山林を相続放棄する場合の手続きや注意点についてわかりやすく解説

元弁護士

山内 英一

山林の相続放棄 相続放棄に関するコラム

山林を相続すれば、相続人であるあなたがその山林の所有者となります。しかし、山林は活用が難しく買い手も見つかりにくいのが現状です。また、所有しているだけで固定資産税や管理費用などのコストがかかってしまうため、相続放棄を選択する人も少なくありません。

この記事では、山林を手放したい方のために、山林を相続するメリット・デメリット、相続放棄をする際の流れや注意点について解説します。

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1. 山林を相続放棄する前に検討したい活用事例

まずは、山林を相続するメリットを考えてみましょう。

(1)山林・木材の売却

山林の場所や広さなどにもよりますが、買い手が見つかることもあります。売却できなくても、林業関係の業者などに貸し出すことにより利益を得られることもあります。

また、山林に生えている樹木の種類などによっては、木材を売却して利益を得ることも可能です。所有者本人が林業をできなくても、立木の状態で売却できることもあります。

(2)キャンプ場などの施設として活用

近年では、アウトドアの人気によりキャンプ場などの施設の需要が高まっています。そのため、山林という特徴を利用した施設をつくるなど、活用に成功している事例もあるようです。

(3)太陽光発電に活用

太陽光発電により収益を上げる方法も考えられます。ただし、

  • ソーラーパネルを設置する事前準備として樹木を伐採しなければならない
  • パネルが故障したときに多額の費用がかかる
  • 電気の買取価格が下落するリスクがある

といった点から、コストや手間に対して得られる利益が少ないことも十分にあり得るので慎重な判断が必要です。

2. 山林を相続するデメリット

次に、山林を相続するデメリットについて見ていきます。もしあなたが、先に挙げたメリット(活用事例)よりもデメリットに強く共感するのであれば、相続放棄を検討した方が良いでしょう。

(1)売却・収益化しにくい

山林は宅地などと比べて活用・収益化しにくいため、買い手も見つかりにくいのが現状です。もし売却できるとしても、宅地のような値段での売却は基本的に期待できません。

(2)固定資産税の支払いが続く

固定資産税は、毎年1月1日の時点で土地や家屋を所有する人にかかる税金です。山林は土地であるため、その土地の価格に応じる固定資産税の支払いが必要になります。

当然ながら、相続をした土地を所有しているうちは固定資産税の支払いが続くことになります。

(3)山林の適切な管理が不可欠

森林は放置すると荒れていきます。伸びた草木が近接する道路や隣人の敷地内に入ってしまえば、トラブルの原因にもなるでしょう。そうならないためにも、草刈りや伐採などの定期的な管理が必要となります。

自分ですることができないのであれば専門の業者に依頼することになるでしょう。そうなれば、当然コストもかかってきます。

(4)負担は子や孫に続いていく

特に売却や収益化への行動をとることもなく、固定資産税や管理費用が発生するだけの状態で山林を放置してしまう方も少なくありません。

そのような山林は、所有者の子や孫などの将来の相続人にとっても”荷物”となってしまいます。そういう意味では、子孫にも負担をかけ続けることになりかねません。

3. いらない不動産(山林・農地・田畑)を相続放棄することも可能

山林・農地・田畑など、相続財産にいらない不動産が含まれていて、どうしても手放したい場合には相続放棄の利用も検討しましょう。相続財産に山林などの土地が含まれている場合でも、相続放棄をすることはできます

実際に「地方にある利益にならない山林を相続するくらいなら、相続放棄をした方が経済的にも精神的にも負担が少ない。」と判断し、相続放棄を選択する方も多くいらっしゃいます。

なお、司法統計によれば、相続放棄の年間の受理件数は約26万件にも及びます(令和4年 司法統計年報 3家事編)。

少子高齢化、人口の減少に伴う地方の過疎化が進んでいけば、地方の山林を相続することを負担に感じて相続放棄をする人はこれからも増えていくことが予想されます。

4. 相続放棄の手続きの流れ

相続放棄の手続きは、上記の図に示した順に進んでいきます。相続財産に山林などの不動産が含まれている場合であっても、相続放棄の手続き自体は通常と変わりません

相続放棄の手続きの流れ

なお、相続財産に山林が含まれていることで、家庭裁判所に提出する必要書類が増えるといったこともありません。

ただし、相続放棄をするかどうかを検討するために、

  • 法務局で山林の登記簿謄本を取得し、所有者や権利関係を確認する
  • 山林の簡易査定などを行って、売却できないか確かめてみる

といった作業は必要となってくるでしょう。

相続放棄の手続きの詳しい手順については、下記の記事で解説しています。

5. 山林を相続放棄する際の注意点

(1)いらない山林だけを放棄することはできない

相続放棄は、プラスの財産とマイナスの財産を含めた相続財産の全てを手放す制度です。そのため、一部の遺産を相続し、その他の遺産は相続放棄するということはできません

例えば、「預貯金だけは相続し、山林だけは相続放棄する」「山林Aだけは相続し、山林Bだけは相続放棄する」といったことはできません。

(2)相続放棄の期間制限は「相続開始を知ってから3ヶ月」

相続放棄の手続きの期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。この期間のことを「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。

熟慮期間内に、家庭裁判所へ必要書類を提出しなければ、原則として相続放棄はできなくなってしまいます。

遺産に山林などの不動産が含まれる場合には、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して所有者や権利関係を確認したり、簡易査定を行って売却の見込みの有無を確認したりと、やるべきことがいくつかあります。

期限を過ぎてしまわないよう、できるだけ早く行動するよう心がけましょう。

(3)相続放棄をした後も管理義務を負うことがある

相続人が全員相続放棄し、相続する人がいなくなってしまった場合、その土地の所有者はいなくなってしまいます。このような所有者不在の相続財産は最終的に国庫に帰属します。つまり、誰も引き継ぐ人がいないため、国のものとなります。

しかし、放っておけば勝手に国のものになるわけではなく、国庫に帰属するまでには法律上の手続きが存在します。

その手続きが進むまで財産を管理するのは、「相続の放棄をした者のうち、放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有していた人」です。

つまり、相続放棄をした時点で山林を占有していた人は、相続放棄後も山林を管理する義務を負うことになります。

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

民法940条

管理義務の内容や、管理義務を免れる方法などについては下記の記事で詳しく解説しています。

6. 相続土地国庫帰属制度の利用も検討を

「相続財産の中にいらない山林があるけど、相続放棄はしたくない」という方は、相続土地国庫帰属制度の利用も検討してみましょう。

相続土地国庫帰属制度は、相続で土地を得たものの、その活用方法や管理に困っている場合に、土地を国に帰属させることができる制度です。この制度を利用すれば、相続放棄をせず、いらない山林だけを国に帰属させることができます。

ただし、本制度を利用するには、やや厳しい条件を満たさなければなりません。また、無料で利用できるわけではなく、原則として20万円程度の費用が発生することも知っておくべきでしょう。

例えば、次のような土地は本制度の対象外となります。

制度の対象外となる土地の例
  • 建物がある土地
  • 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  • 通路その他の他人による使用が予定される土地
  • 特定有害物質により汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地

もし自身が相続しそうな山林が本制度の対象となりそうであれば、利用を検討してみても良いでしょう。

利用の条件や手続きの方法については、法務省が公開しているパンフレットをご覧ください。

7. まとめ|困ったら弁護士に相談を

この記事では、山林の相続について詳しく解説しました。最後に、ポイントをまとめてみます。

ポイント
  • 山林を相続してうまく活用できる事例もあるが、相続するデメリットもある。
  • 山林は相続放棄をすれば手放すことができる。ただし、特定の財産だけ相続放棄することはできない。
  • 相続放棄には3ヶ月の期限があり、その期間内に家庭裁判所に書類を提出しなければならない。
  • 相続放棄をした後も、引き続き山林の管理義務を負ってしまうことがある。
  • 相続をした上で「相続土地国庫帰属制度」を使うという選択肢もあるが、使える条件は限られている。

「自分が相続放棄をすべきかどうか相談したい」「相続放棄の手続きをプロに任せたい」という方は、弁護士に相談することをおすすめします。正確な情報とアドバイスを得ることができるでしょう。

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