遺産相続では不動産が財産の大部分を占めるケースも多く、特に遺留分の問題が発生した際には、その不動産の評価方法が大きな争点になります。
本記事では、遺留分の基本的な算定方法から、不動産の具体的な評価方法、そして相続人間のトラブルを防ぐための実務的ポイントまで、わかりやすく解説します。
1. 遺留分の算定方法
遺留分とは、被相続人が残した遺言などで財産の大部分を特定の人物に渡そうとしても、相続人が最低限度で請求できる相続財産の割合のことです。
この遺留分が侵害されているとき、金銭を請求する権利のことを「遺留分侵害額請求権」と呼びます。
遺留分は、法定相続分のうちの一定割合と決まっており、
- 直系尊属のみが相続人である場合は1/3
- それ以外の場合は1/2
が基準になります。遺留分の金額を求めるには、まず相続財産の総額を評価し、そのうちの遺留分割合に相当する金額を算出します。
2. 不動産は「評価額」を出して遺留分侵害額を算定する
遺留分を金銭で請求するとき、その前提として、相続財産の価値を明確にする必要があります。特に、不動産はその評価額によって遺留分侵害額が大きく変動するため、正確な算定が求められます。
相続財産としての不動産は、現金のように額面が決まっていないため、何らかの「評価基準」に基づいて金額を算出する必要があります。
この評価方法次第で、遺留分の金額も変動することから、遺産分割における最大の争点の一つとなり得るのです。
3. 不動産の評価方法5つ
不動産の評価には、主に次の5つの方法があります。それぞれの特徴と相違点を押さえておきましょう。
(1)時価(実勢価格)
時価とは、実際の不動産市場において売却されると見込まれる価格です。近隣の類似物件の売却事例や、不動産業者の査定などを基に判断します。
最も現実的な価格ではあるものの、時点や根拠によって大きく変動するため、争いのもとになりやすい評価方法でもあります。
(2)路線価
国税庁が毎年公表する路線価は、相続税や贈与税の算定に用いられる評価基準です。
主に市街地にある土地について道路に面する価格が示され、固定資産税評価額よりも高い傾向があります。一般的には、時価の80%程度とされています。
(3)固定資産税評価額
市町村が課税のために決定する評価額で、固定資産税の基礎になります。評価額は時価の70%程度であることが多いとされています。
(4)公示価格
国土交通省が毎年発表する土地の価格です。毎年定められた場所の価格が公表されるため、地価の変動が分かりやすく、土地の売買や資産評価の目安として活用されています。
実勢価格に近い金額になりやすい評価基準です。
(5)不動産鑑定評価額
不動産鑑定士による鑑定評価額は、法律上の専門家が根拠ある方法で算定した評価額です。
最も信頼性が高い反面、費用と時間がかかるため、調停や訴訟段階などの最終局面で用いられることが多い評価額です。
4. 遺留分侵害額請求における不動産の評価方法
遺留分侵害額請求において不動産の評価方法は極めて重要な意味を持ちます。では、実務上はどのような評価方法が用いられるのでしょうか。
(1)「この評価方法でなければならない」という決まりはない
大前提として、遺留分算定において、不動産の評価方法は法律で明確に定められていません。
そのため、当事者間で合意すれば、どの評価基準を採用してもかまいません。合意が得られない場合には、裁判所が事情を考慮して判断します。
裁判実務では、様々な指標を用いて時価を算定するのが一般的です。
(2)遺留分を請求する側は「できるだけ高い評価方法」で請求することが多い
遺留分侵害を受けた側は、自身が受け取る金額を増やすために、不動産の評価額をできるだけ高く見積もろうとする傾向があります。
たとえば、不動産会社に査定を依頼し、より高く算定された時価を主張することなどが考えられます。
(3)遺留分を請求される側は「できるだけ低い評価方法」で反論することが多い
逆に、遺留分を請求された相続人や受遺者は、支払額を抑えるため、固定資産税評価額などを基準に、低めに算定した金額を主張することが多いでしょう。
(4)話し合いや調停では中間の評価額に落ち着くことが多い
不動産の評価額をめぐって意見が対立する場合、当事者間の話し合いや家庭裁判所での調停では、中間的な価格で合意に至るケースが多く見られます。
例えば、双方が提示する金額の間をとって合意したり、公示価格を用いたりするケースなどがあります。
(5)厳密に評価するなら不動産鑑定を実施
双方の主張が真っ向から対立し、話し合いでの解決が難しい場合には、不動産鑑定士に鑑定を依頼することもあります。
不動産鑑定では、第三者的かつ客観的な金額が示されますから、裁判でも強い証拠になります。
5. 遺留分のトラブルは不動産の評価方法が争点になりやすい
ここまでの説明からもわかるように、
- 不動産は現金のように金額が明確でないこと
- 不動産の評価方法や指標には様々なものがあり、評価額に幅が出やすいこと
- 不動産は高額であることが多く、不動産の評価額によって遺留分侵害額が大きく変わりうること
から、遺留分のトラブルにおいては、不動産の評価方法が争点になりやすいのです。
評価額について合意が得られず、調停や訴訟に発展することも多々あります。その際は、上記の評価方法のどれを採用するかが重要な論点となるため、慎重な対応が求められます。
6. まとめ|遺留分の交渉は弁護士に任せるのが良い
不動産の評価基準についての知識や、現実的な範囲で最も自身に有利な主張の相場感などは、実務経験がなければ得られない部分も多く、自身で全て対応するのは困難です。
少しでも多く遺留分を請求したい、あるいは、請求された遺留分を少しでも減額したいという方は、弁護士に相談することをおすすめします。