相続放棄をするか否か決めるため、あるいは公平な遺産分割のために、空き家の査定をして価値を把握したい方も多いでしょう。
では、空き家はどのように査定してもらうのが良いのでしょうか。この記事では、空き家の査定方法や、査定を依頼する不動産会社の選び方などについて解説します。
1. 空き家の査定方法は大きく2種類
空き家の査定方法は、大きく2種類あります。それは、建物の状態を見ずに査定額を算出する「机上査定(簡易査定)」と、立地条件などの詳細について実物を確認しながら査定額を算出する「訪問査定」です。
不動産鑑定士が行う「不動産鑑定」という方法もありますが、厳格過ぎる上、費用も高くついてしまいます。そのため、通常は、不動産会社に依頼して机上査定で査定額の目安を算出した後に、訪問査定を行うのが一般的です。
各査定方法の特徴は次の表のとおりです。
簡易査定(机上査定) | 訪問査定 | 不動産鑑定 | |
---|---|---|---|
費用 | 無料 | 無料 | 有料(20万円〜) |
実施者 | 不動産会社など | 不動産会社など | 不動産鑑定士 |
査定にかかる時間の目安 | 当日〜1週間 | 1〜2週間 | 約3週間 |
メリット | ・査定の依頼が手軽で利用しやすい | ・簡易査定より精度は高い | ・適正な価値がわかる |
デメリット | ・査定の精度は高くない | ・不動産会社の担当者の立会いが必要 ・不動産会社の担当者との面談が必要 | ・費用が高額 |
備考 | ・不動産仲介会社により査定額に差が出やすいので、複数社への一括査定がおすすめ。 | ・一括査定後の利用がおすすめ | ・調停や訴訟で不動産の評価額に争いがある場合などに利用 |
(1)机上査定(簡易査定)とは
机上査定(簡易査定)とは、不動産を売却する際に、過去の売買データ等をもとにして不動産の価値を査定する方法です。
不動産を直接見ずに、所在地や築年数、間取りなどの情報をもとに査定額を算出する方法であるため、インターネットで手軽に利用できる反面、精度はそこまで高くないという特徴があります。
中には、自社を利用して欲しいがために売れもしない金額で査定額を出す業者もいるといわれています。
そのため、無料で利用できる一括査定サイトなどを利用した上で、複数社から提示された査定額の平均値を参考にするといったような利用方法が良いでしょう。
明らかに高額すぎる査定額がある場合には、それを除いた上で平均値を出しても良いと思います。
(2)訪問査定とは
訪問査定とは、不動産仲介会社の担当者等が直接現地に出向き、所有者へのヒヤリングのほか、物件の状態、隣地との境界など細かな点を確認したうえで査定する方法です。
現地を直接見て細かな状態を確認・評価できる分、簡易査定よりも査定額の精度が高くなるというメリットがあります。
一方で、スケジュール調整やヒヤリングなどが必要となるため、何社にも訪問査定を依頼するのはあまり現実的ではありません。
使い方としては、一括査定サイトなどを使って簡易査定を行った上で、信頼できそうな業者をピックアップし、その業者に訪問査定を依頼するという方法がおすすめです。
2. 空き家を査定してもらう際のポイント
空き家を査定してもらうときは、次のポイントを押さえておきましょう。
(1)査定依頼の前に大体の相場を調べておく
不動産の大まかな相場感は、自分で調べることが不可能というわけではありません。
例えば、近隣に同じような築年数や広さの物件がある場合には、その物件の価格を参考にすることで、大体の相場感をつかむことができます。
簡易査定を依頼する際に大体の相場を調べておけば、査定額の妥当性が判断しやすくなります。明らかに高額すぎる査定額を提示している業者なども判別しやすくなるでしょう。
(2)空き家の買取実績のある業者を選ぶ
「空き家」と言っても、まだまだ利用できる綺麗な空き家もあれば、廃墟に近い空き家もあります。特に、後者のような老朽化が進んでいる物件やゴミ屋敷のようになっている物件は、そのような物件も扱っている買取業社に査定をお願いすべきでしょう。
中には、空き家・ゴミ屋敷・事故物件などの査定や買取も積極的に受け付けている”訳あり物件専門”の企業もあります。売却したい空き家に近い状態の空き家の買取実績のある業者を選ぶようにすれば、スムーズに手続きを進めていけるでしょう。
(3)査定は複数社に依頼する
空き家の査定額は、業者によって大きくばらつくこともあります。損失を避けるため、最初に行う簡易査定は少なくとも2〜3社から取得した方が良いでしょう。
一回の情報の入力で、複数社から見積もりを取得できる「一括査定」を利用するのが効率的だと思います。
(4)物件に関する情報はできる限り詳しく入力する
一括査定サイトなどを利用するとき、様々な物件に関する情報を入力することになるでしょう。そのときは、面倒臭がらずに、しっかりと情報を入力することが重要です。
物件に関する情報を詳しく入力した方が、査定の精度が高くなるためです。
精度の低い査定をたくさん取得してもあまり意味がないので、情報はしっかりと伝えるようにしてください。
(5)物件の不具合などはしっかりと報告する
もし空き家に不具合がある場合は、そのことを業者にしっかりと伝えることも重要です。よくある不具合には次のようなものがあります。
意図的に不具合を隠していた場合には、損害賠償請求をされるなどのトラブルに発展することもありますので注意してください。
(6)訪問査定の前にできる範囲で清掃しておく
物件を直接目視する訪問査定が行われる前に、物件をできるだけ綺麗にしおきましょう。
(7)査定前にリフォームなどをむやみに実施しない
査定額高くしようと考えて費用をかけてリフォームしたとしても、その分空き家が高く売れるとは限りません。
良かれと思ってしたリフォームが、購入検討者にとって需要のないリフォームであったり、そもそも解体して更地にした方が高く売れるということもあります。
そのため、査定前にむやみにリフォームなどを実施しない方が良いでしょう。
3. 空き家の査定を依頼する不動産会社の選び方
空き家の査定や売却についての相談は、どのような不動産会社にすれば良いのでしょうか。選び方のポイントをご紹介します。
(1)空き家の買取・売却の実績が豊富か
売りたい空き家と同じような状態の空き家の買取・売却実績の有無は必ず確認しておきたいポイントです。
特に、値段がつかないことが予想されるような老朽化した空き家などは、それ専門の不動産会社を選んで査定を依頼した方が良いでしょう。
(2)売りたい空き家がある地域での実績はあるか
売りたい空き家がある地域での実績があるかも重要なポイントです。不動産会社によっては、「東京・神奈川・埼玉・千葉の物件をメインに扱っている」など、特定の地域に特化していることがあります。
(3)サービス内容が充実しているか
- 現金化までがスピーディー
- 訳あり不動産に特化している
- 売買の仲介ではなく、業者が直接物件を買い取ってくれる
- 全国どこの物件でも対応してくれる
など、不動産会社によって得意分野やサービス内容が異なることがあります。
ご自身が求めるサービス内容に応じて不動産会社を選ぶのも良い方法です。
(4)査定価格の根拠が明確か
複数の業者から簡易査定の結果を受け取った後は、訪問査定や売却を依頼する業者を選定していくことになります。
このとき、多くの人は”高く売りたい”という気持ちがありますから、査定額を高く出してくれた業者ばかりに目がいきがちです。
しかし、査定価格を比較するときにみるべき点は、価格そのものはもちろん、その査定額となった”根拠”です。
相場より高値で売り出してしまうと、「長期間売れ残って機会損失になる」「結果として相場より安く売ることになってしまう」といったことにつながるリスクもあります。
査定価格を比較するときは、金額だけでなく、「なぜその価格と評価されたのか」という理由もよく見るようにしましょう。
(5)無料で使える一括査定サイトがおすすめ
自身で一社一社探し出し、個別に査定をお願いすることも可能ですが、時間や労力がかかってしまいます。
そのようなときは、一度の情報入力で大手の数社から査定額を取得できる「一括査定」を利用すれば、効率よく空き家の価値を確かめることができます。
もちろん無料で利用することができます。
(6)老朽化した空き家を手放すなら「買取業者」がおすすめ
著しく老朽化した古い空き家や、訳あり物件(再建築不可・未接道・不整形地・狭小地・自殺・孤独死・事故物件・違法物件等)などは、大手の不動産会社さんでは扱ってもらえないことがあります。
そのような空き家を手放したいときは、老朽化した空き家や訳あり物件を専門的に買い取っている業者に、直接買い取ってもらう方法を検討しても良いでしょう。
・買取業者なら仲介手数料がかからない
買い手(主に個人)を探して物件を売却 してくれる仲介業者とは異なり、買取業者は直接物件を買い取ってくれます。
そのため、仲介に比べて売却するための費用や時間が圧倒的に少なく済みます。具体的には、仲介をしない分「仲介手数料」が発生しません。
また、買い手を探す必要がないため、早ければ1か月程度で売却が完了するケースもあります。
・契約不適合責任を負わなくて良い
老朽化した空き家等を専門的に買い取っている業者の中には、空き家の売却後に発生する「契約不適合責任」を免責(免除)してくれる会社もあります。
契約不適合責任とは、売却した不動産に、売買契約書に記載のない不具合や欠陥が見つかったとき、売主が買主に対して負う責任のことです。
例えば、売却後に売買契約書に記載のない雨漏りが見つかったり、シロアリによる腐食が見つかったりして、買い主から損害賠償請求や売買契約の取り消しを求められるようなケースです。
このように、一般的な不動産の売買では、売主が「契約不適合責任」を負います。しかし、買主が買取業者(宅建業者)であれば、売主の契約不適合責任を免責できます。
古い空き家を買い取る買取業者は買取後にリフォームをすることを前提としていますし、その道のプロであるため、事前に物件の不具合を見極められるため免責してくれるのです。
4. 空き家の査定を受ける際の注意点
空き家査定をする際に心得ておきたい注意点は次のとおりです。
(1)査定価格=売却価格ではない
不動産の査定価格を見るときに気をつけたいのが、査定価格=売却価格ではないという点です。
業者が直接買い取ってくれる方式でなければ、査定価格は、あくまで担当者が考える「数ヶ月以内に売れるであろう価格」に過ぎません。
この場合、当然ながら、必ず査定価格の通りに売れる保証はありません。中には、実際に査定価格で売り出してみたものの思ったように売れず、値下げを重ね、最終的に査定価格よりも大幅に安い価格で成約するケースもあります。
思ったよりも査定額が高額だったからといって、その金額で確実に売れることを前提に方針を立てないように注意しましょう。
(2)老朽化している空き家は買取相場が低いことを心得る
老朽化が進んでボロボロになっているような空き家や、ゴミ屋敷のようになってしまっている空き家などは、当然欲しがる人も多くはありません。
そのような空き家は買取相場が低いことを心得ておきましょう。例えば、10万円〜20万円程度の査定額となってしまうこともあります。
5. 空き家の査定を依頼した後の流れ
ここからは、実際に空き家の査定を依頼したらどうなるのか、その後の流れについて解説します。
【手順1】空き家の価格査定
まずは、所有する空き家がどれくらいの価格で売れそうか確認するために、複数の不動産会社に簡易査定を依頼してみましょう。
たくさんの不動産会社に対して何度も同じ情報を伝えるのは非効率ですから、複数の不動産会社にまとめて無料査定を依頼できるサイトを利用してサクッと依頼してみましょう。
簡易査定を依頼すると、早ければ数日以内に返答が来ます。複数の不動産会社から査定額が提示されたら、その金額や根拠を比べます。担当者の対応なども含めて比較検討し、信頼できそうな業者に「訪問査定」をお願いしてみましょう。
訪問査定をたくさんの業者にお願いし過ぎると、立会いなどで自分の負担も増してしまいますのでご注意ください。多くても2~3社程度で良いでしょう。
【手順2】仲介業者を決める
訪問査定の結果を踏まえ、最終的に仲介をお願いしたい業者を決めます。決まったら、その旨を業者に伝えて媒介契約を締結します。媒介契約とは、空き家の売却を仲介してもらうための契約のことです。
【手順3】売り出し価格を決めて売却開始
売り出しの価格を決めて、いよいよ売却を開始します。中古の住宅では、売却開始から売れるまで3か月程度かかることが多いでしょう。
もっとも、物件の立地や状態、売り出し価格によっては、短期間で売れることもあれば、3か月以上かかることもあるでしょう。なかなか売れない場合は、金額を少しずつ下げていきます。
【手順4】買主と交渉・売買契約締結
無事に買主が見つかったら、金額や詳細な条件等を調整して売買契約を締結します。
売買契約時には買主から手付金が支払われ、その後トラブルなく手続きが進んでいけば、手付金は売買代金の一部に充当されます。通常、手付金の金額は売買代金の10%程度です。
【手順5】引き渡し・代金受領
売買契約締結から1か月~2か月ほどで、買主が残りの売買代金を支払います。売主側は、家の鍵や所有権移転に必要となる書類を引き渡します。
【手順6】確定申告・税金支払い
空き家を売ったことで利益が発生した場合などは、税金が発生することがあります。その場合は、確定申告を行います。
税金が減縮される特例などが使える場合もありますので、「難しくてわからない」という方は税の専門家である税理士に相談するようにしてください。
6. 空き家を売るときにかかる費用や税金
不動産の査定後、無事に売却が完了したとしても、売却代金分のお金が手元に全て残るわけではありません。空き家を売ると、次のような費用や税金が発生します。
(1)仲介手数料
仲介業者に依頼して空き家を売却すると「仲介手数料」が発生します。
仲介手数料は「売買代金の3%+6万円」となるのが一般的です。
たとえば、500万円で空き家が売れた場合、21万円の仲介手数料が発生します。
古い空き家などを業者が直接買い取ってくれるケースでは「仲介手数料」は発生しません。
取引物件価格(税抜) | 仲介手数料の上限 |
---|---|
400万円超 | 取引物件価格(税抜)×3%+6万円+消費税 |
200万円超~400万円以下 | 取引物件価格(税抜)×4%+2万円+消費税 |
200万円以下 | 取引物件価格(税抜)×5%+消費税 |
参照:宅地建物取引業法
(2)登録免許税
空き家を売却すると、不動産の所有者が売主から買主に移ります。それに伴い、登記簿上の所有者の名義も変更します(所有権移転登記)。このときに発生する費用が「登録免許税」です。
登録免許税は以下の計算式で求められます。
登録免許税=固定資産税評価額×2%(税率)
仮に固定資産税評価額が500万円の場合、登録免許税として10万円の費用がかかります。
固定資産税評価額は「固定資産評価証明書」を市区町村から取得することで確認できます。
なお、固定資産税評価額は、実際の売却価格や市場価格とは異なりますので混同しないようにしましょう。
(3)売却益に対する譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産を売却したときに出た利益(=譲渡所得)に対してかかる税金です。
譲渡所得と譲渡所得税の基本的な計算式は次のとおりです。
譲渡所得=不動産を売却した金額ー(不動産の取得費+不動産を売却するのに要した諸経費)
譲渡所得税=譲渡所得×税率
ここでいう「不動産の取得費」とは、売却する不動産の購入費のことです。また「不動産を売却するのに要した諸経費」にはリフォーム費用などが含まれます。
なお、譲渡所得税の税率は売却する不動産の保有期間が5年より長いか、短いかで以下のように変わります。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得(空き家の所有期間が5年以下) | 30% | 9% | 39% |
長期譲渡所得(空き家の所有期間が5年超) | 15% | 5% | 20% |
ここにいう「所有」とはその不動産を取得した日からの期間となります。つまり、相続などで空き家を所有してから1年しか経っていない場合でも、被相続人が取得してから5年経過していれば長期譲渡所得となります。
したがって、現在空き家となっている建物のほとんどは、長期譲渡所得が適用されると考えていいでしょう。
もっとも、相続した空き家を売却して譲渡所得が発生した場合でも、3000万円の特別控除が適用される可能性があります。この控除が適用されれば、譲渡所得が3000万円以下の場合、譲渡所得税は発生しません。
参照:No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期|国税庁HP
参照:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁HP
7. 空き家の査定に関するよくある質問
最後に、空き家に関するよくある質問をご紹介します。
Q. 空き家の価格相場はどれくらい?
A. 不動産の価値は、所在地域や立地、建物の状態などに大きく左右されますので、一概に示すことはできません。
特に、所在地は重要な要素で、一般的には一戸建てでもマンションであっても、都心部に近いほど査定額は高くなります。
金額としては、10万円や20万円という金額で取引される空き家もあれば、数千万円で取引される空き家もあります。
Q. 事故物件・訳あり物件の空き家でも買ってもらえる?
A. 訳あり物件の空き家でも買ってもらえることがあります。訳あり物件を専門的に扱っている不動産買取業社なども存在しますので、何もせずに諦めるのではなく、一度は査定を依頼してみことをおすすめします。
なお、”訳あり”とは、例えば次のような物件を意味します。
- 共有持分・共有名義の物件
- 再建築不可・借地・底地
- 老朽化した空き家・ゴミ屋敷
- 事故物件
Q. 査定をせずに空き家を個人売買することはできる?
A. 空き家を個人売買することも可能です。確かに、個人売買にすることで、販売手数料を削減できるなどのメリットもあります。しかし、不動産売買のプロを介在させない取引はリスクが高いことを理解しておきましょう。
例えば、十分な査定をせず、物件の問題点が明らかにならないまま売買をしてしまったり、重要事項説明書を作成せずに契約してしまったりすると、契約後や引き渡し後のトラブルが発生するリスクが非常に高くなります。
契約後のトラブルを防ぐためにも、不動産会社を介して売却した方が良いでしょう。
Q. 査定で値がつかなかったらどうする?
A. 査定で値段がつかない、あるいは買取を拒否されてしまった場合は、相続放棄をすることで手放したり、相続した上で家を解体処分するのが現実的な選択となるでしょう。特に、需要がほとんどない地方の土地や建物はそのような選択になりやすい傾向があります。
もし空き家の状態が良くないのであれば、放置していると様々な危険が伴います。倒壊の危険性があるなど適切に管理されていない空き家は、自治体により「特定空き家」とされ、固定資産税が高くなったり、取り壊しを命じられることもあります。
そうなる前に速やかに処分して手放す方が、かえって損失が少なく済むかもしれません。