故人の借金を引き継がない、あるいは特定の相続人に財産を集中させるために利用されることが多い相続放棄。中には、
- そもそも相続放棄をするかどうかで迷っている
- 財産調査や戸籍の収集を専門家に任せたい
- 相続放棄の手続きを全て専門家に任せたい
と考えつつも「誰に相談すべきかわからない」と悩まれている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では、相続放棄に関してどのようなことを誰に相談すべきかを説明します。
1. 相続放棄について誰に相談すべき?【相談先一覧】
結論として、相続放棄についての相談をすべき専門家は、弁護士か司法書士です。
弁護士は依頼者の代理人として交渉や訴訟手続きを行うなど、法律事務一般を扱う専門家です(弁護士法3条等)。相続放棄をすべきかどうかも含めて相談したい場合などは、弁護士に相談すべきでしょう。
司法書士は主に登記手続き等を行う専門家ですが、中には相続放棄のサポートを行っている司法書士もいます。すでに相続放棄をする意思が確定している方で、自分主体で手続きを進めつつ、申述書の作成等をサポートしてほしい場合などは、司法書士に相談しても良いでしょう。
弁護士と司法書士の主な違いは次の通りです。
弁護士 | 司法書士 | |
---|---|---|
費用の相場 | 約5万円〜10万円 | 約3万円〜5万円 |
代理人として活動 | ○ | × |
家庭裁判所との連絡 | 弁護士が行う | 自分で行う |
戸籍等の収集 | ○ | ○ |
財産調査 | ○ | ○ |
調停や訴訟の対応 | ○ | × |
(1)弁護士(法律事務所)
弁護士は、依頼者の代理人として相続放棄の手続きを進めることができる唯一の専門家です。
弁護士は、申述書の作成、添付書類の収集、家庭裁判所との連絡、相続放棄照会書・回答書の記入や返送などを全て代理人として行うことができます。
わかりやすくいうと、手続きを弁護士に丸っと任せてしまうことができるのです。(※ 裁判所の方針により、相続放棄照会書・回答書については依頼者本人に届くことがあります。)
また、ほとんど起こり得ないケースですが、万が一裁判所からの出頭要請がある場合も、家庭裁判所から弁護士に直接連絡がいき、弁護士が代理人として出頭することができます。
弁護士に依頼する場合、相続放棄を扱っている法律事務所をインターネットなどで検索し、電話や問い合わせフォームから相談内容を伝えるのが最も簡単な方法です。
当サイト「相続放棄ナビ」では、相続放棄の経験が豊富な弁護士が所属する法律事務所を掲載していますので、ぜひご覧ください。
(2)司法書士
司法書士は主に不動産登記手続き等を行う専門家です。しかし、中には相続放棄のサポートを行っている司法書士もいます。
司法書士が行うのはあくまでも「書類作成の代行」がメインです。弁護士のように「代理人」として業務を行うことはできません。
弁護士に依頼した場合とは異なり、申述人本人の名義で手続きを進めていくことになるため、裁判所からみると、申述人本人が相続放棄を行っていることになります。
そのため、司法書士に依頼したとしても、裁判所からの質問等の連絡は申述人本人の電話にかかってきます。そして、問い合わせへの対応等も申述人本人が行うことになります。
一方で、費用相場が弁護士よりも安いというメリットがあります。
司法書士に依頼する場合、相続放棄を扱っている司法書士事務所をインターネットなどで検索し、電話や問い合わせフォームから相談内容を伝えるのが最も簡単な方法です。
なお、司法書士と似た職業に「行政書士」があります。しかし、行政書士は相続放棄の手続きを行うことはできません。
(3)法テラス
法テラス(日本司法支援センター)は、国によって設立された法的トラブル解決のための総合案内所です。
法テラスでは、経済的に余裕のない方を対象に無料の法律相談を実施しています。具体的には、直接の面談や電話相談による方法で、1回30分程度を目安に同一問題につき3回まで利用可能です。
法テラスの無料相談の利用には、収入や資産が一定額以下であることなどの要件があるのが特徴です。
要件を満たす場合には、弁護士や司法書士に依頼をした際の費用(着手金や実費)を立て替えてもらうこともできます。
詳しい利用条件等を確認したい方は、法テラスのウェブサイトをご覧ください。
(4)市役所や区役所
区役所や市役所では、「弁護士無料相談会」が定期的に開催されていることがあります。このような機会を利用すれば、弁護士等の専門家に無料で相談をすることができます。
ただし、市役所や区役所での相談は、次のようなデメリットも存在します。
- 人気で予約が取りづらいことがある
- 相談時間が20分〜30分程度しかないことがある
- 相続を専門的に扱っている弁護士が担当するとは限らない
このような一定のデメリットも理解した上で利用すると良いでしょう。
(5)家庭裁判所
前提として、裁判所は一般の方の法律相談を受ける機関ではありません。
裁判所に電話をして、「相続放棄をすべきかどうか」「相続放棄をするとどうなるのか」など、個人的な法律相談を家庭裁判所にするような行為はやめましょう。
ただし、自分で相続放棄の手続きを進めていくにあたって、疑問点が生じたような場合には、家庭裁判所に尋ねてみても良いでしょう。
例えば、「同封する郵便切手はいくら分必要か」「照会書が送られて来るのは大体いつ頃になりそうか」といった質問であれば、担当者が答えてくれるでしょう。
なお、裁判所の受付時間は平日日中のみです。手続きの不明点について聞きたいときは、被相続人の最終住所地を管轄する家庭裁判所に連絡することをおすすめします。
(6)税理士
税理士は税金に関する事柄のプロであって、相続放棄の手続きそのものを手伝うことはできません。
したがって、「相続放棄の手続きを代わりにやってほしい」「相続財産の調査をしてほしい」といった相談は、税理士ではなく弁護士や司法書士に行うべきです。
一方で、相続放棄や相続に関連して、相続税等の税金に関するお困りごとが発生した場合には、弁護士や司法書士よりも、税理士に相談した方が的確なアドバイスがもらえる可能性が高いでしょう。
税金に関する相談をするには「税理士」が適しているということを覚えておきましょう。
2. 弁護士に無料相談はできる?
法律事務所に直接コンタクトをとって相談をする場合には、その法律事務所の相談料金を確認しましょう。
最近では、多くの法律事務所が「初回の相談は30分間無料」といった料金を設定しています。そのような法律事務所であれば、弁護士に無料で相談することもできます。
一方で、初回の相談であっても、「30分あたり5,000円(税別)」など有料相談を原則としている法律事務所もあります。費用体系がよくわからない場合は、法律事務所に電話をかけて相談料がかかるか聞いてみるのが手っ取り早いでしょう。
また、先にご紹介した「法テラス」や、市役所や区役所で開催されている「弁護士無料相談会」を利用すれば、無料で弁護士に相談できることもあります。
3. 相続放棄を弁護士に依頼するメリット・デメリット
相続放棄の手続きを専門家に任せたいとき、「弁護士と司法書士のどちらに頼めば良いのわからない」と悩まれる方も少なくありません。そこで、まずは弁護士に依頼するメリットとデメリットをご紹介します。
(1)相続放棄を弁護士に依頼するメリット
弁護士は、依頼者の代理人として手続きを進めることができます。弁護士との契約内容にもよりますが、主に次のような事項をあなたに代わって行ってくれます。
基本的には、相続放棄に関することを丸っと任せることができ、依頼者の関与は必要最低限で足りるのが弁護士の強みです。
また、難しいケースでも代理人として適切に対応できる点、そもそも相続放棄が最善の選択肢なのかという検討もしてもらえる点も大きなメリットといえるでしょう。
さらに、弁護士であれば、相続放棄にとどまらず、相続にまつわるトラブルが起きた場合に交渉や訴訟にも対応することができます。
(2)相続放棄を弁護士に依頼するデメリット
一般的には「司法書士よりも費用が高いのがデメリットである」と言われます。
司法書士への報酬の相場が3万円〜5万円程度であるのに対して、弁護士費用の相場は5万円〜10万円程度ですから、弁護士に依頼した方が支払う費用が高くなるのが一般的です。
ただし、費用面については、単純に金額だけを比較するのではなく、「何をどこまでしてくれるのか」といった点にも注意することでより良い選択ができるでしょう。
例えば、司法書士に依頼した場合、申述書の作成の代行と、戸籍等の収集が主なサポート内容となります。
弁護士に依頼した場合は、依頼者の代理人として、戸籍等の収集や申述書の作成はもちろん、家庭裁判所への申述、家庭裁判所とのやりとり等、必要なことを一括で行ってくれるのが基本となります。
また、繰り返しになりますが、相続放棄すべきか否かの相談が可能な点や、万が一紛争に発展した場合の対応が可能な点も弁護士の強みです。
これらの違いを踏まえた上で、依頼する専門家を選ぶと良いと思います。
4. 相続放棄を司法書士に依頼するメリット・デメリット
次に、司法書士に依頼するメリットとデメリットをご紹介します。
(1)相続放棄を司法書士に依頼するメリット
弁護士よりも費用が安く済む点がメリットです。ただし、上述した通り「何をどこまでしてくれるのか」の違いが費用の差となっていることが多いので、その点は依頼する前にしっかり確認しておきましょう。
(2)相続放棄を司法書士に依頼するデメリット
司法書士は、相続放棄の手続きについて代理する権限がないため、書類作成のサポートを主な業務としています。
したがって、司法書士のサポートを得ながら自身が主体となって手続きを進めていくことになりますので、弁護士に依頼した場合と比較して手間が多くなりがちな点はデメリットといえるでしょう。
例えば、日中に裁判所から連絡が来たときに対応する時間がない方などは、依頼者の代理人となれる弁護士に依頼した方が良いと思います。
5. 弁護士と司法書士の違い
弁護士 | 司法書士 | |
---|---|---|
費用の相場 | 約5万円〜10万円 | 約3万円〜5万円 |
代理人として活動 | ○ | × |
家庭裁判所との連絡 | 弁護士が行う | 自分で行う |
戸籍等の収集 | ○ | ○ |
財産調査 | ○ | ○ |
調停や訴訟の対応 | ○ | × |
相続放棄の手続きを代理人として(あなたに代わって)行うことができるのが弁護士です。他方で、手続きを自分自身で行うことを前提に、申述書の作成や戸籍等の収集等の手続きをサポートできるのが司法書士です。
また、弁護士は、万が一相続放棄が却下された場合の即時抗告や、相続に関してトラブルが起きた場合の交渉や訴訟についても依頼者を代理して対応することができます。他方で、司法書士が代理人として訴訟の対応をすることは一部の場合を除いてできません。
なお、戸籍謄本等の書類を特別な権限で取得できる点は、弁護士も司法書士も同じです。
このような違いを知った上で、あなたが信頼できる専門家に依頼しましょう。
6. よくある相談内容とおすすめの相談先【専門家が回答】
Q. 相続放棄の手続きを代わりにやってほしい
A. 相続放棄の手続きを代わりにやってほしい場合は、弁護士が司法書士に依頼をします。
できるだけ自分の手間を無くしたい方や、難しいケースに該当しそうな方は弁護士に依頼することをおすすめします。
一方で、書類作成の代行をして貰えれば足りる方や、できるだけ費用を抑えたいという方は司法書士に依頼すると良いでしょう。
Q. いらない土地や建物 (農地・田畑・空き家)があるので相続放棄したい
A. いらない土地や建物 (農地・田畑・空き家)がある場合にも、弁護士等の専門家に依頼すれば相続放棄をしてくれます。
なお、相続人の全員が相続放棄をした結果、いらない不動産について相続放棄後も管理義務(保存義務)を負ってしまう可能性なども考慮すべきですので、できれば弁護士に相談することをおすすめします。
Q. 被相続人の財産状況がよくわからないので、財産調査をしてほしい。その結果を見て相続放棄をするか決めたい。
A. 被相続人と長らく交流がなかったケースなど、「相続財産の状況がほとんどわからない」という方もいらっしゃいます。
多くの法律事務所では相続財産の調査の依頼も受けており、「財産調査の結果を見て相続放棄をするか決めたい。」という希望にも応えてくれるでしょう。
なお、弁護士であれば、場合によっては弁護士会照会などの制度を利用し、より精度の高い財産調査が可能です。
Q. 相続放棄をプロに任せたいが、支払えるお金が全くない
A. 法テラスの利用を検討してみましょう。収入や資産が一定額以下であることなどの要件を満たせば、弁護士や司法書士に依頼をした際の費用(着手金や実費)を立て替えてもらうことができます。
Q. 弁護士に相談するタイミングはいつ頃が良い?
A. 相談するタイミングは早いに越したことはありせん。相続放棄をするには、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」以内に一定の手続きを済ませなければなりません(民法915条1項)。
相談するタイミングが遅いと、相続放棄が受理されない可能性が高まったり、それに伴い弁護士費用が高くなったりするなどのデメリットがあります。