相続が発生すると、故人が残した財産を相続人で分け合う必要があります。この分け方を決めるのが「遺産分割」です。
この記事では、遺産分割の基本的な手続き内容、相続登記の方法、よくあるトラブルへの対処法などを、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
Q. 遺産分割とは何ですか?
A. 遺産分割とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を相続人間で分ける手続きです。
被相続人が遺言書を残していた場合は原則としてその内容に従いますが、遺言書がない場合や、遺言書に記載のない遺産を分ける場合などには遺産分割を行います。
遺産分割をするには相続人全員の合意が必要で、合意が得られなければ遺産分割調停や審判に発展することもあります。
1. 遺産分割の手続き3パターン
遺産分割には大きく分けて3つの方法があります。
(1)遺産分割協議
相続人全員が話し合って遺産の分け方を決める方法です。合意内容は「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名押印します。
最も一般的な手続きですが、相続人同士で意見が対立する場合には難航することもあります。
遺産分割協議書の書き方や記載例にいては、下記の記事で詳しく解説しています。
(2)遺産分割調停
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。調停では、中立的な立場である調停委員が間に入り、相続人同士の話し合いを支援します。
最終的に合意に至れば、法的な効力を持つ「調停調書」が作成されます。調停調書があれば、その内容に従った相続登記等の手続きを進めることができます。
遺産分割調停において具体的に何をするのかなど、詳細については下記の記事で紹介しています。
(3)遺産分割審判
調停でも合意ができないときは、調停は不成立となり終了します。その場合、最終的には裁判官が遺産の分け方を決定します。これが「審判」です。
2. 不動産の遺産分割方法4種類
遺産分割で特に揉めやすいのは、遺産に不動産が含まれるケースです。不動産をどのように分けるかは、遺産分割において重要なポイントとなります。
遺産相続時の不動産の分け方には、主に4つの方法があります。
(1)現物分割
不動産をその形のまま、誰かに配分する方法です。例えば、不動産Aは長男が、不動産Bは次男が取得するようなイメージです。
シンプルですが、全く同じ価値の不動産はまず存在しませんので、相続人の間で公平に分けるのが難しい場合があります。
預貯金などの他の遺産があれば、それをもって差額を調整することはできます。
(2)換価分割
不動産を売却してしまい、得られた代金を相続人で分ける方法です。現金化されるため分割が容易かつ公平ですが、売却の手間や市場価格の変動がデメリットとなります。
(3)代償分割
1人の相続人が不動産を相続し、その代わりに他の相続人に現金などを支払う方法です。共有を避けつつ、公平性を保てます。
ただし、相続人に代償金を支払うだけの資力がなければ、この方法を取ることは困難です。
(4)共有分割
不動産を相続人全員で共有名義とする方法です。公平であり、登記手続きなども簡単な反面、後々の売却や利用で意見が割れて、身動きが取れなくなるリスクがあります。
3. 遺産分割協議の流れ
協議による遺産分割は次のような流れで行われます。
(1)相続人が誰か確認する
戸籍謄本を収集し、法律上の相続人を確定します。漏れがあると遺産分割協議が無効になってしまい、多くの時間・労力・お金が無駄になってしまうリスクがありますので、慎重に確認する必要があります。
(2)遺言書の有無を確認する
次に、遺言書が残されているかを確認します。遺言書が見つかった場合は、原則としてその内容に従って遺産を分け合うことになります。
遺言書には「公正証書遺言」や「自筆証書遺言」などの種類があります。
自筆証書遺言の場合は、遺言書を開封しない状態で、家庭裁判所での「検認」という手続きを経る必要があります。
- 遺言書が見つからなかった場合
- 遺言書はあったが、遺言書に記載されていない遺産が存在する場合
には、遺産分割協議を行なって遺産の分け方を決めていきます。
(3)相続財産を確認する
預金・不動産・株式など、被相続人が持っていた財産をすべて洗い出し、一覧化します。借金なども含め、プラス・マイナス両方の財産を網羅的に確認します。
不動産の登記事項証明書、通帳の履歴、証券会社の取引明細などの書類を収集しておくと、後の協議がスムーズになります。
預貯金のなどの財産は、基本的に“被相続人の死亡日”を基準にして計算します。
(4)誰が何を相続するか話し合う(遺産分割協議)
相続人全員で話し合い、合意を形成します。公平性を保つために弁護士のアドバイスを受けることも有効です。
分け方は基本的に自由ですが、法定相続分を基準に考えると公平な分割を実現できるでしょう。
(5)合意した内容を遺産分割協議書に記載する
話し合いで合意に至った内容をもとに、遺産分割協議書を作成します。取得する財産を具体的に記載し、署名押印をすれば完成です。
この書面が、後の名義変更などの手続きで必要になるため、内容に誤りがないか最終確認をしっかり行いましょう。
遺産分割協議書の書き方や記載例は、下記の記事で詳しく解説しています。
(6)話がまとまらない場合は調停を申し立てる
意見が対立するなどして遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てて解決を図ります。
4. 遺産分割調停について
調停は裁判所を通じて話し合いによる解決を目指す制度です。以下、詳しく見ていきましょう。
(1)「調停」は家庭裁判所で合意形成を目指す手続き
中立な立場の調停委員が関与し、当事者間の話合いをサポートします。柔軟な解決が期待できます。場所は、家庭裁判所で行います。
(2)遺産分割調停に必要な書類
遺産分割調停を申し立てるには、遺産分割申立書、戸籍謄本、相続関係説明図、財産目録などの書類が必要です。
(3)遺産分割調停の申立て費用
収入印紙代(1,200円〜)、郵便切手代、書類取得費用などがかかります。比較的安価に申立てることができます。
(4)遺産分割調停にかかる期間
相続人の人数や争点によって変動します。一般的には、約半年〜1年程度かかるケースが多いでしょう。
(5)調停を弁護士に依頼するメリット
調停や審判では、自身の感情的な主張よりも、法律や裁判例に沿った主張ができるかが鍵となります。また、主張するだけではなく、その主張を裏付ける証拠も需要です。
弁護士に依頼することで、自身に有利な主張や証拠を調査・整理してもらうことができます。そうすることで、自身で対応するよりも、有利な結果が得られる可能性が高まります。
そのほか、事情により自身が調停に出席できなくても、弁護士が代理人として出席して調停を進められるなどのメリットもあります。
遺産分割調停で具体的にどのようなことを行うのかなど、詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
5. 遺産分割審判について
調停が不成立となった場合、裁判官が遺産の分割方法を決定する「審判」に移行します。
審判では、裁判所の判断により法的拘束力のある結論が出され、それに従った強制執行も可能となります。
6. 相続登記(不動産の名義変更)はどうやる?
不動産を相続したら、法務局で名義変更(相続登記)を行う必要があります。遺産分割協議を経て相続登記を行う場合の必要書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
- 被相続人の除籍謄本や戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍の附票
- 法定相続人の戸籍謄本
- 法定相続人の印鑑証明書
- 固定資産課税明細書
- 法定相続人のうち新しく所有者になる人の住民票
遺産分割協議の内容に従って相続登記をするのか、遺言書の内容に従って相続登記をするのかなどによって、必要書類は異なります。
相続登記に必要な書類に関する詳しい情報は、「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」など、法務省の最新の案内を確認してください。
なお、相続登記の申請は自分で行うことも可能ですが、司法書士や弁護士に依頼することで確実かつスムーズに進めることができます。
7. 遺産分割に関するよくある質問と回答
Q. 遺産分割協議書の作成は絶対に必要?
A. 遺産分割協議の内容に従って不動産の相続登記(名義変更)をしたい場合や、預貯金の払い戻し等を行いときに必要となります。
後々のトラブルを防止するためにも、しっかりと作成しておくことをおすすめします。
Q. そもそも遺産を受け取りたくない場合はどうする?
A. 相続放棄や、遺産分割協議で「取得しない」意思を表明することで対応可能です。
相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に対して、相続放棄の申述をする必要がありますのでご注意ください。
Q. 生前に被相続人の世話をしたから遺産を多くもらえる?
A. 「寄与分」として他の相続人より多く取得できる可能性があります。遺産分割調停や審判で寄与分を認めてもらうためには、その主張を裏付ける具体的な事情や証拠が必要です。
Q. 生前に財産をもらっている人がいた場合の遺産の分け方は?
A. 「特別受益」として考慮した上で、遺産を公平に分けることが考えられます。特別受益として認められる見込みや具体的な計算方法などは、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
Q. 連絡のとれない相続人を除いて遺産分割しても良い?
A. 遺産分割をするためには、原則として全員の合意が必要です。したがって、連絡のとれない相続人を除いて勝手に遺産分割をすることはできません。
どうしても連絡が取れない人がいる場合は「不在者財産管理人」の選任を検討します。
相続人が行方不明で遺産分割協議できないときにも、不在者財産管理人を選任すれば、代わりに遺産分割協議に参加してもらって相続手続きを進めることができます。
ただし、不在者に不利な遺産分割協議はできない点や、不在者財産管理人への報酬が発生する点などには注意が必要です。
Q. いらない不動産はどうすれば良い?
A. 「相続土地国庫帰属制度」により、一定条件のもと国に引き取ってもらう制度があります。また、空き家買取サービス・引取りサービスなどを利用して手放す方法もあります。
Q. 遺言書の内容と異なる遺産分割をしても良い?
A. 被相続人が遺言において遺産分割を禁じている等の事情がなく、相続人全員が合意できるのであれば、遺言書の内容と異なる遺産分割をすることも可能と考えられています。
一部の裁判例においても、相続人全員で遺言と異なる内容の遺産分割協議を認めたものがあり、実務上も同様の取扱いとなっています。
ただし税務上の取り扱いには注意が必要です。
参考:No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税
Q. 遺言の内容が不公平な場合はどうすれば良い?
A. 自己の最低限保証されている取り分を請求する「遺留分侵害額請求」ができるか検討してみましょう。
8. まとめ|遺産分割で困ったら弁護士に相談を
遺産分割には、協議から調停、審判まで様々な過程があり、状況に応じて最適な選択が求められます。
遺産分割は、相続人同士で感情的な対立が生じやすい分野です。お困りの方は、法律の専門家である弁護士のサポートを受けることで、円滑かつ納得のいく解決を図りましょう。