額を把握して、相続人全員で今後の対応を検討しておきたいところです。
(2)相続放棄すべきか判断するため
相続財産に含まれている家が老朽化した空き家であるケースなどは、相続しない方が経済的な損失を避けられるケースもあります。
仮に不動産に一定の価値があったとしても、それを上回る借金やローンなどが相続財産に含まれていれば、相続放棄をした方が得であることもあるでしょう。
このように、そもそも相続すべきか、相続放棄をすべきかといった判断を適切に行うには、不動産の客観的価値を把握することが前提となります。
そのためには、不動産の査定をする必要があります。
(3)結論:次のような人は査定を依頼しよう
結論として、次のような方は相続した不動産(あるいは近々相続することになりそうな不動産)の査定をしておいた方が良いでしょう。
反対に、次のような方は査定をしなくても良いと思います。
2. 不動産の査定方法は?
不動産の査定方法には主に3つの方法があり、それぞれの特徴と目的に応じて使い分けられます。相続した不動産の価値を知るために、適切な査定方法を選択しましょう。
(1)ネットで簡単「簡易査定」
不動産の無料査定は、不動産売買の仲介手数料等で利益を上げる不動産会社の営業活動の一環として行われており、広く利用されています。
不動産会社が無料で行う査定には、大きく「簡易査定」と「訪問査定」の2種類あります。
簡易査定(机上査定)とは、不動産を売却する際に、過去の売買データ等をもとにして不動産の価値を査定する方法です。
一方、訪問査定は、担当者が現地を訪問し、必要項目を詳細に確認して算出します。
簡易査定(机上査定)は、不動産会社の担当者が現地に赴く訳ではありませんので、依頼者の立会なども不要です。物件の所在地などの必要事項を入力すれば、自宅からネットで査定を依頼できます。
不動産一括査定サイトを使えば、一度の情報入力で、複数の不動産会社に対して査定を依頼することもできますよ。
(2)不動産会社の担当者が現地に行く「訪問査定」
訪問査定とは、不動産仲介会社の担当者等が直接現地に行き、所有者へのヒヤリングのほか、物件の状態、隣地との境界など細かな点を確認したうえで査定する方法です。
現地を直接見て細かな状態を確認・評価できる分、簡易査定よりも査定額の精度が高くなるというメリットがあります。
一方で、スケジュール調整やヒヤリングなどが必要となるため、依頼者にも一定の負担があります。費用は無料で行われるのが一般的です。
簡易査定よりも正確な価格を知りたい場合は、訪問査定の利用を検討しましょう。
(3)不動産鑑定士が行う「不動産鑑定」
より専門的で信頼性の高い評価を得たい場合は、不動産鑑定士による不動産鑑定を行います。不動産鑑定士は国家資格であり、土地や建物の価値を判定する専門家です。
作成される不動産鑑定評価書には公的な書類としての証明力と法的責任があり、相続の場面でも高い信頼性があります。
費用は一般的に20万円~30万円程度かかるため、目的に応じて利用を検討しましょう。
例えば、調停や訴訟において不動産評価額に争いがあり、ある程度費用をかけてでも厳密に算出する必要があるケースなどに利用されます。
3. 相続した不動産の分割方法は?
では、相続した不動産を分割するには、どのような方法をとればよいのでしょうか。
相続した不動産の分割方法にはいくつか種類がありますが、相続人の状況や希望に応じて選択する必要があります。ここからは、各方法のメリットや特徴について解説します。
(1)現物分割
現物分割とは、相続財産を現状のままの形で相続人に分配する方法です。
例えば、土地や建物は子が引き継ぎ、預貯金や株式は配偶者が相続するなど、財産の種類ごとに分ける方法があります。
また、一つの土地を相続人の人数分に分筆して各自所有する方法もあります。この分割方法は、相続人がそれぞれ不動産を保有・活用したい場合におすすめです。
(2)代償分割
代償分割は、相続人の一人が不動産を取得し、他の相続人に金銭を分配して公平性を保つ方法です。
例えば、相続人Aが3000万円相当の不動産を取得し、他の相続人BとCに、それぞれ1000万円ずつ支払うようなイメージです。
そうすることで、不動産を売却せず、かつ複雑な共有状態も避けつつ、相続人間で公平に分けることができます。
不動産を売却して現金化したくない場合や、特定の相続人が不動産を利用したい時に有効な方法です。
公平性を保つ前提として、不動産の価値を正しく評価し、適切な代償金額を設定する必要があります。
(3)換価分割
換価分割は、相続した不動産を売却した上で、得られた代金を相続人で分配する方法です。
現金に換えることで細かな金額調整ができるため、相続人同士で平等に分配できるメリットがあります。
現金化すれば相続税の支払いもしやすくなるでしょう。
ただし、不動産を手放すことになる点や、売却時に税金が発生する可能性があります。税気についてわからないことがある方は、自己判断で行動せず、税理士に相談しましょう。
(4)共有分割
共有分割は、複数の相続人同士で不動産を共有名義とする方法です。
不動産を複数人で平等に分けることはできますが、後から物件を売りたくなったときには、共有者全員の同意が必要となります。
また、物件を賃貸に出す際にも名義人全員の同意が必要となることがあります。
このように、理論上は平等に分けられる方法ではあるものの、相続人全員で将来的な不動産の利用方法や管理方法について十分に話し合い合意できていないと、後からトラブルになってしまうこともあるでしょう。
そのため、相続人全員の関係性が良好で、将来的な利用方法について合意が得られる場合に適しています。
4. 相続した不動産にかかる税金は?
相続した不動産にはさまざまな税金がかかります。トラブルを避けるためにも、相続した不動産にかかる税金について理解しましょう。
(1)相続税
相続税は、現金や有価証券だけでなく、不動産・生命保険金・みなし相続財産など、被相続人から相続したすべての財産に課せられる税金です。相続税の申告と納付は、原則として「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」にする必要があります。
相続税は、すべての相続に適用されるわけではありません。
相続財産の総額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えなければ相続税は課税されません。
相続税を計算するときは、相続により取得した土地や家屋を評価する必要があります。ただし、相続税の計算をするときは、不動産会社に依頼した査定価格を使うわけではありません。
土地と家屋の評価額はそれぞれ次の方法で算定します。
- 土地は「路線価方式」または「倍率方式」により評価します。
- 家屋の評価額は「固定資産税評価額」と同じです。
(2)登録免許税
登録免許税は、相続登記の際に必要となる税金です。
相続登記にかかる登録免許税の税率は、不動産の固定資産税評価額に0.4%をかけた金額です。
相続した不動産の名義変更には必ず発生する費用のため、相続手続きの費用として事前に計算しておくことをおすすめします。
登記申請の際には登録免許税を納めるのが原則ですが、相続登記を促進するために登録免許税の免税措置が定められています。
次の3つのパターンのいずれかに該当する場合、登録免許税が非課税となります。
ただし、現状、令和7年3月31日までの期限付きの免税措置となっている点にご注意ください(期限が延長される可能性もあります。)。
- 相続により土地を取得した人が相続登記をしないまま死亡した場合
- 評価額が100万円以下の土地について相続登記をする場合
- 表題部所有者のみが登記された評価額100万円以下の土地について相続人名義で所有権保存登記をする場合
免税措置の対象となるのは「土地」に限られ、「建物」の相続は対象外です。
なお、不動産を相続した場合は速やかに所有権移転登記をする必要があります。
我が国では、これまで相続登記をせずに放置してしまう方が多かったことから、2024年4月1日より相続登記が義務化されました。
覚えておきたい主な内容は次のとおりです。
- 相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
- 遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
- 上記1と2のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象となります。
正当な理由とは、例えば、相続人が極めて多数にのぼり戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなどが想定されます。
(3)固定資産税
固定資産税は、毎年1月1日時点での不動産所有者に課せられる税金です。納付額は、不動産所有者宛てに送付される固定資産税納税通知書に記載されています。
なお、相続登記を適切に行わないと、固定資産税の納税通知書が前所有者宛てに送られ続けるなど、税金の支払いに関する問題が起きます。
このようなトラブルを防ぐためにも、早めの相続登記手続きを行いましょう。
5. まとめ
不動産を相続した場合や、これから相続することになりそうな場合、まずは不動産会社に査定をお願いしてみましょう。そうすることで、そもそも相続すべきか判断したり、遺産分割協議を円滑に進めるのに役立ちます。
査定結果に基づき、相続人全員で十分な話し合いを行い、それぞれの事情や意向に沿った分割方法を選ぶことで、相続をスムーズに進めることができます。
また、不動産は相続して終わりではありません。相続登記のことや、相続税・固定資産税などの税金のことも考えなければなりません。ときには複雑な法律や税務の専門知識を求められることも多いため、不安な点があれば専門家に相談することをおすすめします。