空き家を相続することになった!売却?相続放棄?相談先や対処法を解説

元弁護士

山内 英一

空き家を相続することになった 相続放棄に関するコラム

空き家を相続することになったらどうすれば良いのでしょうか。空き家を放置するリスクや取りうる選択肢について、詳しく解説します。

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1. 空き家とは?|空き家問題の概要

総務省の発表によれば、日本全国の空き家件数は900万戸と、2018年(849万戸)と比べて51万戸増加し、過去最多を記録しています。また、総住宅数に占める空き家の割合を示す“空き家率”は13.8%であり、こちらも過去最高となっています。

2011年以降、少子高齢化により日本の総人口が減少を続けていることを考えれば、今後も空き家の数は増加していくことが予想されます。

空き家を放置することは社会的な悪影響が懸念されるほか、後述のように空き家の所有者も一定のリスクを負い続けることになってしまいます。このような空き家問題の当事者とならないよう、適切な対策を講じる必要があるのです。

参照:総務省統計局|令和5年住宅・土地統計調査 調査の結果
参照:総務省統計局|人口推計

2. 空き家・実家を放置するリスク

空き家を適切に管理したり売却したりせず、放置した場合どのようなリスクがあるのでしょうか。

(1)近隣トラブル等の原因となる

空き家・実家を放置した結果、次のようなトラブルに発展しまうケースが散見されます。

空き家を放置することで発生するトラブルの例
  • 放置された庭木などに害虫が発生し近隣トラブルになる
  • 放置された草木が越境して近隣トラブルになる
  • 空き家に動物が住み着いてしまう
  • 不審者の侵入やゴミの不法投棄など刑事犯罪に巻き込まれるなど

(2)所有者が損害賠償債務を負う可能性

また、台風や地震などの自然災害の際に、窓ガラスや塀が損壊し、それが原因となって他人に怪我を負わせてしまったり、他人の財物を損壊してしまう可能性があります。その結果、空き家の所有者が損害賠償責任を問われることがあります。

ケースによっては、5,000万円〜2億円程度の損害賠償責任を負うことも想定されます。

参照:公益財団法人 日本住宅総合センター|「空き家発生による外部不経済の実態と損害額の試算に係る調査」

(3)不動産の価値の低下、固定資産税等の管理コスト

「そのうち売却しよう」と考えていたものの、仕事が忙しくて手がつけられなかったり、空き家を物置のようにしてしまって、長期間放置してしまうケースも見られます。

その場合も、不動産を所有していることに変わりはありませんから、毎年固定資産税等の税金を納めなければなりません。

また、十分な管理をしないまま年数が経過することで、不動産自体の価値がどんどん低下していきます

つまり、遺品整理業社などを使って速やかに家を片付けた上で、空き家を売却したり解体して更地にしてしまった方が、放置するよりも損失が少なく済むということも十分にあり得るのです。

なお、「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、自治体が「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある」などの特定の状態であると判断した「特定空家等」は、固定資産税の「住宅用地の特例」という優遇措置が適用されなくなる場合があります。

それにより、例えば、これまでは住宅の用地に対して最大1/6に軽減されていた固定資産税の課税標準額が元の割合(6倍)に戻り、支払う税金が今までの約4倍になることがあります(空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報|国土交通省)。

3. 空き家の相続をすることになった場合の選択肢

では、空き家を相続しそうになったら具体的にどうすれば良いのでしょうか。ここからは、空き家を相続することになった場合を想定し、現実的にどのような手段をとることが考えられるのか解説します。

一概に「空き家」と言っても、まだまだ人が住めるような空き家もあれば、老朽化していて売却も期待できないような空き家もありますので、①空き家に資産価値がある場合と、②空き家に資産価値がない場合とに分けて説明します。

(1)空き家に資産価値がある場合

空き家に資産価値がある場合は、経済的に利益を得る方向で方針を検討することになります。

①空き家を売却する

不動産査定を行い、空き家が売れる見込みがあるのであれば、売却して現金化するのも一つの選択です。

そうすることで、家の管理にかかる手間やコストから解放されますし、共同相続人がいる場合には遺産分割がスムーズに進むことも期待できます。

②賃貸物件として活用・収益化する

空き家を売らずに所有し続け、賃貸物件として他人に貸し出すこともできます。

家の管理に一定の手間やコストはかかりますが、収益化がうまくいけば、売却してしまうよりも利益を多く得られる可能性もあるでしょう。

③住居として使用する

もちろん、相続人自身が住居として使用することもできます。

④寄付する

空き家を自治体などに寄付することも考えられます。ただし、自治体が必要としている空き家であれば寄付は受けてくれることもありますが、そうでない空き家の寄付を無条件で受けつけてくれるわけではありません。

寄付を受けてくれる例としては、防災倉庫、小規模な公園、住民の交流場所として利用することなどが考えられます。

各自治体によって対応は異なりますので、空き家がある地域の自治体に問い合わせてみると良いでしょう。

(2)空き家に資産価値がない場合

空き家に資産価値がない場合は、空き家を処分する方向で方針を検討する必要があります。

①相続放棄する

空き家に資産価値がなく、他の相続財産の内容を踏まえても相続しない方が良いと考えられる場合は、相続放棄を検討しましょう。

相続放棄とは、遺産相続による権利・義務の承継を一切拒否することです。

相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったことになります(民法939条)。その結果、空き家を含め、故人のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことになります。

相続放棄をするには、相続があったことを知った日から3か月以内に、管轄の家庭裁判所に対して相続放棄申述書と添付書類(戸籍謄本等)を提出する必要があります。

相続放棄については、下記の記事で詳しく解説していますので合わせてご覧ください。

②家屋を解体する

空き家を相続した上で、資産価値のない空き家を解体してしまうという選択です。

解体費用は発生しますが、本記事の冒頭で説明したリスクや、使い道のない空き家の維持管理にかかる労力やコストを考えれば、速やかに解体してしまった方が良いこともあるでしょう。

解体費用の金額は、建物の造りや大きさにもよりますが、一般的には100万円〜400万円程度となります。

解体後に残った土地が売れるのであれば、更地を売却するのも良いでしょう。

一方で、土地にほとんど価値がなく売却が見込めないのであれば、令和5年からスタートした「相続土地国庫帰属制度」を利用して、該当する土地の所有権だけを放棄して国のものにしてしまうという選択もあり得ます。

参考:相続土地国庫帰属制度のご案内[第2版]

③寄付する

自治体が必要としている空き家であれば寄付を受けてくれることもあるでしょう。

ただし、空き家の利用価値が見出せないからこそ「資産価値がない」と判断されているのでしょうから、手段としてあまり現実的ではないかもしれません。

各自治体によって対応は異なりますので、空き家がある地域の自治体に問い合わせてみると良いでしょう。

4. 空き家を相続する場合の注意点やデメリット

ここからは、空き家を相続する場合の注意点やデメリットについて解説します。

(1)相続人の順位や相続の割合を確認する

まずは、大前提として、相続開始後に空き家が誰のものになるのか確認しましょう。ここを誤って理解していると取り返しのつかないことになってしまうこともあるので注意してください。

相続人となる人の優先順位は、法律で決まっています。

優先順位被相続人から見た続柄
第1順位子及びその代襲相続人(孫・ひ孫等)
第2順位直系尊属(親・祖父母等)
第3順位兄弟姉妹及びその代襲相続人(甥・姪)

※配偶者は常に相続人となります。

また、遺言書がない場合に相続財産をどのような割合で分け合うのかについても、民法に定められています。

組み合わせ配偶者第1順位(子や孫)第2順位(親・祖父母)第3順位(兄弟姉妹・甥姪)
配偶者と子1/21/2 ー ー
配偶者と父母2/3 ー1/3 ー
配偶者と兄弟姉妹3/4 ー ー1/4
配偶者のみ全て ー ー ー
子のみ ー全て ー ー
父母のみ ー ー全て ー
兄弟姉妹のみ ー ー ー全て

法定相続人や法定相続分の基本ルールについては、下記の記事で詳しく解説しています。

(2)空き家の維持管理にはコストがかかる

繰り返しになりますが、空き家を維持管理するだけでも相当のコストが発生することは知っておきましょう。例えば、次のようなコストが発生します。

空き家の管理にかかるコスト
  • 固定資産税・都市計画税
  • 水道代・電気代(使わなくても基本料が発生)
  • 火災保険や地震保険の保険料
  • 草刈りなどにかかる費用
  • 帰省するときの交通費・宿泊費 など

具体的な金額は物件の規模や場所などによって大きく異なりますが、年間数十万円はかかるものと考えておいて良いでしょう。

空き家の状況によっては固定資産税の優遇措置がなくなること、適切に管理せずに放置した場合のリスクについては冒頭で述べたとおりです。

なお、空き家の管理は代行業社に任せることも可能です。

(3)速やかに名義変更をする(相続登記の義務化)

空き家を相続した場合、相続人は、不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。

相続登記とは、亡くなった方が所有していた不動産の名義変更をするということです。

相続登記は、2024年(令和6年)4月1日から義務化されていますので注意してください。

正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります(不動産登記法第164条1項、76条の2第1項)。

なお、遺産分割(相続人間の話合い)で不動産を取得した場合も、別途、遺産分割から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記をする必要があります。

参考:法務省|相続登記の申請義務化に関するQ&A

(4)相続税の申告・納付

相続したものの活用する予定もなく、住む人がいない「空き家」についても、相続が発生している以上相続税はかかります。

空き家を相続したときは、土地と建物の相続税評価額を計算して、他の相続財産と合算した上で、相続税を算出することになります。

相続税が発生する場合は、正確に確定申告を行い税金を納付しなければなりません。

(5)小規模宅地等の特例を利用する

「小規模宅地等の特例」とは、故人と同居していた人が土地や自宅を相続した場合に、相続した土地の評価額を最大8割まで軽減できる制度です。つまり、適用されると相続税が安くなります。

ただし、相続人が相続した空き家が、被相続人が所有している段階から空き家であった場合は適用することができません。

亡くなった人の自宅を相続した際に小規模宅地等の特例を適用できる人は、下記のいずれかの人に限られます。

対象者条件
配偶者無条件で小規模宅地等の特例を適用できる
配偶者でないが、同居していた相続人相続税の申告期限までは自宅に居住し、土地を所有する
配偶者でなく、同居もしていなかった相続人自分の持ち家に住んでいないなど(家なき子の特例)

同居親族以外の親族(家なき子)が小規模宅地等の特例の適用を受けるには、次の要件を満たさなければなりません。

家なき子の特例見出し
  • 被相続人に配偶者や同居相続人がいないこと
  • 相続人が相続開始前の3年間に、本人、配偶者、3親等以内の親族、特別関係のある法人の持ち家に住んだことがないこと
  • 相続開始時に現在居住している家屋について、これまで一度も所有したことがないこと
  • 申告期限まで引き続きその宅地等を所有していること

なお、被相続人が老人ホームや病気の治療・療養のために病院などに入院しており、被相続人の居住用建物ではあるものの、亡くなる直前には居住していなかったという場合には、小規模宅地の特例を受けることができます。

参考:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

(6)売却時は3,000万円特別控除を利用する

通常、不動産を売却して利益(譲渡所得)が生じたときには、譲渡所得税が発生します。

ただし、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例が適用されれば、最大3,000万円まで譲渡所得の特別控除を受けることができます。

特例の適用を受けるための要件は下記のとおりです。

特例の適用を受けるための要件
  • 相続または遺贈により被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を取得したこと。
  • 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
  • 区分所有建物登記がされている建物ではないこと。
  • 相続の開始の直前において、被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
  • 建物は譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。又は建物を取り壊し、譲渡すること。
  • 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用、または居住の用に供されていたことがないこと。
  • 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
  • 売却代金が1億円以下であること。

参考:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

5. 相続放棄をする場合の注意点やデメリット

ここからは、相続放棄を検討している方に向けて、相続放棄をする際の注意点やデメリットについて解説します。

(1)相続放棄には3ヶ月の期限がある

相続放棄の手続きは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」以内に行わなければなりません(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」と呼びます。

3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄をすることができなくなってしまいます。その場合、単純承認したものとみなされ、通常通りすべての権利義務を引き継ぐことになります(民法921条2号)。

「うっかり期間を過ぎてしまった」「そのようなルールは知らなかった」といった理由だけでは、相続放棄を受理してもらうことはできませんので注意しましょう。

(2)相続財産清算人が選任されるまで管理義務を負うケースもある

無事に相続放棄の申述が受理されたとしても、必ずしも全責任から解放されるとは限りません。

相続の放棄をした者のうち、放棄の時に相続財産に属する財産を「現に占有」していた人については、相続放棄後も相続財産の管理義務を負うことがあるので注意しましょう。

相続放棄された空き家の管理義務を負ってしまうと、相続放棄後も空き家を適切に管理し続けなければなりません。

他の相続人がいない場合は、相続財産清算人(旧 相続財産管理人)に相続財産を引き渡すまでの間、管理義務を負い続けることになります。

管理義務(保存義務)の内容や、相続財産清算人の選任については下記の記事で詳しく解説しています。

6. 空き家の相続に関するよくある質問

Q. 空き家の相続について誰に相談すれば良い?

A. 次のような内容でお困りの方は、弁護士に相談すると良いでしょう。

  • 空き家があるため、相続(単純承認)をすべきか相続放棄をすべきか迷っている。
  • 相続放棄の手続きを任せたい。
  • 空き家を含む遺産の分割方法で揉めている。
  • 遺産分割協議書を作成してほしい。
  • 空き家について揉めないため遺言書を作成してほしい
  • 遺留分侵害額請求をしたいorされた

空き家の価値を知るため査定を行いたい方や、売却したい方は、不動産会社に相談しましょう。

空き家の相続登記の手続きを専門家に依頼したい場合は司法書士に依頼しましょう。

空き家の相続に伴い、相続税などの税金関係でお困りの方は、税務のプロである税理士に相談しましょう。

Q. 相続土地国庫帰属制度は利用できる?

A. 空き家は、相続土地国庫帰属制度では手放すことができません。相続土地国庫帰属制度は、一定の条件のもと、相続した”いらない土地”を国庫に帰属させることができる制度です。本制度の対象は、建物のない土地であることが前提ですので、空き家がある状態では本制度を利用することができないのです。

もし相続土地国庫帰属制度を利用するのであれば、まず空き家を解体して更地にし、その土地を国庫に帰属させるという流れになるでしょう。

Q. まず何からすれば良い?

A. まずは、大体でも良いので空き家の資産価値を把握することから始めるべきでしょう。そうでなければ、相続放棄をすべきか否かなどの判断を適切に行うことが難しいからです。資産価値を把握できれば、ある程度の方針を決定できるでしょう。

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