遺留分を支払わないとどうなる?訴訟提起される可能性あり。対応方法を解説

元弁護士

山内 英一

遺留分を支払わないとどうなる 遺留分

遺留分を巡るトラブルは、他の遺産相続関連のトラブルと同様に感情的になりやすい類型です。

遺留分を支払いたくないと考える方もいるかもしれませんが、支払わない場合は訴訟等の争いに発展するリスクがあります。

本記事では、遺留分を請求された側の視点で、実際に支払わなかった場合に起こりうる問題や、適切な対応方法を詳しく解説します。

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1. 「遺留分を請求される」とはどういう状況?

遺留分の請求は、相続開始後、遺言書の内容に従った遺産の分配では不公平だと感じた相続人から行われます。請求の段階ごとに対応方法やリスクが異なります。

(1)内容証明郵便が届く

遺留分侵害額請求の初期段階として、内容証明郵便で遺留分侵害額の支払いを求める通知が届くことがあります。

これは相手方が正式に請求の意思を示す手段であり、無視すると次の段階(調停等)に進む可能性があります。

突然内容証明郵便が届いてびっくりしてしまう方も多いと思いますが、遺留分侵害額請求の比較的初期段階ですから、話合いの余地は十分にある状況と考えて良いでしょう。

(2)調停を申し立てられる

内容証明での請求に応じない場合や、裁判所外での話合いでは解決しないと考える場合には、遺留分権利者が、家庭裁判所に調停を申し立てることがあります。

調停は家庭裁判所で行う話し合いの場です。調停委員という第三者が中立的な立場で介入してくれるため、裁判所外で素人同士で話し合うよりも、トラブルが解決する可能性が高まります。

調停の申立ては自力で行えますが、申立ての時点で弁護士をつける方も多いでしょう。

内容証明郵便が届いたことがないのに、いきなり調停を申し立てられたときは、“相手方が裁判外での話合いによる解決に期待していない状況”と捉えて良いかもしれません。

(3)訴訟を提起される

調停でも解決しなければ、高い確率で遺留分侵害額請求訴訟を提起されるでしょう。訴訟では裁判所が評価額や法的妥当性を審査し、最終的な判断を下します。

法律上、遺留分侵害額請求事件は、訴訟の前に調停を先行させるべきとされています(調停前置主義)。

したがって、基本的には調停が行われ、解決しなかった結果として訴訟を提起されるケースが多いでしょう。

ただし、話合いの余地が全くなく、調停が成立する見込みがないことが明らかな場合には、調停を経ずに訴訟を提起しても良いとされることもあります。したがって、突然訴訟から始まるケースもないわけではありません。

2. 遺留分を侵害しているなら支払わなければならない

遺留分は法的に認められた最低限の遺産の取り分であり、これを侵害している場合は請求に応じて支払う義務があります。

遺言や生前贈与が有効だとしても、法定相続人の遺留分は法律で保護されているため、請求内容が法的に正当である限り、遺留分の請求は拒否できません。

3. 遺留分を支払わないとどうなる?

遺留分請求に対して支払いをしない場合、法的手続きが進み様々なリスクを負うことになります。具体的には調停や訴訟が進行し、財産が差押えられる可能性があります。

(1)支払わないと調停や訴訟に発展する

遺留分の請求を無視したり支払いを拒否したりすると、相手は家庭裁判所で調停を申し立て、解決を目指します。

調停でも解決しない場合は訴訟へと進み、裁判所の判断で支払い命令が出されます。

(2)財産が差し押さえられる可能性も

最終的に裁判で遺留分支払いが認められた場合、支払い義務を履行しなければ、給与や銀行口座にある預貯金、不動産などの財産が差押えられる可能性があります。

4. 反論の余地があるかは必ず検討する

正当な請求には応じなければなりませんが、遺留分請求をされた際には「無条件に支払うべき」というわけではありません。

支払う前に、反論の可能性を慎重に検討することはとても重要です。請求者側の誤解や計算違いがある場合も想定されるからです。

(1)相手は本当に遺留分権利者か?

まず、大前提として、請求している相手が法的に遺留分を持つ相続人かどうかを確認しましょう。

たとえば、被相続人の兄弟姉妹や甥姪には遺留分が認められません。

遺留分侵害額を請求できるのは、被相続人の「配偶者」「直系卑属(子どもや孫)」「直系尊属(父母や祖父母)」に限られます。

(2)相手は生前贈与を受けていないか?

遺留分算定の基礎となる財産には生前贈与も含まれます。

生前贈与とは、被相続人が生きているうちに、被相続人が自分の財産を他の人に無償で渡す行為のことです。

遺留分侵害額請求をしてきた相手方が生前贈与を受けている場合、既に受け取っている分を差し引いた上で遺留分の請求をしているのか、確認が必要です。

(3)遺留分の計算方法は正確か?

遺留分の計算過程はとても複雑です。弁護士に相談するなどして、正しく計算されているか必ず検証しましょう。間違いがあれば反論材料になります。

(4)不動産の評価額は適切か?

遺産に不動産が含まれている場合、不動産評価額の算定方法は争いが生じやすいポイントです。

特に、最初の請求時点では、請求者側にとってとても有利になるような評価額で算定されていることが多いでしょう。

不動産が相場に合わない金額で評価がされていないか必ず確認してください。

(5)遺留分侵害額請求権は時効で消滅していないか?

遺留分の請求権には時効があります。

遺留分侵害額請求権は、

  • ①遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間 または、
  • ②相続開始の時から10年

で消滅しますので、該当しないか確認しておきましょう。

遺留分侵害額請求権の時効の起算点や数え方については、下記の記事で詳しく解説しています。

5. 遺留分侵害額請求された場合の流れ

遺留分請求があった場合の一般的な対応や流れを説明します。

(1)示談交渉をする

まずは当事者間で話合いを行い、解決を図ります。具体的には、上記の反論の余地がないか一つずつ確認した上で、支払う必要がないことを主張したり、妥当な金額を提示したりします。

当然ながら、正確な反論をするためには、弁護士を介入させた方が良いでしょう。

(2)調停を申し立てられた場合の対応

調停に出席して双方の合意を目指す

調停は家庭裁判所で行う話合いの場です。双方が出席し、調停委員と呼ばれる第三者に間に入ってもらい、合意点を探ります。

場は異なりますが、やるべきことは交渉のときと同じです。適切な反論をしつつ、落とし所を探していきます。

後述する訴訟ほど厳格な手続きではないものの、自身に有利な結論を得るためには、法律や裁判例に基づいた反論を行う必要があります。

弁護士に相談・依頼した方が良いでしょう。

調停に欠席すると調停は不成立で終了する

調停に欠席し、調停に応じる意思がないと判断されると、調停は不成立となり終了します。

調停が成立しない場合は仮差押えされる可能性

調停が不成立の場合、相手が訴訟を提起をするとともに、仮差押えの申立てをすることがあります。

仮差押えとは、金銭債権の回収を目的として、債務者の財産を一時的に差し押さえ、債務者がその財産を勝手に処分できないようにする手続きです。

これにより財産が一時的に凍結される恐れがあります。

したがって、安易に調停を放棄せず、しっかりと話合いに応じる姿勢を見せましょう。

(3)訴訟を提起された場合の対応

法的に意味のある反論をする

訴訟でも、単に拒否するだけでなく、法律や裁判例に基づいた反論を行う必要があります。また、自身の主張を裏付ける証拠の提出も必須です。

訴訟は、弁護士の協力が不可欠と考えた方が良いでしょう。

請求が認められれば財産を差し押さえられる

裁判所が請求を認めた場合、こちらが不服を申し立てなければ支払い義務が確定します。

判決内容に従って金銭を支払わなければ、強制執行による差押えが行われます。例えば、給与や銀行口座にある預貯金、不動産などの財産が差押えられてしまいます。

6. 遺留分を請求された場合にやるべきこと

遺留分請求を受けた際の最善の対応は、冷静に相手の主張を把握し、法的に正しいか検証した上で専門家に相談することです。

(1)請求者が求める内容や理由をしっかりと聞く

まずは請求者が求める内容とその理由を聞くことがスタートです。請求の根拠や金額、計算過程など、請求内容を正確に理解しましょう。

(2)請求者の主張が法的に正しいのかしっかりと確認する

計算方法や権利関係の確認を行い、不当な請求でないか判断します。よくある反論内容は、先に述べたとおりです。

(3)弁護士に相談するのが賢明

突然金銭を請求されたら、驚いてしまう方も多いでしょう。遺産相続関係の法律や裁判例は難解なことも多い上、不安な気持ちから精神的にダメージを負ってしまう方も少なくありません。

そのようなときこそ、まずは法律の専門家である弁護士に相談してください。今置かれている状況や、今後どのようになっていくかを整理してもらうだけでも、ずっと楽な気持ちになるはずです。

7. まとめ|遺留分を請求されたら弁護士に相談を

遺留分の支払いを拒否すると、調停や訴訟、財産差押えなど法的トラブルに発展するリスクがあります。

一方で、不当な請求に対しては反論の余地もあるため、まずは冷静に内容を精査し、早めに弁護士へ相談することが最善の対応です。

専門家の助言を得ることで、円満な解決を目指しましょう。

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