相続放棄をしたらお墓はどうなる?基本ルールや手続きを確認

元弁護士

山内 英一

お墓と相続放棄 相続放棄に関するコラム

「相続放棄をしたらお墓を受け継げないのでは?」あるいは「お墓を相続したくないんだけど・・・」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

この記事では、相続放棄をしたらお墓はどうなるのかについて、基本的なルールやポイントを整理しながら解説します。

1. 相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が、亡くなられた方(被相続人)の権利義務の承継を拒否する意思表示のことです。

相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も含めた相続財産を一切引き継ぐことができません

相続放棄をするには、相続があったことを知った日から3か月以内に、管轄の家庭裁判所に対して相続放棄申述書と添付書類(戸籍謄本等)を提出する必要があります。

2. お墓の承継・相続に関する基礎知識

では、相続の際、お墓はどのように扱われるのでしょうか。

(1)お墓を受け継ぐのは祭祀承継者

お墓や位牌など先祖の祭祀に関係するものを「祭祀財産(さいしざいさん)」といいます。
民法では次の3つのものが祭祀財産として規定されています。

祭祀財産とは
  • 系譜(家系図など)
  • 祭具(仏像や位牌など)
  • 墳墓(墓石、墓碑など)

※ただし、祭具として用いられる器具は宗教・宗派などによって異なります。

そして、民法上、祭祀財産は相続財産に含まれず、祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)がそれらを受け継ぐこととされています。

(祭祀に関する権利の承継)
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

民法897条

(2)祭祀承継者はどのように決まるのか

祭祀承継者は、次の優先順位で決まります。

祭祀承継者の決め方
  • 遺言などによる被相続人(亡くなった人)の指定
  • 親族間での話合いや地域の慣習
  • 家庭裁判所での調停や審判

なお、祭祀承継者は必ずしも相続人や親族である必要はありません。また、祭祀承継者となった人は、その権利を一方的に放棄することはできません。

(3)祭祀承継者は何をするのか

祭祀承継者は、例えば次のようなことを行います。

  • お墓や仏壇など祭祀財産の維持管理
  • 法要などの実施
  • 遺骨やお墓の管理処分方法の決定

当然ながら、お墓の維持管理にはお金がかかることもあるでしょう。管理費用の負担について取り決めがなければ、実際上は祭祀承継者が負担することが多いと思われます。

祭祀継承者を決定しないまま放置しているといなければお墓は荒れていき、最終的には撤去されてしまう可能性もあります。その場合、霊園側で一定の手続きを行って墓石を撤去し、お墓は更地にして墓じまいされることになるでしょう。

(4)お墓を承継する手続きの概要

祭祀承継者が決まったら、お墓がある霊園やお寺に連絡し、名義変更等の手続きをします。手続きに必要な書類は一律に決まっているわけではありませんが、一般的には次のようなものが必要となります。

お墓を承継する際に必要なもの
  • 墓地使用権(永代使用権)を取得した際に発行された書類(墓地使用許可証・永代使用承諾証など)
  • 先代の祭祀承継者の死亡が記載された戸籍謄本等
  • 祭祀承継者の戸籍謄本や住民票
  • 祭祀承継者の実印と印鑑登録証明書
  • 祭祀承継者であることを証明する書類(遺言書・親族の同意書・家庭裁判所の審判書など)

3. 相続放棄をしてもお墓や位牌は受け継げる

では、相続放棄をしたらお墓を受け継げないのでしょうか。結論、相続放棄をしてもお墓や位牌は受け継ぐことができます。ただし、例外となるケースもあるので注意が必要です。

(1)お墓は相続財産に含まれないのが原則

相続放棄した場合であっても、先祖代々受け継がれてきたお墓や位牌などは祭祀承継者が受け継ぐことができます。祭祀承継者が相続放棄をした場合も同様です。

なぜなら、相続放棄は”相続財産”の承継を拒否するものですが、祭祀財産(お墓・家系図・仏像・位牌など)は相続財産には含まれないためです(民法896条897条)。

お墓などの祭祀財産は、相続放棄による影響を受けないのが原則であるということを覚えておきましょう。

(2)あまりにも高額なお墓は相続財産として取り扱われることも

ただし、あらゆるケースにおいて「祭祀財産は続財産には含まれない」と判断されるわけではない点には注意が必要です。

祭祀財産が相続財産にあたらないのは、基本的に換金性がなく、祖先を祀るという慣習を尊重するためであると考えられます。

そうだとすれば、上記の趣旨を逸脱してしまうような場合には、例外的に相続財産として扱われてしまう可能性もあるでしょう。

例えば、純金でできた仏壇や仏像など、あまりにも高額で換金性が認められるような場合です。

仏壇や仏像などが「相続財産」であると判断されてしまうと、相続財産の一部を譲り受けたことになりますので、相続放棄の効力が否定されるなどの事態に発展する可能性があります。

3. お墓を受け継ぎたくない場合はどうすればいい?

では、「お墓を相続したくない(受け継ぎたくない)」という場合は、どのような手段をとれば良いのでしょうか。特に、自身が祭祀承継者となってしまった場合には、相続放棄をしてもお墓を手放せるわけではないので問題となります。

(1)墓地が遠方…お墓を相続したくないAさんの事例

次のような事例を前提に考えてみましょう。

事例


東京都に暮らすAさん(65歳)は、母(90歳)が他界し、相続人となりました。Aさんの父は既に他界しており、相続人となったのはAさん1名です。

Aさんは、自身も高齢となってきており、九州にあるお墓の管理や供養は大きな負担となると考え、お墓を相続したくないと考えました。また、そもそも母が残した遺産も微々たるもので、相続放棄をしたいと思っています。

上記の事例では、Aさんは、相続放棄をしたとしても、実際上自身がお墓を引き継ぐことになる可能性が高いでしょう。では、Aさんはどのような手段をとれば良いのでしょうか。

(2)墓じまい

一つめの手段は、Aさんが主体となって「墓じまい」を進める方法です。

祭祀承継者となったAさんが「墓じまい」をしたいと思えば、その手続きを進めることができます。墓じまいとは、墓石を撤去し、墓所を更地にして使用権を返還することです。

お墓に納められているご遺骨を勝手に取り出して別の場所に納骨したり、廃棄したりすることはできません。

墓じまいをするには、改葬許可申請という行政手続きや、霊園・寺院との墓地使用契約の解約手続きなどを行わなければなりません。これに伴い、費用も発生してきます。

このとき、Aさんが相続放棄をしていた場合には、Aさんは相続財産に手をつけることができません。そうすると、Aさん自身が費用を負担する形で墓じまいを進めざるを得ないでしょう。

そうならないために、相続財産全体がマイナスとならないケースでは、安易に相続放棄をせず、あえて単純承認(通常通り相続すること)をした上で墓じまいを進めるというのも一つの選択です。そうすることで、被相続人の預貯金などの相続財産を、墓じまいの費用に充てることができます。

(3)お墓を移転する

Aさんがお墓を手放したい主な理由が「墓地が遠方で管理ができない」という点にあるのであれば、お墓を自宅の近くに移転するというのも一つの解決策となるでしょう。

ただし、この場合も「墓じまい」と同じように、行政手続きが必要となりますし、移転先のお墓の購入費用などもかかります。

相続財産全体の金額をみて、相続放棄をした上で進めるのか、相続放棄をせず単純承認(通常通り相続すること)した上で進めるのか、慎重に判断しましょう。

4. 祭祀財産を承継したときの課税・税金

お墓を含む祭祀財産は相続財産とは区別されますので、承継しても相続税を支払う必要はありません

(一部抜粋)
相続税がかからない財産
墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物
ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは相続税がかかります。

相続がかからない財産|国税庁

中には、”祭祀財産は課税されない”という点に着目し、相続税対策をする人もいます。相続税対策の基本は、相続が始まるまでの間に被相続人の財産(相続財産)を減らしておくことです。

そこで、相続財産を減らすために、相続税が課税されない墓地や仏壇・仏像などを購入するというわけです。

ただし、資産状況や一般的な感覚からして明らかに高額であるお墓・仏壇・仏像などは、例外的に課税される場合があります。

税務署から「相続税の課税を逃れるために購入したものである」と判断されれば、税金を支払わなければなりませんので注意が必要です。

5. まとめ|相続放棄でお悩みの方は弁護士に相談を

この記事では、相続放棄をしたらお墓はどうなるのかについて解説しました。最後にポイントをまとめます。

ポイント
  • お墓や位牌を受け継ぐのは祭祀承継者である
  • お墓や位牌は相続財産ではないため、相続放棄をしても受け継ぐことができる
  • ただし、あまりにも高額なお墓などは相続財産として扱われる可能性がある
  • お墓を受け継ぎたくない場合は「墓じまい」などを検討する

相続放棄についてわからないことがある場合や、手続きを任せたい場合などは、弁護士に相談・依頼してみましょう。

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