遺産分割の際に相続人間で揉めやすいテーマの典型例が「不動産」です。特に、不動産の評価額に幅があり、遺産分割がまとまらない・・・という事例は少なくありません。
本記事では、相続時における不動産の評価方法と、それぞれの使い分けについて具体的に解説します。
1. 遺産相続で不動産評価額が問題となる場面
遺産相続において、不動産の評価額が問題となるのは、主に次のような場面です。
(1)「代償分割」で遺産分割をする場面
代償分割とは、一部の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に金銭を支払って遺産分割する方法です。
例えば、土地と建物の合計の評価額が4000万円で、相続人が2人いる場合、Aが全ての不動産を相続し、Bに対して2000万円の代償金を支払う方法です。
相続人の一人が相続する不動産(実家等)に住み続けるなどの要望を満たしつつ、公平性を保ちたいシーンで利用されます。
ただし、代償分割においては、不動産の評価額が適正でないと、支払う金額に不公平が生じてトラブルに発展することがあります。
(2)遺留分侵害額請求でも不動産評価が問題に
特定の相続人に不動産が多く遺贈された場合、他の相続人が遺留分を主張することがあります。
遺留分とは、被相続人の意思が反映される遺言書があっても、法定相続人が最低限確保できる相続財産の取り分のことを指します。これにより、相続人は生活保障を受けることが法律で守られています。
このとき、不動産の評価が高いか低いかによって遺留分の算定額が大きく異なるため、正確な評価が必要となります。
(3)相続税申告の場面
相続税を申告する際には、不動産の評価額に基づいて課税価格を算出します。不動産の評価方法を誤ると、過少申告や過大申告となり、追徴課税などのリスクが生じます。
2. 遺産分割で用いられる主な不動産の評価方法
遺産分割では、さまざまな評価方法や基準が使われます。それぞれの特徴を把握しておくことが重要です。
(1)時価(実勢価格)
実際の市場で売買される価格で、不動産会社の査定によって把握できます。ただし、同じ不動産でも査定する業者によって金額が異なる場合があります。
(2)不動産鑑定評価額
不動産鑑定士による専門的な評価で、最も信頼性が高い方法です。裁判所でも重視される傾向がありますが、鑑定には数十万円の費用が発生するため、あまり気軽に使える方法ではありません。
(3)公示地価
国が年に1回公表する地価で、土地の価格水準を知る目安になります。一般的には時価よりも低めに評価されることが多いといわれています。
(4)相続税評価額
国税庁が示す評価方法に基づいた額で、相続税申告に用いられます。市街地の土地では「路線価」、市街地以外の土地では「倍率方式」が使われます。建物は、「固定資産税評価額」が使われます。
3. 遺産分割ではどの不動産の評価方法を用いるべきか?
不動産の評価方法について明確な法的ルールは存在せず、相続人間の合意によって決められます。
(1)不動産の評価方法について明確な決まりはない
法律上、遺産分割において用いるべき不動産評価方法の指定はありません。相続人間で納得できる方法で評価すれば問題ありません。
ただ、家庭裁判所での遺産分割の実務では、不動産の価値は、時価(実勢価格)を基準にしています。
(2)複数の査定額を取得して平均を出すのもあり
時価(実勢価格)については、不動産会社に複数の査定を依頼し、その平均を用いることで相対的に公正な金額を把握することができます。
遺産分割協議や調停などの話し合いの場では、このような方法で合意するケースも少なくありません。
(3)合意できない場合は遺産分割調停・審判へ移行
相続人間で評価方法や評価額について合意できない場合、家庭裁判所での遺産分割調停や遺産分割審判を利用することになります。
調停においても合意できなければ、裁判所が判断を下す審判に移行します。その際は不動産鑑定士による鑑定評価が用いられることもあります。
4. 厳密にやるなら不動産鑑定を検討
トラブルの予防や、裁判所の手続きに備えるためには、専門家による不動産鑑定を検討することも有効です。
(1)不動産鑑定の手続き
不動産鑑定士に正式に依頼し、現地調査・資料確認・評価報告書作成といった流れで進みます。評価結果は、他の相続人や裁判所に対しても説得力を持ちます。
(2)不動産鑑定には数十万円の費用がかかる
不動産鑑定費用は物件の規模や評価の難易度によって異なりますが、一般的に30万〜50万円程度が目安となります。費用対効果を検討の上で利用しましょう。
5. 相続税申告における不動産評価方法
相続税申告では、税務署が認める「相続税評価額」を使う必要があります。
具体的には、
- 土地は路線価や倍率方式
- 建物は固定資産税評価額
を基準に評価します。
自己判断で計算して失敗してしまうと、相続税の申告漏れなどにつながってしまいますので、計算は税理士に依頼した方が良いでしょう。
6. まとめ|不動産の評価額で揉めたら弁護士に相談を
不動産の評価は、相続における争いの火種となることが少なくありません。評価方法の選定や遺産分割協議に不安がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。