農地は相続放棄できる!手続きの流れや不要な土地を相続した際の対処法も解説

元弁護士

山内 英一

農地の相続放棄 相続放棄に関するコラム

農地を相続すると、ただ所有するだけでなく、耕作したり雑草を除去したりと、土地を適切に管理し続けなければなりません。これらの負担を回避するために、相続放棄を検討している方も多いと思います。この記事では、農地を相続放棄する際の流れや注意点、考え得る他の手段について解説します。

1. 農地も相続放棄できる

結論として、相続財産に農地・山林・田畑などが含まれている場合であっても、通常通り相続放棄をすることはできます。

財産に農地が含まれているからといって、相続放棄の手続き方法や必要書類が変わることはありません。

実際、「地方の実家から離れた都市部で暮らしており、農地を相続しても使い道がなく、維持管理する時間もない。そうであれば相続放棄で手放してしまおう。」という考えで、相続放棄を選択する方は多くいらっしゃいます。

なお、司法統計によれば、相続放棄の年間の受理件数は約26万件にも及びます(令和4年 司法統計年報 3家事編)。

2. いらない農地だけを相続放棄することはできない

一方で、注意したいのは、不要な農地だけを相続放棄することは法律上認められていないという点です。

というのも、相続放棄は故人が残したプラスの財産とマイナスの財産(借金やローン)を含めたすべての財産を引き継がないための手続きです。

「農地だけ放棄して宅地は相続する」とか、「農地だけ放棄して預貯金と車だけ相続する」というように、相続財産の一部だけを相続放棄することはできません

したがって、相続放棄を検討する際には、相続する全財産の価値を見極めて方針を決定する必要があります。

3. 相続放棄した後も管理義務(保存義務)が残ることがある

また、農地を相続放棄をする際に注意したいのが、管理責任(管理義務・保存義務)です。

相続放棄をした後も、一定の場合には、農地を含む相続財産を管理する義務(保存義務)が残ってしまうことがあるのです(民法940条)。

「保存義務」というのは、財産を滅失させたり損傷させたりしてはならないという意味です。例えば、農地では、草刈りなどの最低限の維持管理を行うことが求められるでしょう。

これらの義務を怠って放置して第三者に損害を与えることになれば、損害賠償請求をされるなどのリスクがあります。

管理義務が発生するケースの例や、管理義務から免れるための方法については、下記の記事で詳しく解説しています。

4. 相続土地国庫帰属制度の利用も検討を

「相続財産の中にいらない農地があるけど、相続放棄はしたくない」という方は、相続土地国庫帰属制度の利用も検討してみましょう。

相続土地国庫帰属制度は、相続で土地を得たものの、その活用方法や管理に困っている場合に、土地を国に帰属させられる手段です。この制度を利用すれば、相続放棄をせず、いらない農地だけを国に帰属させることができます。

ただし、本制度を利用するにはやや厳しい条件がありますし、利用には原則として20万円程度の費用が発生するなどの注意点もあります。

例えば、次のような土地は本制度の対象外です。

制度の対象外となる土地の例
  • 建物がある土地
  • 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  • 通路その他の他人による使用が予定される土地
  • 特定有害物質により汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地

もし自身が相続しそうな農地が対象となりそうであれば、利用を検討してみても良いでしょう。利用の条件や手続きの方法については、法務省が公開しているパンフレットをご覧ください。

5. 農地を相続放棄する際の手順

農地を相続放棄するときは、次のような流れで手続きを進めていきます。

(1)相続財産の調査をする

前述のとおり、相続放棄は0か100かの手続きであり、いらない農地だけを放棄することはできません。
したがって、相続財産全体の金額を把握した上で、相続放棄をするかどうかを決めた方が良いでしょう。

そのために、まずは相続財産の調査を行います。

特に、農地などの土地が含まれている場合には、その土地の登記簿謄本(登記事項証明書)を法務局で取得し、正確な所有者や、担保権の有無などを確認すべきです。

相続財産の調査方法については、下記の記事で詳しく解説しています。

なお、相続財産の調査は、相続放棄が受理されるために必須の行為ではありません。相続財産がどうであれ相続放棄をする意思に変わりがない場合は、相続財産の調査は不要です。

(2)戸籍謄本等の必要書類を用意する

相続を放棄する際には、被相続人の戸籍謄本(除籍謄本・改正原戸籍)や住民票の除票、相続人本人の戸籍謄本などを取得する必要があります。

戸籍謄本や住民票の除票は、対象者の本籍地がある役所等から取得します。役所に直接出向く方法や郵送による方法の他、市区町村によってはコンビニで取得できるものもあります。

必要となる書類の種類は、被相続人と相続放棄をしたい人との続柄によって異なります。必要書類については、下記の記事で詳しく解説しています。

(3)相続放棄申述書を作成する

相続放棄の手続きを行う際に最も重要な書類は「相続放棄申述書」です。

申述書の書式( PDF)は裁判所の公式ウェブサイトで公開されていますので、それをダウンロード・印刷して作成しましょう。

■申述人(相続放棄をする人)が成人の場合の書式・記入例

相続の放棄の申述書(成人) | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

■申述人(相続放棄をする人)が未成年の場合の書式・記入例

相続の放棄の申述書(未成年者) | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

(4)書類を家庭裁判所に提出する

手続きに必要な書類が一通り揃ったら、これら全てを家庭裁判所に提出します。提出方法は、直接持参しても、郵送で送っても問題ありません。

申述書を提出する裁判所は、「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」となります。管轄の家庭裁判所は下記のページ(裁判所のウェブサイト)で探すことができます。

裁判所の管轄区域 | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

なお、地域によっては、「○○家庭裁判所××支部」が管轄となる場合があります。

例えば、被相続人の最後の住所地が「東京都新宿区」だった場合、提出先は「東京家庭裁判所」ですが、「東京都国分寺市」だった場合、提出先は「東京家庭裁判所立川支部」となります。

(5)相続放棄に関する照会書(回答書)を返送する

裁判所に書類を提出してから約1週間~2週間程度で、家庭裁判所から、相続放棄をしたい方のもとに「照会書(回答書)」が届きます。

「照会書(回答書)」には、申述書に記入をした内容に誤りがないかや、相続放棄の申述は自身の意思に基づくものであるかなどの質問事項が記載されているのが一般的です。

これらの確認に対する回答を、同封されている「回答書」に記載して、家庭裁判所に返送します。

(6)相続放棄が完了したら農業委員会に届け出をする

自身が相続放棄を行った結果、他の相続人が農地を相続することになった場合、法務局での相続の登記と、農業委員会へ相続の届出が必要となります。

まずは相続登記を行います。相続することになった人が、登記申請書や戸籍謄本、相続放棄申述受理証明書などの必要書類を揃えて、法務局で手続きを行います。自身で登記手続きを行うのが難しい場合には、司法書士や弁護士に依頼しても良いでしょう。

なお、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。正当な理由なく上記の義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります(不動産登記法第164条1項、76条の2第1項

相続登記が完了したら、速やかに農地を管轄する農業委員会へ相続の届出を行います。届け出は農地の取得の日から10カ月以内に行う必要があり、それを怠ると10万円以下の過料が課せられる可能性があります(農地法69条、3条の3)。

6. 農地を相続した際の現実的な使い道

ここからは、相続放棄をせず、農地を相続した際に考えられる現実的な使い道について解説します。

(1)農地を農家に売却する

まず考えられるのは、地元の農業従事者や農業法人へ農地を売却することです。農地は勝手に宅地に変更することができませんので、農地として活用してくれる人に売却するのが一つの現実的な手段となります。

最大のメリットは、売却を通じてすぐに現金を得られる点です。また、農地を農業に精通した農家に引き継ぐことで、農地が適切に管理され、農業生産性も維持されるため、地域の農業支援に資するといえるでしょう。

農地を農地のまま売却するときは、農業委員会の許可農地法3条)が必要です。許可を受けるには、買主が農地法に定められている条件を満たす必要があります。

具体的には、農地の取得者が農作業に常時従事し、すべての農地を効率よく耕作するための機械や労働力を有し、周辺の農地利用に支障がないことなどが必要です。

もし買主を自力で探せない場合には、農業委員会に相談してみても良いでしょう。

参照:農林水産省|農地の売買・貸借・相続に関する制度について

(2)農地を賃貸する

農地を賃貸する場合も農業委員会の許可農地法3条)が必要です。許可を得るための条件は、農地を農地のまま売却する場合とほぼ同様です。

注意点すべき点は、賃貸した後に、自己都合で自由に解約できないことです。農地の賃貸借契約を解除・解約するにも、原則として都道府県知事の許可が必要となります(農地法第18条)。

(3)農地以外に転用して土地活用する

農地を転用して、農地以外の土地として活用することも不可能ではありません。しかし、農地法に定められた手続きが必要です。農地を転用するための手続きの内容とその難易度は、農地がある場所によって異なります。

具体的には、農地が「市街化区域」にある場合には、農業委員会への届出が必要ですが、許可は必要ありません。

一般論として、農業委員会への届出は、必要書類が揃っていれば受理されるという点で手続きの難易度は低いといえます。

一方で、農地が「市街化区域以外の場所」にある場合には、都道府県知事の許可が必要となります。都道府県知事の許可については、要件が厳しく設定されているため、農地転用の難易度は高いといえるでしょう。

対象となる農地が「市街化区域」にあるのか「市街化区域以外の場所」にあるのかは、各市町村の「都市計画課」などに問い合わせれば確認することができるでしょう。

7. まとめ|相続のことで困ったら弁護士に相談を

この記事では、農地の相続放棄について詳しく解説しました。最後に、ポイントをまとめます。

ポイント
  • いらない農地は相続放棄をすれば手放すことができる。ただし、特定の財産だけ相続放棄することはできない。
  • 相続放棄をした後も、引き続き農地の管理義務を負ってしまうことがある。
  • 相続をした上で「相続土地国庫帰属制度」を使うという選択肢もあるが、使える条件は限られている。
  • 相続した上で、農地を売却したり貸し出すという選択もあり得る。

相続の問題は放置していると思いがけない不利益を被ることにも繋がります。「どうすれば良いのかわからないので相談したい」「財産調査や相続放棄の手続きを専門家に任せたい」という方は、弁護士等の専門家に相談してみましょう。

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