遺産分割協議や、遺産分割協議書の作成には明確な期限が定められているわけではありません。
しかし、遺産分割に関連する手続きには期限があるため、放置すると大きな不利益につながってしまうことがあります。
この記事では、遺産分割協議をいつまでに行うべきか、スケジュール例を交えて詳しく解説します。
Q. 遺産分割協議の実施や遺産分割協議書の作成に期限はありますか?
A. 法的には、遺産分割協議の実施や遺産分割協議書の作成に直接的な期限はありません。
ただし、相続税の申告や相続登記といった関連手続きには明確な期限が設けられています。そのため、実務上はできるだけ早期に協議を終えるのが望ましいでしょう。
1. 遺産分割に期限はないが、早めが良い理由
遺産分割協議の実施には明確な法的期限はありませんが、遅れることによって発生するリスクや不利益があります。
(1)民法改正で特別受益と寄与分が10年に制限
2023年の民法改正により、特別受益や寄与分の主張には「相続開始および共同相続人を知ってから10年以内」という期間の制限が設けられました。(民法903条、民法904条の2、民法904条の3)
特別受益とは、一部の相続人が被相続人から生前に財産を受け取っていた場合に、すでに財産を受け取った相続人が相続する財産を少なく算定する制度です。
寄与分とは、被相続人の療養看護をするなどして、被相続人の財産の維持・形成に貢献した相続人がいる場合に、財産の維持形成に貢献した相続人が相続する財産を多く算定する制度です。
相続開始の時から10年が経過すると、実際に特別受益や寄与分があったとしても、遺産分割において考慮されなくなってしまうため、不公平な遺産分割になるおそれがあります。
(2)記憶や資料がなくなってしまうリスク
遺産分割協議では、相続人それぞれの主張や被相続人の生前の状況を把握する必要があります。
しかし、人は時間が経つほど記憶が薄れていきますし、資料は散逸していきます。
遺産分割協議は、記憶が鮮明で、資料を取得しやすい時期に実施した方が円滑に進むでしょう。
(3)相続登記には3年の期限がある
令和6年(2024年)4月1日に相続登記を義務化する法律が施行されました。覚えておきたい主な内容は次のとおりです。
- 相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
- 遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
上記1と2のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象となります。
正当な理由とは、例えば、相続人が極めて多数にのぼり戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなどが想定されます。
遺産分割協議中は、相続人全員が法定相続分で不動産を共有している状態となりますので、遺産分割が未了の場合でも、まず3年以内に法定相続分で相続登記を行う必要があります。その後遺産分割が完了したら、遺産分割の内容に従って再び登記の手続きを行います。
そうであれば、早期に遺産分割を完了させ、二度手間を避けた方が良いでしょう。
(4)相続税の申告には10ヶ月の期限がある
相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
相続税の申告は、全てのケースで行わなければならないわけではありません。相続税の要否は、遺産の合計金額が、基礎控除額である「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超えるかどうかが一つの目安となります。
超えそうな場合は、相続税の申告が必要となる可能性がありますので、税理士に相談をしましょう。
なお、相続税の申告の期限は上記のとおり10ヶ月ですが、税理士に依頼するタイミングが遅いと、税理士に支払う費用が高くなる(追加料金が発生する)のが一般的です。
そのため、税理士への相談は遅くとも6ヶ月以内にした方が良いでしょう。
(5)相続放棄には3ヶ月の期限がある
そもそも遺産を相続したくない人は、遺産分割協議に参加せず、相続放棄をしてしまう選択も検討すべきです。
相続放棄は「自己のために相続開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述しなければなりません。
つまり、3ヶ月の期限内に、遺産を把握し、相続放棄をするのか、相続をすること前提に遺産分割協議に参加するのかを判断しなければなりません。
2. いつまでに遺産分割協議をすると良いか
遺産分割協議そのものに期限がないとはいえ、実務上はスムーズに協議を進めていくための目安を持っておくことが重要です。
(1)相続人と相続財産の調査は速やかに着手
相続手続きの第一歩として、誰が相続人なのか、遺産には何があるのかを明らかにする作業が必要です。戸籍の収集や金融機関・法務局への照会などに時間がかかるため、死亡後すぐに着手すべきです。
前述の通り、相続放棄をするのであれば、「自己のために相続開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」に家庭裁判所に書類を提出しなければなりませんのでご注意ください。
(2)6ヶ月を目処に終わらせるのが目安
一つの目安としては、被相続人の死亡から6ヶ月以内に遺産分割協議を終えられると良いでしょう。それより早く完了できるのであれば、それに越したことはありません。
とはいえ、ご親族が亡くなられたときには、他にもやることがたくさんありますので、優先順位をつけて一つ一つこなしていきましょう。
ご家族が亡くなった際のやることリスト(PDFあり)は下記の記事で無料公開していますので、ぜひ参考にしてください。
遺産分割協議(どの遺産を誰が相続するのかの話合い)が完了したら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書は、後のトラブルを防止する効果があるだけでなく、相続登記等の手続きで必要になりますので、必ず作成しておきましょう。
遺産分割協議書の書き方や記載例は、下記の記事で詳しく解説しています。
(3)合意がまとまらなそうなら早めに弁護士に相談すべき
相続人間で主張が対立する場合、話し合いが長期化しやすくなります。感情的な対立が深まる前に、早期に専門家を介入させることで円満な解決につながるケースが多くあります。
3. 遺産分割協議書に有効期限はあるか
少し視点は変わりますが、作成した「遺産分割協議書」に、有効期限のようなものはあるのか、という点についてお話します。
結論として、一度適法に作成された遺産分割協議書に有効期限はありません。
ただし、記載内容や署名・押印の形式に不備があると、相続登記の申請や税務手続きで受け付けられないことがあります。
その場合は、遺産分割協議書を作り直すことになりますので、最初にしっかりと不備のないものを作ることを心がけてください。
4. まとめ|遺産分割で困ったら弁護士に相談を
遺産分割協議や協議書作成には法的な期限はありませんが、関連する相続登記や相続税の申告には厳格な期限が設けられています。
遺産相続は、適切な時期に手続きを進めることで、不要なトラブルを回避できます。
遺産分割の合意がまとまらない、相続人が多い、不動産の処理に悩むといった場合は、経験豊富な弁護士への相談を検討してください。