生活保護受給者でも相続放棄できる?遺産相続の方法や相談先も元弁護士が解説

元弁護士

山内 英一

生活保護 相続放棄に関するコラム

生活保護受給者が相続人となった場合、相続放棄はできるのでしょうか。また、相続した場合や相続放棄をした場合に、生活保護の受給資格はどうなるのでしょうか。この記事では、相続放棄の可否や生活保護の受給資格への影響について、専門家監修のもと解説していきます。

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1. 生活保護受給者でも相続放棄はできる

結論として、生活保護受給者であっても相続放棄をすることはできます。ただし、生活保護の受給資格に影響を与える可能性がある点には注意が必要です。以下、順に解説します。

(1)生活保護受給者でも相続放棄することは可能

生活保護受給者であっても相続放棄をすることはできます。法律で定められた期間内に必要書類を家庭裁判所に提出さえしてしまえば、不備がない限り相続放棄は受理されるでしょう。

少なくとも、「生活保護受給者であることを理由に、家庭裁判所が相続放棄を受理しない」ということはないでしょう。

ただし、相続放棄そのものが可能であるとしても、相続放棄をしたことによって生活保護の受給に影響を与える可能性はあります。

特に、「相続放棄をしたことによって生活保護が打ち切られてしまった。」という事態に陥らないように注意が必要です。

(2)相続放棄をすることで生活保護が打ち切られる可能性がある

相続放棄をすること自体は可能ですが、場合によっては相続放棄をしたことが原因で生活保護が打ち切られてしまう可能性があります

特に、遺産の中に生活を維持するために活用できる財産があるにも関わらず、あえてそれを放棄して相続しないようにしてしまうと、生活保護が停止・廃止されてしまうリスクがあります。

なぜなら、後ほど詳しく解説する「生活保護の受給資格」には、「その利用し得る資産等あらゆるものを活用すること」という条件があるからです。

ここにいう「あらゆるもの」には、相続によって得られる遺産も含まれているでしょうから、「相続して遺産をしっかりと活用してください」という話になってしまうのです。

(3)相続放棄をしても生活保護が打ち切られないケース

逆に言えば、遺産の中に活用しうる財産がない場合には、相続放棄をしても問題ないでしょう。

例えば、次のようなケースでは、相続放棄をしても生活保護は打ち切られないと考えられます。

  • 相続財産の中に借金やローンなどのマイナスの財産があり、マイナスの財産の金額がプラスの財産の金額を上回っている。
  • マイナスの財産はないものの、プラスの財産もほとんど無いに等しい。
  • プラスの財産として土地や建物があるものの、地方の山林や老朽化した空き家などであり、資産として活用することが見込めない。

上記のようなケースに該当しそうであれば相続放棄も検討してみましょう。

2. 生活保護者の相続放棄の手続き

相続放棄の手続き自体は、そこまで複雑なものではありません。「被相続人が死亡したことを知った日から3ヵ月以内」に、必要な書類を収集・作成し、管轄の家庭裁判書に提出すればOKです。

生活保護を受給しているからといって、相続放棄の手続き方法や必要書類が変わるわけではありません。

ただし、相続放棄の手続きでは、戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍などの見慣れない書類を、不足なく制限期間内に集めなければなりません。

そういう意味では、手続きが難しく感じる方もいらっしゃるでしょう。自分でやるのが難しいと感じた場合には、専門家に相談するようにしましょう。

相続放棄の手続きの流れや必要書類、費用については下記の記事に詳しくまとめています。

3. 生活保護受給者でも遺産は相続できる

故人の遺産を相続できる権利そのものは、生活保護受給者であることを理由に失われるわけではありません。つまり、生活保護を受給していたとしても、遺産を相続することはできます。

ただし、遺産の内容によっては、相続することで生活保護の受給資格を失ってしまう可能性があります。この点について詳しく解説していきます。

(1)生活保護の受給資格とは

まず、生活保護の受給資格を再確認しておきましょう。
生活保護を受ける資格は、次の条件を満たす人に与えられます。

生活保護の受給資格
  • ①生活に困窮する者であること
  • ②その利用し得る資産等あらゆるものを活用すること
  • ③扶養義務者の扶養などを受けても生活に困窮すること

この資格は、生活保護法に規定されています。

4条1項「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」
4条2項「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」

生活保護法

(2)相続財産の額によっては生活保護の受給が停止・廃止になる可能性がある

生活保護を受給している方が相続する場合には、相続財産(遺産)全体の金額を把握することがとても重要です。

なぜなら、多額の財産を相続し、先ほど確認した生活保護の受給資格を得るための条件を満たさなくなってしまうと、生活保護が打ち切られてしまう可能性があるからです。

遺産を相続したことで最低限度の生活を維持することができるようになったのであれば、「保護を必要としなくなったとき」生活保護法26条)に該当し、生活保護は停止または廃止されることになるでしょう。

なお、生活保護の「停止」と「廃止」は意味合いが異なります。簡単にいうと、「停止」は一時的に生活保護の支給がストップする状態、「廃止」は生活保護の受給資格を失う状態です。

もし停止や廃止まではいかなかったとしても、支給される額が少なくなる可能性もあるでしょう。

(3)遺産が少額であれば、生活保護の受給を続けられる

一方で、遺産を相続したとしても、その金額が少なければ、引き続き生活保護の受給を続けられる可能性もあります。

相続した遺産の合計金額が少なければ、生活が困窮している状況に変わりはなく、「保護を必要としなくなった」とはいえないからです。

このように、「相続したら直ちに生活保護の受給がストップしてしまう」とか、「相続しても生活保護に全く影響はない」などと言い切れるものではなく、個別のケースに応じた判断がなされることを覚えておきましょう。

(4)生活保護の受給を続けられる「少額の財産」はいくら?

では、相続しても生活保護の受給を続けられる「少額の財産」とは具体的にいくらなのでしょうか。

この点について、どのくらいの金額を相続すると生活保護が停止・廃止されるという明確な基準は決まっていません。

しかし、次の運用は一つのヒントになりそうです。というのも、生活保護の停止や廃止の判断について、次のような方針で運用されている地域もあるようです。

  • 臨時的な収入の増加があった場合、6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想される場合は生活保護を「停止」する。
  • 臨時的な収入の増加があった場合、約6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるときは生活保護を「廃止」する。

例えば、生活保護の金額が1ヶ月あたり10万円だったとします。この人が相続で100万円を取得するとなれば、10ヶ月分の生活保護費に相当しますので、生活保護が「廃止」されると考えられます。

一方で、同じく生活保護を1ヶ月あたり10万円支給されている人が、相続で30万円を取得するしても、その金額は3ヶ月分の生活保護費に過ぎませんので、生活保護が「廃止」される可能性は低いでしょう。
ただし、生活保護が一時的に「停止」されたり、一定期間受給金額が減額される可能性はあるでしょう。

4. 生活保護受給者が遺産を相続する場合の手続き

生活保護受給者が遺産を相続する場合には、次のような流れで手続きを進めていきます。

(1)福祉事務所等への届出を行う

生活保護受給者は、収入・支出その他生計の状況について変動があったときは、速やかに保護の実施機関または福祉事務所長へその旨を届け出なければなりません(生活保護法61条)。

このように、生活保護受給者は、収入が発生した場合に福祉事務所やケースワーカーに報告をすることが法律で義務付けられています。もちろん、相続による収入もこれに該当します。

届け出は、相続により最低限度の生活ができるほどの収入があったときだけでなく、わずかな臨時収入にとどまる場合であっても必要です。

報告せずに生活保護を受給し続けていた場合は不正受給にあたり、受給した全額または一部に最大40%を上乗せした額を徴収されてしまいます(生活保護法78条)。

(2)遺言書の有無を確認する

次に、亡くなられた方(被相続人)が、遺言書を残していないか確認します。

被相続人が遺言書を残している場合は、基本的に遺言書の内容に従って遺産を分けることになります。遺言書の内容によっては、自分が取得する財産の額が想定よりも多くなったり、少なくなったりすることがあるので注意しましょう。

遺言書は、被相続人が自分で保管していることもあれば、公証役場や法務局の遺言書保管所で保管してもらっていることもあります。

したがって、被相続人の自宅を探すだけでなく、公証役場や法務局にも照会をおこない、遺言書が保管されていないか確認した方が良いでしょう。

なお、被相続人が自分で保管していた遺言書を見つけたとしても、勝手に開封してはいけません。開封しないまま保存し、家庭裁判所での「検認」(民法1004条1項)手続きを行わなければならないので注意しましょう。

(3)遺産分割協議・調停・審判

遺言書が存在しない場合、あるいは、遺言書によって分け方が指定されていない遺産がある場合は、遺産をそのように分けるか相続人間で話し合うことができます。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

遺産分割協議の結果によっては、自分が取得する財産の額が多くなったり少なくなったりします。

協議(話し合い)がまとまらなければ、裁判所での手続きである調停や審判に進展することもあります。

なお、生活保護の受給を維持することを目的として「一切財産をもらわない」とする遺産分割協議をしてしまうと、生活保護が打ち切られてしまう可能性もありますので注意しましょう。

(4)金融機関での相続手続き・不動産の相続登記など

遺言書の内容や遺産分割協議の内容にしたがって、財産を分ける手続きを進めていきます。例えば、預貯金については金融機関での相続手続き、不動産については相続登記の手続きが必要になります。

預貯金の相続手続きの方法や必要書類などは、金融機関によって異なります。まずは対象となる金融機関に問い合わせて、手続きの流れを教えてもらいましょう。

不動産の相続登記の手続きについては、自分で行うこともできますが、登記の専門家である司法書士にお願いするのが一般的です。

5. 相続に関して、生活保護が停止・廃止される可能性が高い行為4つ

生活保護受給者が相続人となったとき、次のような行為をしてしまうと、生活保護が停止・廃止される可能性が高いといえるでしょう。

(1)相続財産を受け取ったことを福祉事務所に報告しなかった

繰り返しになりますが、生活保護受給者は、収入が発生した場合に福祉事務所やケースワーカーに報告をすることが法律で義務付けられています。たとえ相続した金額が少額であっても必ず報告が必要となります。

  • 生活保護の受給額に影響がありそうだから報告しないでおこう
  • 大した金額じゃないので報告しなくてもバレないだろう

などと考えて報告を怠ると、見つかったときに生活保護が打ち切られてしまう可能性があります。

報告を怠ったまま受給した保護費は「不正受給」にあたります。受給した全額または一部に最大40%を上乗せした額を徴収されてしまうこともあるので、しっかりと報告するようにしてください。

(2)生活保護が不要になるほどの遺産を相続した

ケースワーカーへしっかりと相談・報告したとしても、相続した財産の金額によっては、生活保護が停止・廃止されることがあります。

支給が一度ストップすることを意味する「停止」の場合は、資金が尽きたときに受給を再開してもらえるでしょう。

多額の遺産を相続しても、相続発生直後にいきなり生活保護が打ち切り(停止・廃止)になることはないでしょう。

なぜなら、行政側が生活保護を打ち切りとするかどうか判断するために、相続した財産の種類や金額、世帯・家族の人数、健康状態、生活状況等を考慮する時間が必要となるからです。

なお、生活保護が打ち切りになった場合、相続発生後に支給された保護費については、後日返還を求められる可能性があります。

(3)相続すれば遺産を得られるのに、生活保護の受給を目的として相続放棄をした

この記事で解説したとおり、生活保護の受給資格には、「その利用し得る資産等あらゆるものを活用すること」という条件があります。

したがって、相続すれば当面の生活費を賄うことができるのに、あえて相続放棄したり、一切財産をもらわないとする遺産分割協議をしてしまうと、生活保護が打ち切られてしまう可能性があります。

相続放棄を検討する場合は、事故判断で行動する前に、ケースワーカーや弁護士等の専門家に相談するようにしてください。

(4)近いうちに相続財産を得られることを知っていながら生活保護の申請をした

近いうちに多額の相続財産を得られることを知っていながら、あえて生活保護の申請を行って生活保護を受給した場合には、生活保護が停止・廃止される可能性があります。すでに受給した生活保護費がある場合には、返還を求められる可能性もあります。

また、「虚偽の申請」とみなされた場合には、そもそも申請が受理されません。

6. 生活保護受給者の遺産相続に関する相談先

生活保護を受給している中で親族の方が亡くなり、突然自分が相続人となってしまうと、遺産相続についてわからないことが多く不安になる方も多いでしょう。

そのような方は、自分で判断して行動するのではなく、次のような専門家に相談した方が安心です。

(1)自分で判断せずケースワーカーへ相談する

いずれにしても、相続や相続放棄について、誰にも相談せずに行動するのはリスクが大き過ぎます。特に、「ばれないだろう」と考えて福祉事務所への届け出を怠るような行為は絶対に避けた方が良いでしょう。相続が発生したら、まずは担当のケースワーカーに相談してください。

(2)弁護士に相談してもOK(無料相談も可能)

遺産相続についてわからないことがあれば、法律の専門家である弁護士に相談しても良いでしょう。

  • 遺産を相続すべきか、相続放棄すべきか相談したい
  • 相続財産がどれくらいあるのか調査してほしい
  • 遺産分割などの相続に関わる手続きをやってほしい
  • 相続放棄の手続きをやってほしい

など、遺産相続に関する悩みごとの相談は、弁護士に相談してみましょう。「そもそも弁護士に相談すべきかどうかもわからない」という方でも、まずは相談してみることをおすすめします。

7. まとめ

この記事では、生活保護受給者の遺産相続や相続放棄について解説しました。生活保護を受給しているからといって、「絶対に相続できない」「絶対に相続放棄できない」というわけではありません。この記事が、あなたにとって最善の選択肢を見つけるための一助となれば幸いです。

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