相続財産の中でも、不動産は分け方が難しくトラブルの原因になりやすい財産です。不動産の遺産分割には複数の方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
本記事では、相続実務経験者の目線から、不動産の遺産分割方法をわかりやすく解説します。
1. 相続した不動産の分け方は大きく4つ
不動産の遺産分割には次の4つの方法があります。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有
状況に応じて適切な分割方法を選ぶことが重要です。以下、各方法の具体例やメリット・デメリットについて解説します。
2. 「現物分割」は不動産をそのまま引き継ぐ
現物分割とは、不動産をそのままの形で相続人に分ける方法です。実物を、共有状態にせずに分ける点がポイントです。
(1)現物分割のわかりやすい具体例
たとえば、相続人が2人いて、土地Aを長男に、土地Bを長女に分けるようなケースです。
また、100坪の土地を持つ被相続人が亡くなり、相続人が2人いる場合、50坪ずつに分筆して相続人それぞれが単独で所有するのも現物分割です。
(2)現物分割のメリット
現物分割には次のようなメリットがあります。
- 不動産をそのまま使用できる
- 不動産の売却を避けられるため、思い出の場所を守れる
- シンプルでわかりやすい
(3)現物分割のデメリット
現物分割には次のようなデメリットがあります。
- 欲しい土地の奪い合いや、不要な土地の押し付け合いになりやすい
- (分筆の場合)分筆できない地形や法規制のある土地では実施困難
- (分筆の場合)測量費用や分筆登記費用などがかかる
3. 「代償分割」は代償金を支払って調整する
代償分割とは、一人の相続人が不動産を取得し、他の相続人には金銭でその分を補う方法です。
(1)代償分割のわかりやすい具体例
土地と建物の評価額が4000万円で、相続人が2人いる場合、Aが全ての不動産を相続し、Bに対して2000万円の代償金を支払う方法です。
(2)代償分割のメリット
代償分割には次のようなメリットがあります。
- 相続人の一人が住み続けることができる
- 不動産の売却が不要なため、感情的対立を避けやすい
- 分割手続きが比較的スムーズ
(3)代償分割のデメリット
代償分割には次のようなデメリットがあります。
- 代償金の用意が必要で、相続人の資金力に差がある場合は困難
- 不動産の評価額を巡って争いが起きやすい
4. 「換価分割」は売却してお金を分ける
換価分割とは、不動産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。
(1)換価分割のわかりやすい具体例
3000万円の不動産を売却して、相続人3人が1000万円ずつ取得するのが換価分割です。不動産を利用しない場合や、現金化して均等に分けたい場合に選ばれます。
(2)換価分割のメリット
換価分割には次のようなメリットがあります。
- 公平に現金で分けられる
- 不動産の利用や管理の手間から解放される
- 相続税納税資金を確保しやすい
(3)換価分割のデメリット
換価分割には次のようなデメリットがあります。
- 市場価格によっては予想よりも低く売れる可能性
- 売却までに時間がかかる
- 売却益に課税される可能性(譲渡所得税)
5. 「共有」は複数人で不動産を所有する
共有とは、不動産を相続人全員が持分に応じて共同所有する方法です。分筆のように、不動産を物理的に分けるわけではありません。協議がまとまらない場合の暫定的な手段としても使われることもあります。
(1)共有のわかりやすい具体例
3人の相続人が、一つの不動産を、1/3ずつの持分で相続するケースです。登記上もそれぞれの持分が明記されます。
(2)共有のメリット
共有には次のようなメリットがあります。
- 公平性が担保される
- 話し合いがまとまらない時の一時的対応として使える
(3)共有のデメリット
共有には次のようなデメリットがあります。
- 利用や処分に他の相続人の同意が必要で身動きが取れなくなる
- 将来的に権利関係が複雑になりやすい
- 次世代にわたって共有が続くとトラブルが増加する
6. 相続人間で相談して適切な分割方法を選ぶ
不動産の分割は相続人間の話し合いで決めるのが原則です。感情的対立を避けるためにも冷静な対話が重要です。
(1)皆でしっかり話し合うのが基本
相続人全員で、それぞれの希望や事情を尊重した話し合いを行うことが重要です。公平感と納得感のある協議がトラブル予防につながります。
もちろん、現実に集まって会議する必要はなく、メールや電話、オンライン会議などを使っても構いません。
(2)意見がまとまれば遺産分割協議書を作成
協議の結果は文書にまとめて「遺産分割協議書」を作成しましょう。遺産分割協議書は、不動産の相続登記や、金融機関の手続きで必要となります。
遺産分割協議書に法律上決まった書式などはなく、PCなどを使って作成して構いません。ただし、物件の表示などを正確に記載していなかったり、署名押印(実印)が漏れていたりすると、相続登記などができないことがあります。
できれば、弁護士等の専門家に正確なものを作成してもらった方が良いでしょう。
遺産分割協議書の書き方や記載例については、下記の記事で詳しく解説しています。
(3)相続登記も忘れずに
令和6年(2024年)4月1日に相続登記を義務化する法律が施行されました。覚えておきたい主な内容は次のとおりです。
- 相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
- 遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
上記1と2のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象となります。
正当な理由とは、例えば、相続人が極めて多数にのぼり戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなどが想定されます。
7. 意見が合わなければ遺産分割調停・審判で決める
遺産分割協議で合意が得られない場合には、家庭裁判所での手続きを利用します。
(1)遺産分割調停とは
調停とは、家庭裁判所に申立てを行い、調停委員を介して話合いを進める手続きです。調停委員をという第三者の関与により、冷静な話合いが期待できます。
調停の中で合意に至れば調停調書が作成され、その内容に従って遺産を分け合うことになります。
遺産分割調停の申立て方法や、当日に具体的に何をするのかについては、下記の記事詳しく解説しています。
(2)遺産分割の審判とは
遺産分割調停の結果、一向に意見がまとまらなかったり、当事者が欠席を繰り返したりすると、調停は「不成立」となり終了し、審判手続に移行します。
審判手続きでは、裁判官が資料に基づいて不動産の分け方を判断し、法的拘束力のある審判を下します。不動産の評価額が争点になっていれば、裁判所が不動産鑑定を命じることもあります。
裁判所が下した内容が記載された「審判書」によって、不動産の名義変更などができるようになります。
8. まとめ|不動産を含む遺産分割は弁護士に相談を
不動産の遺産分割は、法律や税務、不動産評価など専門的な知識が求められる分野です。
トラブルを未然に防ぎ、公平で納得できる分割を実現するためにも、早めに弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。