遺産分割調停とは?申立て方法や手続きの流れを経験者が解説

元弁護士

山内 英一

遺産分割調停とは 遺産分割

相続人間で遺産の分け方について合意できない場合、家庭裁判所で行う「遺産分割調停」が有効な手段となります。

本記事では、調停の基本的な仕組みや流れ、メリット・デメリット、申立て方法から、実際の進め方までを実務経験に基づいて詳しく解説します。

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1. 遺産分割調停とは

遺産分割調停とは、家庭裁判所で中立な第三者である調停委員を交えて相続人同士が話し合い、遺産の分け方を決める手続きです。

遺産分割調停の目的は、対立する相続人同士の意見を調整し、公平で納得できる形で遺産を分けることにあります。

2. 遺産分割調停が利用される場面

遺産分割調停は、相続人の間で話し合いがまとまらない場合や、連絡が取れない相続人がいる場合に利用されます。

特に、相続財産に不動産が含まれている場合や、相続人が複数いるケースでは、調停を利用される方が多い印象です。

3. 遺産分割調停のメリット

(1)公平な第三者が間に入ってくれる

調停では、家庭裁判所の調停委員(専門的知識を有する第三者)が中立的な立場で相続人間の意見を整理し、解決に導いてくれます。

感情的な対立が激しい場面でも、冷静な議論が進めやすくなる点が大きな利点です。

(2)裁判のように厳格でない

調停はあくまで話し合いの場であり、必ずしも訴訟のような厳密な証拠提出や手続きが求められるわけではありません。

比較的柔軟に進められるため、精神的・時間的負担を軽減できます。

4. 遺産分割調停のデメリット

(1)時間がかかることが多い

調停は一日で結論が出ることは少なく、1~2か月に一度のペースで、複数回行われます。そのため、合意までに半年以上かかることも珍しくありません。

複雑な事案では、10回近い回数を重ねるケースも存在します。

(2)自分の主張がすべて通るわけではない

話し合いによる合意が目的である以上、相手の意見も尊重されます。

自分にとって不利な条件で折り合いをつけざるを得ない場面もある点は留意が必要です。

 5. 遺産分割調停を申し立てる方法

(1)申立て先となる家庭裁判所

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が申立て先となります。

裁判所の管轄は家庭裁判所のウェブサイトで確認できます。

(2)申立てにかかる費用

調停申立てには収入印紙(1,200円程度)と郵便切手代(数千円)が必要です。

印紙代は全国一律ですが、切手代は裁判所によって異なるため、事前に申立先となる家庭裁判所に確認しましょう。

(3)必要書類

①遺産分割申立書・当事者目録・遺産目録・親族関係図

「遺産分割申立書」と、それに付属する「当事者目録」「遺産目録」「親族関係図」により、調停の対象となる遺産、相続人の範囲や関係を裁判所に説明します。

②添付書類(戸籍謄本等)

  1. 被相続人の出生から死亡までの連続した除籍謄本、改製原戸籍謄本等戸籍謄本類全て
    (1)相続人が配偶者・子・親の場合
      ・被相続人の出生から(被相続人の親の除籍謄本又は改製原戸籍等)死亡までの連続した全戸籍謄本
    (2)相続人が(配偶者と)兄弟姉妹の場合
      ・上記(1)のほかに、被相続人の父母の出生から(被相続人の父方祖父母及び母方祖父母の除籍謄本又は改製原戸籍等)死亡までの連続した全戸籍謄本
    (3)相続人のうちに子又は兄弟姉妹の代襲者が含まれる場合
      ・上記(1)(2)のほかに、本来の相続人(子又は兄弟姉妹)の出生から死亡までの連続した全戸籍謄本
  2. 被相続人の住民票除票(廃棄済の場合は戸籍の附票)
  3. 相続人全員の現在の戸籍謄本(取得から3か月以内のもの)
  4. 相続人全員の住民票(取得から3か月以内のもの)

などが必要となります。そのほか、遺産に不動産が含まれる場合には、

  • 登記簿謄本又は登記事項証明書
  • 固定資産税評価証明書

なども必要となります。

必要書類は揃えるのに時間がかかることもあるため、早めの準備が肝心です。

 参考:遺産分割手続の申立てに必要な書類について(名古屋家庭裁判所の場合)

6. 遺産分割調停の流れ

(1)遺産分割調停の期間と回数

一般的に、1回の調停は1~2時間程度で、1~2か月に1回の頻度で数回実施されます。

3回〜5回程度で成立することが多いですが、複雑な場合は10回以上かかることもあります。

(2)当日に裁判所でやること

①相続人の範囲の確認

戸籍謄本等をもとに、調停委員が法定相続人を確認します。

②遺言の有無の確認

遺言がある場合、その内容が遺産分割に優先されるため、事前に確認が行われます。

③遺産の範囲の確認

相続財産の内容(不動産、預貯金、株式など)を調停委員が確認します。

④不動産等の遺産の評価の確認

不動産については、固定資産評価証明書や不動産の査定資料などをもとに、評価額を確認します。

⑤特別受益や寄与分の確認

生前贈与や相続人の貢献などがある場合、各相続人の公平な分配のために調整が行われます。双方当事者の主張とともに、それを裏付ける資料や根拠についても確認します。

⑥各相続人の取得財産の確定

①〜⑤の議論をふまえ、最終的な取得分について各相続人と協議し、合意を目指します。

①〜⑤のような議論のすべてを1日で完結させることは現実的ではなく、数回に分けて一つずつ議論していきます。

(3)待合室で待機し、呼ばれたら部屋に入って調停委員と会話

当日は、相続人同士が顔を合わせずに済むよう、別々の待機場所が用意され、交互に部屋に呼ばれるのが一般的です。

調停委員が個別に事情を聴き、順次意見を調整していきます。

(4)調停が成立した場合

全員の合意が得られたら「調停調書」が作成され、調停は終了します。

この調停調書が法的な効力を持ちます。具体的には、調停調書を不動産の名義変更などの手続きに利用することになります。

(5)調停不成立の場合は審判に移行

調停での話し合いで合意に至らなければ、調停は「不成立」として処理され、「遺産分割審判」に移行します。審判では、裁判官が法的な観点から、分割方法を決定します。

 7. 遺産分割調停についてよくある質問

(1)調停期日に欠席するとどうなるか

当事者が欠席すると話合いを進めることができませんので、期日が延期されるのが一般的です。

急な予定が入るなどして出席できない場合には、あらかじめ裁判所に電話して事情を伝えましょう。正当な理由であれば期日の調整等をしてくれることがあります。

正当な理由なく欠席し続けるなどして、調停を進める意思がないと判断された場合には、調停は不成立として処理され、遺産分割審判に移行します。

なお、調停に欠席したこと自体に対する罰則(罰金など)はありません。

(2)代理人(弁護士)だけ出席することは可能か

調停は、本人が出席するのが原則です。弁護士を代理人として立てていれば、弁護士のみが出席することも可能です。特に、身体的・精神的な理由で出席できないは有効な手段といえるでしょう。

当然ながら、本人に確認を取れていない事項を、弁護士が勝手に合意することはできませんので、弁護士に依頼している場合であっても、弁護士と本人とで一緒に調停に出席した方が話はスムーズに進みます。

(3)遺産がいらない場合どうしたらよいか

相続放棄や遺産分割協議で「取得しない」意思を表明することで対応可能です。

相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に対して、相続放棄の申述をする必要がありますのでご注意ください。

(4)遺産分割調停と審判の違い

調停は話し合いによる合意が目的ですが、審判は合意できなかった場合に裁判官が一方的に判断を下す手続きです。

8. 遺産分割調停を有利に進めるコツ

(1)感情的にならず冷静に話をする

相続は感情が絡みやすい問題ですが、冷静な対応が最も重要です。調停委員に誠実で理性的な印象を与えることで、主張が受け入れられやすくなります。

(2)法的に正しい主張を正確に伝える

法律に基づいた合理的な主張は、調停委員や裁判所にも評価されやすくなります。事前に専門家と相談し、的確な準備をして臨むことが重要です。

9. 調停の手続きは弁護士に依頼した方が良い?

(1)調停は弁護士が関与していることが多い

令和3年に終結した遺産分割事件の総数は、6996件。そのうち、約85%にあたる5939件では代理人弁護士が関与していたとの統計があります。

■代理人弁護士の関与の有無(総数6996件)
あり:5939件
なし:1057件
弁護士の関与割合:84.89%(約85%)

逆に言えば、約15%の遺産分割事件については、代理人弁護士が関与せずに、当事者のみで調停や審判が進められているようです。

参考:令和3年司法統計年報 3家事編

(2)調停を弁護士に依頼するメリット

メリット①:申立ての手続き等面倒な作業を任せられる

遺産分割調停の手続きを理解し、必要書類を収集するだけでも意外と大変です。

弁護士に依頼すれば、申立書はもちろん、戸籍謄本等の必要書類や、自身の主張を裏付ける資料等の準備・提出をすべて任せられます。

メリット②:法律や裁判例に基づいた正しい主張ができる

調停や審判を有利に進めるためには、法律や裁判例、学者の見解など、法的な根拠に基づいた主張が欠かせません。そして、このような主張を一般の方が適切に行うことは現実的ではありません。

弁護士に依頼すれば、法律や裁判例に基づいた正しい主張ができます。

メリット③:代理人として出席してもらえる

本人が調停に出席できない場合でも、代理人として弁護士が対応することで手続きが滞ることを防ぐことができます。

メリット④:調停を早く進められる

弁護士に依頼して法的論点の整理や調整を行うことで、本質的な議論に調停の時間を割くことができます。

その結果として、自身で対応した場合と比較して、調停の回数や期間を短縮できる可能性があります。

(3)遺産分割調停の弁護士費用の相場

遺産分割調停の弁護士費用は、

  • 着手金(契約時に必ず支払う費用)と
  • 報酬金(得られた結果によって金額が変動する費用)

に分けられているのが一般的です。

着手金は20~40万円、報酬金は得られた経済的利益の10~20%程度が相場です。合計で、少なくとも50万円以上はかかるものと考えておいた方が良いでしょう。

ただし、事案の複雑さや事務所の費用設定によって金額は異なるため、複数の事務所に相談して依頼先を決めると良いでしょう。

10. まとめ|遺産分割調停は弁護士に依頼を

遺産分割調停は、相続人同士で話し合いが困難な場合に有効な手続きです。ただし、手続きや書類の準備には専門的な知識が必要な場面も多くあります。

トラブルを防ぎ、円滑に進めるためにも、早い段階で弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

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