相続放棄をする前にしてはいけないこと14例!処分行為の具体例を紹介

元弁護士

山内 英一

相続放棄をする人がしてはいけないこと処分行為の具体例 相続放棄に関するコラム

相続放棄をする前にしてはいけないこととは?「処分行為をしてはいけないことはわかったが、具体的に何をしてはいけないの?」とお困りの方のために、具体的を挙げて解説します。

1 相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が亡くなられた方(被相続人)の権利義務の承継を拒否することです。相続放棄を行った場合、その人は初めから相続人ではなかったものとして扱われます(民法939条)。

したがって、不動産や預貯金等のプラスの財産、借金等のマイナスの財産、いずれも一切相続することはありません。

「預金だけ相続して、借金や不動産は相続放棄する」というように、一部の財産だけ選んで相続放棄することもできません。

相続放棄をするには、相続があったことを知った日から3か月以内に、管轄の家庭裁判所に対して相続放棄申述書と添付書類(戸籍謄本等)を提出する必要があります。

相続放棄は手続きが比較的容易で、債務を一切引き継がなくて良いという強力なメリットがあることから、利用者が多いのも特徴です。相続放棄の年間の受理件数は約26万件にも及びます(令和4年 司法統計年報 3家事編)。

2 相続放棄をする前にしてはいけないこと

基本的には誰でも利用できる「相続放棄」ですが、相続放棄をする前に一定の行為をしてしまうと、相続放棄ができなくなってしまうことがあります。特に注意したいのが、相続財産の「処分」(民法921条1号)に該当する行為です。

処分に該当する行為をしてしまうと、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄をすることができなくなってしまうのです。これを「法定単純承認」といいます。

「単純承認」とは、「通常通り故人の債権債務を全て相続します」と認めることです。つまり、単純承認をすると、故人が負っていた借金や損害賠償債務なども全て引き継ぐことになってしまいます。

(法定単純承認)
第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
(以下省略)

民法921条1号

3 相続放棄をする前にしてはいけないことの具体例

「処分行為をしてはいけないことはわかったけど、具体的に何をしてはいけないの?」とお困りの方も多いでしょう。

ここからは、相続放棄をする前にしてはいけないことや、しない方が良いことを具体的に紹介していきます。

(1)土地や建物を売却する

故人が所有していた不動産(土地・建物)を売却してしまう行為は典型的な「処分」行為です。このような行為を行うと、法定単純承認が成立して相続放棄ができなくなってしまいます。

(2)建物を取り壊す

被相続人が所有していた建物が老朽化しているからといって取り壊してしまうと、処分行為に該当してしまいます。

一方で、崩れそうなブロック塀を補修する行為など、相続財産の価値を維持する行為は行っても問題ありません。このような行為は「保存行為」(民法921条1号但し書)に該当するものであり、「処分」には当たらないと考えられているためです。

(3)預金を解約する

被相続人の名義の預金を解約するだけであれば、直ちに相続財産を「処分」したとは言い切れません。

実際に、相続財産から葬儀費用や墓石・仏具の購入などを購入する行為については、相当な範囲であれば「処分」に該当しないとされています。これらの物品を購入するためには預金の解約も想定されるところです。

しかしながら、お金の性質上、自身の財産と混ざってしまうと相続財産との判別が困難になりますので、“私的に使い込んだのではないか”という疑いも生じやすくなってしまいます。このような疑いにより相続放棄ができなくなってしまうリスクを考えれば、安易に預金を解約しない方が良いでしょう。

やむを得ず、葬儀費用等に使うのであれば、領収書等はしっかりと保管し、何のためにいくら使ったのか第三者が見てもわかるようにしておくことがとても重要です。

(4)株を売却する

形のある財産と同様に、株などの形のない財産も相続財産に含まれます。被相続人名義の株式を勝手に売却してしまえば、相続財産の「処分」に該当してしまいます。

(5)被相続人が経営していた会社の株主権を行使する

相続財産に株式がある場合、株式の売却行為のみならず、株主としての権利行使についても注意する必要があります。株主としての権利を行使する行為は、株主権という相続財産を相続して引き継ぐことを前提とした行為ですから、処分に該当する可能性があります。

実際に、被相続人が経営していた会社の取締役選任を株主総会にて行う際に、相続人がその株式の議決権を行使した行為が、処分行為に該当すると判断された裁判例があります(東京地判平成10年4月24日)。

(6)被相続人が有していた債権について取り立て行為をする

被相続人が有していた債権も相続財産に含まれます。債権とは、例えば、借金を返してもらう権利や、売買代金を支払ってもらう権利のことです。このような債権について、債務者に対して取り立て行為を行うと、処分に該当してしまう可能性があります。

実際に、相続財産に含まれる売掛代金債権の一部を取り立てて収受領得した行為が「処分」にあたるとした裁判例(最判昭和37年6月21日)や、自己が受け取ってよい金であるとの認識で相続財産に属する債権の取り立てを行なったことが「処分」にあたるとした裁判例(東京地判平成15年8月28日)などがあります。

なお、取り立て行為ではなく、債務者に催告を行い、時効の完成を猶予する効果を生じさせるだけであれば、「保存行為」(民法921条1号但し書)にとどまるため処分には該当しません。

(7)被相続人が有していた過払金返還請求権を行使する

被相続人が有していた過払金返還請求権を行使するということは、相続放棄をせずに相続財産(過払金返還請求権)を引き継ぐことが当然の前提となっていることから、処分行為に該当すると考えられます。

(8)被相続人が賃借していた建物について賃借権の存在の確認を求める訴えを提起する

賃借権の存在の確認を求めるということは、相続放棄をせずに相続財産(賃借権)を引き継ぐことが当然の前提となっていることから、処分行為に該当します。同様の事例において、処分にあたると判断した裁判例があります(東京高判平成元3月27日)。

(9)被相続人が所有していた不動産について、入居者の賃料振込口座を自身の名義に変更する

このような行為は、被相続人の不動産を相続し、不動産から生じる賃料収益を自身が領得することを前提とする行為ですから、処分に該当する可能性があります。

実際に、被相続人が所有していたマンションの賃料の振込先を、相続人の名義の口座へ変更した行為が、処分行為に該当すると判断された裁判例があります(東京地判平成10年4月24日)。

(10)水道光熱費・携帯電話代・未払い賃料・入院費用など、被相続人が負っていた債務について相続財産から弁済する

相続放棄をするのであれば、被相続人が負っていた債務について弁済をする必要がありません。そうであるにもかかわらず、あえて相続財産を支払いに充ててしまうと、処分に該当する可能性があります。

(11)形見分け(遺産を誰かにあげる、もらう行為)

形見分けについては、基本的には処分には該当しませんが、一般的な経済価値のある物品を誰かにあげたり、もらったりすると、処分に該当する可能性があります。

実際に、和服15枚・洋服8着・ハンドバッグ4点・指輪2個を相続人の一人に引き渡した行為が「処分」に当たるとして、単純承認とみなされた裁判例があります(松山簡裁昭和52年4月25日判決)。

(12)被相続人が住んでいた家の賃貸借契約を解約する

被相続人が住んでいた家の賃貸借契約を解約する行為は、「処分」に当たる可能性があります。どうしても自身で解約する必要がある場合には、管理会社(大家さん)に借主が死亡したことを伝えて、貸主の側から賃貸借契約を解約してもらった方が良いでしょう。

(13)被相続人が住んでいた家の敷金を受領する

被相続人が貸主に預けた敷金ですから、その敷金の返還を求める権利は被相続人の相続財産となります。被相続人が借りていた家が解約されたとき、貸主から返還される敷金を受け取ってしまうと、被相続人の財産を「処分」したことになりますから、受け取らないようにしましょう。

(14)遺産分割協議を行う

遺産分割協議は、自身が相続人となることを前提とする行為ですから、「処分」に当たる可能性があります。相続放棄をする場合は遺産分割協議に参加する必要はありませんので、親族らから参加するよう求められても、安易に参加しないように注意しましょう。

4 まとめ

やってはいけないことの具体例は法律に規定されているわけではないので、過去の裁判例等をヒントにして慎重に考えなければなりません。

最大限リスクを回避したいのであれば、やはり「安易に行動しないこと」「迷ったらやらないこと」を徹底すべきでしょう。

相続放棄の手続きを弁護士に依頼した場合には、適宜わからないことを担当弁護士に相談することもできますので、不安な方は弁護士に依頼することをおすすめします。

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