抵当権とは
抵当権とは、銀行や金融機関から住宅ローン等を借り入れるときに、購入した不動産(土地や建物)に設定される権利のことです。
抵当権は担保の一種で、借入れの返済ができなくなったとき、抵当権者(銀行や金融機関)はその不動産を競売にかけ、換金されたお金の中から優先的に弁済を受けることができます。
「抵当権」と聞くと、何やら難しいようにも聞こえますが、身近なところでも利用されています。典型例は、ローンで住宅を購入する際に設定される抵当権です。
住宅を購入する際、購入者は購入資金を銀行から借りることが多いと思います。この時に、担保としてその住宅に抵当権を設定すれば、その住宅に住みながら借金(ローン)を返済していくことができます。
銀行側から見ると、もし購入者がローンの返済を怠ったとしても、その住宅を強制的に競売にかけ、売却代金から優先的に弁済を受けることで債務を回収できます。
このように、購入者と銀行側の双方にメリットがあるため、一般的に利用されているのです。
相続財産の不動産に抵当権が付いている場合にやるべきこと
亡くなられた方(被相続人)が残した不動産に抵当権が付いている場合があります。
よくあるのは、被相続人がローンで自宅を購入(この時に抵当権が設定されます)し、ローンの完済前に死亡してしまったというケースです。
このような場合、まずは焦らず、抵当権の内容や現在の状況を確認しましょう。
(1)不動産の登記事項証明書を確認する
まずは、相続財産に含まれる不動産の登記事項証明書を取得します。土地の登記と建物の登記は別々に管理されていますので両方取得しましょう。
不動産の登記事項証明書は、法務局や郵送での交付請求のほか、オンラインでの取得も可能です。ご自身で取得するのが難しい場合は、司法書士に依頼して取得してもらいましょう。
不動産の登記事項証明書のうち、「権利部(乙区)」という部分に抵当権に関する事項が記載されています。ここには、抵当権が設定されていることのほか、誰が誰に対し債務を負い、いくら担保するためにその抵当権が設定されたのか、といった内容も記載されています。
(2)債務の金額を債権者に確認する
上記の通り、登記の内容を確認しました。しかし、登記に記載されている債務の金額は、抵当権が設定された当時の金額です。
月々の住宅ローンを支払っていた場合など、相続発生時に残されている債務がわずかに過ぎないという場合もあり得ます。例えば、3,000万円のローンで家を購入して抵当権を設定した場合、登記には債務額「3,000万円」と記載されています。しかし、現時点では残ローンが500万円となっていることもあります。
したがって、債権者(銀行や金融機関)に連絡をし、相続発生時点での債務(残ローン)の金額を確認する必要があります。「相続発生時点」というのは、被相続人の死亡した日のことです。
相続財産の金額を正確に把握するために、借入金の「残高証明書」等、書面の形で取得するのが理想的です。「残高証明書」等の取得には、戸籍謄本等の書類が必要になることが通常ですので、その点も金融機関に確認しましょう。
負債が資産を上回る場合は相続放棄を検討
通常通り相続すると、相続人は、被相続人の財産(負債を含む)を全て引き継ぐことになります。プラスの財産はもちろん、借金等のマイナスの財産も引き継ぐことになるのです。
そこで、まずやるべきことは、相続発生時点(被相続人の死亡時点)の財産状況の把握です。
抵当権が付いている不動産についての残ローン金額の他、不動産そのものの評価額、預貯金、他の借入れ等を可能な限り調べる必要があります。
その上で、負債(借入等のマイナスの財産)の金額が、資産(プラスの財産)よりも上回る場合、そのまま相続すると経済的に損をすることになってしまいますので、相続放棄を検討しましょう。
資産が負債を上回る場合は通常通り相続しても良い
資産(プラスの財産)の金額が、負債(借入等のマイナスの財産)の金額よりも上回る場合は、相続放棄をせずに通常通り相続をしてもよいでしょう。
立地などの条件によっては、抵当権が付いている不動産の評価額が住宅ローンの残高を上回る場合もあります。このような状況を「アンダーローン」といいます。
そのような場合は、相続することを前提にその不動産を売却し、債務を弁済することも考えられます。
「相続財産の不動産に抵当権が付いている」=「債務があるので相続放棄すべき!」と安易に考えると、かえって損をしてしまうこともあるので慎重に判断することを心がけましょう。
相続放棄しない場合はどうする?
相続放棄をせず不動産を売却する場合は、不動産会社に相談をしてみましょう。不動産の評価額を査定してもらった会社に売却の相談をするのも一つの方法です。
相続放棄をせず不動産の売却もしない場合には、相続人がローンの支払いをしていくことになります。
相続人が複数人いる場合には、債務は法定相続分に従って分割され、各人が各人の割合を支払っていくことになります。
相続人のうち一人が家を相続して利用することになったからといって、その相続人が自動的に住宅ローンの全額を引き継ぐわけではないという点に注意しましょう。
相続人間で遺産分割協議を行ない、「家の利用者が住宅ローンの全額を支払う」旨の合意がなされたとしても、その内容を債権者(銀行等)に対抗することはできません。
これができてしまうと、支払能力のない相続人に債務を集中させて自己破産するなど、明らかな借金逃れができてしまうためです。
もっとも、「家の利用者が住宅ローンの全額を支払う」という内容について、債権者の承諾が得られれば、問題ありません。現実的には、このように処理されることが一般的なようです。
債権者の承諾が得られるかは、住宅ローンを支払う相続人の返済能力にかかっています。
相続放棄をすると決めた場合はどうする?
相続放棄をすると決めたら、できるだけ早いタイミングで手続きを進めていきましょう。
相続放棄ができる期間は限られています。期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」です(民法915条1項)。
もしこの期間内に相続放棄をしないと、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。つまり、通常通り相続することになりますので、抵当権付きの不動産や残ったローンの支払義務も引き継ぐことになります。
相続放棄のやり方については下記の記事で詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。