「相続放棄って難しいの?簡単なの?」「自分でやるべき?弁護士に任せるべき?」とお悩みの方のために、自分でできるケースと弁護士に任せた方が良いケースの判断基準をお伝えします。
1 相続放棄は自分でもできる
相続放棄の手続きは、弁護士や司法書士に必ず依頼しなければならないものではありません。特に、相続関係が複雑ではなく、取得すべき戸籍謄本が少ないケースでは、手続き自体は比較的簡単に行うことができます。
相続放棄を自分で進めるときの方法や手順については、下記の記事で詳しく解説しています。
2 弁護士に任せるメリットとデメリット
一方で、相続放棄の手続きを弁護士等の専門家に依頼する方も少なくありません。相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合、次のようなメリットとデメリットがあります。
弁護士に任せるメリットとデメリットについては、下記の記事で詳しく解説しています。
3 難易度が低く自分でもやりやすい事例
ここで気になるのは、「どんなケースでは自分でできて、どんなケースでは弁護士に任せた方が良いの?」という判断基準ではないでしょうか。
もちろん、自分でできるかどうかは人によって異なるので一律には言えませんが、次のような方は比較的簡単に手続きができますので、自分でやってみても良いでしょう。
- 同居している親が亡くなった場合の相続放棄
- 戸籍・除籍・改正原戸籍等の扱いに慣れている場合
以下、詳しく解説していきます。
(1)同居している親が亡くなった場合の相続放棄
亡くなった方(被相続人)が自分の親で、かつ、自分と同居していたケースです。自分が未婚であり、親と同じ戸籍に入っている場合は特に簡単に手続きを進めることができます。なぜなら、手続きに必要となる戸籍謄本が1通で足りますし、戸籍謄本の取得も簡単だからです。
前提として、被相続人の子が相続放棄をする場合、次の書類が必要となります。
書類等 | 備考 |
①相続放棄申述書 | 裁判所のウェブサイトで公開されている書式(PDF)を利用して作成します。(書式一覧はこちら) |
②被相続人の住民票除票 または戸籍附票 | 住民票除票は被相続人の死亡時の居住地の役所から、戸籍附票は本籍地の役所から取得します。 |
③申述人(相続放棄をしたい本人)の戸籍謄本 | 申述人の本籍地の役所から取得します。 |
④収入印紙(800円分) | 郵便局や法務局で購入します。 相続放棄申述書に貼り付けて使用します。 |
⑤郵便切手 | 郵便局やコンビニで購入します。 必要枚数や金額は管轄の家庭裁判所に確認します。 |
⑥被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | 被相続人の本籍地の役所から取得します。 |
基本的には上記の書類が必要となりますが、被相続人が自分の親で、自分が親と同じ戸籍に入っているケースでは、③と⑥は重複しますので、実際は①〜⑤を揃えれば足ります。
被相続人の戸籍の附票(②)の取得や、相続放棄申述書(①)の作成も、そこまで難しいものではありません。
したがって、手続きの難易度は比較的低く、自分で手続きを進められる方も多いと考えられます。
(2)戸籍・除籍・改正原戸籍等の扱いに慣れている場合
例えば、被相続人の父母や兄弟姉妹が相続放棄をする場合や、代襲相続が発生している場合などは、取得する戸籍謄本が多くなりがちです。戸籍謄本だけでなく、除籍謄本や改正原戸籍の取得が必要となることも多く、(1)のケースと比較すると手続きの難易度は高くなります。
とはいえ、これまでの職務経験などから戸籍・除籍・改正原戸籍の扱いに慣れている方であれば、手続きを自分で進めることも難しくないでしょう。
具体的には、戸籍・除籍・改正原戸籍の違いがわかり、内容を正確に読み取れる程度の能力があれば問題ないと思われます。
4 弁護士に任せた方が良い事例
反対に、次のようなケースでは無理に自分で進めるのではなく、弁護士に相談・依頼をした方が良いでしょう。
- 既に期限がギリギリとなっているケース
- 戸籍・除籍・改正原戸籍などを正確に読み取る自信がない
- 相続放棄したい人が未成年である
- 故人に消費者金融の利用経験がある
- 長らく疎遠で被相続人の情報が少ない
- 仕事や育児で忙しくて大変
- 処分行為をしてしまった可能性がある
(1)既に期限がギリギリとなっているケース
相続放棄には期限があります。具体的には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」にしなければなりません(民法915 条1項)。
期限がギリギリに迫っているような場合に自分で手続きを進めていると、最悪の場合、書類の取得等が間に合わず相続放棄ができなくなってしまいます。
残された期間が少ないのであれば、弁護士等の専門家に依頼して、正確な知識に基づき迅速に手続きを進めてもらった方が良いでしょう。
(2)戸籍・除籍・改正原戸籍などを正確に読み取る自信がない
必要となる戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍を遡って取得していくには、その記載内容を正確に読み取る必要があります。
「戸籍・除籍・改正原戸籍が何なのかよくわからない」「何が書いてあるのかよくわからない」という状況であれば、必要書類を過不足なく迅速に収集することは難しいと思いますので、弁護士等の専門家に頼った方が良いでしょう。
(3)相続放棄したい人が未成年である
申述人(相続放棄をしたい人)が未成年である場合は、親権者が法定代理人として手続きを行うことになります。ただし、親権者であれば常に法定代理人として手続きができるわけではなく、手続きを代理で行えるケースとそうでないケースが存在します。
未成年の申述人と親権者が利益相反関係にある場合には、親権者が法定代理人として手続きを行うことができません。この場合、家庭裁判所に申立てを行い、特別代理人の選任の手続きを行う必要があります。特別代理人とは、本来の代理人(親権者)に代わって、特定の手続きを行う代理人のことです。
このように、未成年が申述人となる場合には、利益相反関係が認められるか否かの判断を要する点や、特別代理人が必要となる場合にはその手続きをしなければならない点などで、事案がやや複雑となります。
したがって、弁護士等の専門家に一度相談した方が良いでしょう。
(4)故人に消費者金融の利用経験がある
亡くなった方(被相続人)が、過去に消費者金融から頻繁にお金を借りていたなどの事情がある場合には、過払金が発生している可能性があります。
過払金とは、商品者金融に対して必要以上に支払ってしまったお金のことです。過払金がある場合には、相続財産に含まれる債務額を減額できたり、債権者から金銭を取り戻せたりすることがあります。ケースによっては、相続放棄をするのではなく、過払金の請求や債務額を減額させるための交渉を弁護士に依頼した方が、結果的に多くのお金を手元に残せるということもあり得るのです。
なお、既に借金を完済している場合であっても、過払金が存在することもあります。被相続人が消費者金融を長年利用していた形跡がある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
(5)長らく疎遠で被相続人の情報が少ない
例えば、「被相続人と長らく疎遠であり、どこでどのように暮らしていたのか詳しくわからないが、税金の通知がきたことで死亡したことを知った。」という場合など、被相続人に関する情報がほとんどないケースです。
このようなケースでは、依頼者の戸籍謄本から被相続人の戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍まで辿っていき、相続関係を整理していく必要があります。また、得られた情報から、可能な範囲で相続財産の調査等を行います(相続放棄をする意思が確定しているのであれば財産調査はしなくても良いです。)。
このような作業は自身でやると意外と大変で、想像以上に時間や労力を費やすことになります。相続放棄には3ヶ月の期間制限もありますので、弁護士に依頼してしまった方が良いでしょう。
(6)仕事や育児で忙しくて大変
手続きを自分でやろうと思えばできる方であっても、仕事や育児で忙しく、思うようなペースで相続放棄の準備を進められないという方も多いでしょう。
3ヶ月という期間制限の中で、戸籍の収集や申述の作成などの作業を正確かつ迅速に進めなければならないとなると、精神的にストレスを感じてしまうこともあります。
そのようなときは、手続きは弁護士に任せてしまい、自分のやるべきことに集中することでストレスを大きく軽減できるかもしれません。
(7)処分行為をしてしまった可能性がある
相続放棄をする前に、亡くなられた方の預金を引き出してしまったり、遺産を売却・贈与してしまったり、形見分けをしてしまったなど、「処分」に該当し得る行為をしてしまった場合は弁護士に相談・依頼した方が良いでしょう。
自分では「処分にあたる」と思っていても、裁判例に照らせばそうとはいえなかったり、処分にあたるとしても、正当な理由と根拠を裁判所に説明することで相続放棄が受理されることもあり得ます。
処分行為をしてしまったと思っても、まだ絶対に却下されると決まったわけではないので、諦めずに弁護士に相談してみましょう。
処分行為の具体例については、下記の記事で詳しく解説しています。
5 自分でやる場合は最低限の下調べを
以上のとおり、よくわからないまま自分でやって失敗してしまい、多額の債務を負ってしまっては元も子もありません。自分でやる場合であっても、当サイト「相続放棄ナビ」や書籍などで下調べをしてから行うようにしてください。