相続放棄後の家の解体費用は誰が払う?相続人がいない場合の解決策は?

元弁護士

山内 英一

相続放棄後の家の解体費用は誰が支払う? 相続放棄に関するコラム

相続放棄した家の解体費用は誰が払うのでしょうか。相続放棄をした本人が管理義務(保存義務)を負っているのか、また、他の相続人がいるのか否かによって判断が別れるため、「複雑でよくわからない」という方も多いでしょう。

この記事では、各人が置かれている状況に応じて場合分けをしながら、解体費用を負担すべき人についてわかりやすく解説していきます。

※ 本記事の監修者が監修しているのは法的な手続きや注意点に関する部分のみであり、監修者が特定のサービスを推奨するものではありません。

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1. 【基本】相続財産の管理義務(保存義務)について

この記事の解説を理解するための前提として、相続財産の管理義務(保存義務)について基本的な部分をおさらいしておきましょう。

相続放棄をした後も、相続財産の管理義務(保存義務)を負うことがあります。

管理義務(保存義務)というと少しわかりにくいですが、まずは、少なくとも”財産を滅失させたり損傷させたりしてはならない”といった義務を負っていると理解しておきましょう。

空き家の管理でいえば、例えば次のようなイメージです。

空き家の管理の例
  • 空き家の中に腐敗しやすいものなどがある場合にはそれを除去する。
  • 敷地内の伸びすぎた草木や枯れ葉は害虫の発生などの原因となるため、定期的に清掃する。
  • 空き家への無断侵入や動物が棲みつくなどの危険がある場合には、定期的な点検を行う。
  • 空き家を放置することで突然の崩壊の危険があるときには補修、場合によっては解体などの安全対策を行う。

相続財産の管理義務(保存義務)を負う人については、民法の条文で、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」者に限り責任を負うと明示されています。

逆に言えば、相続放棄の時に、相続財産を現に占有していなければ管理責任(保存義務)を負うことはないと理解できます。

例えば、既に自分は暮らしていない実家や、自分が管理や支配をしていない空き家・土地などは、「現に占有している」とはいえず、相続放棄後も管理責任を負わない可能性が高いといえます。

反対に、相続放棄をした人が、相続放棄をした時点で、故人が所有する家で暮らしていたような場合には、「現に占有している」人に該当し、相続放棄後もその家の管理義務を負うものと考えられます。

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

民法940条

※ 管理義務については、2023年(令和5年)4月以降、民法の改正によってルールが変更され、管理義務(保存義務)を負う期間や対象者が明確化されています。

2. 相続放棄をした本人が、相続放棄の時に、故人の家に住んでいなかった場合

まずは、相続放棄をした本人が、相続放棄の時に、故人の家に住んでいなかった場合についてです。
つまり、相続放棄をした人が、家の管理義務(保存義務)を負っていないケースを想定しています。

(1)他の相続人がいる場合

他の相続人がいる場合は、その相続人が家の所有権を取得します。したがって、家屋の解体に必要な費用は、その相続人が支払うことになります。

(2)他に相続人がいない場合

他に相続人がいない場合、家を管理する人がいなくなってしまいます。

相続人がいない場合、相続財産は最終的に国庫に帰属する(国のものになる)ことになりますが、放っておけば勝手に国が持っていってくれるわけではありません。

このようなケースでは、利害関係人等が、家庭裁判所に対して「相続財産清算人の選任の申立て」を行います。家庭裁判所は、この申立てに基づいて、相続財産清算人を選任します。

相続財産清算人とは、相続財産を国庫に引き継ぐまでの間、相続財産を管理する人のことです。

相続財産清算人の職務は、①相続財産を管理するとともに、②相続人の存否や、相続財産から弁済を受けるべき債権者・受遺者を確定し、③相続人不存在が確定した場合には相続財産を清算して残余を国庫に引き継ぐというものです。

相続財産清算人の選任を申し立てる際「候補者」を立てることができます。親族や相続放棄者が候補者となってもかまいません。

ただし、相続財産管理人は複雑な手続き対応が要求されますので、必ずしも候補者が採用されるとは限らず、弁護士や司法書士などの専門家が選任される場合が多いようです。

相続財産清算人の選任後、家の解体が必要ということになれば、基本的には相続財産から解体費用を捻出することになるでしょう。管理義務(保存義務)を負っていない以上、相続放棄をした人が解体費用を負担する必要はありません

※ 改正前の民法では「相続財産管理人」という呼び方でしたが、民法改正に伴い「相続財産清算人」という呼び方に改められています。

3. 相続放棄をした本人が、相続放棄の時に、故人の家に住んでいた場合

次に、相続放棄をした本人が、相続放棄の時に、故人の家に住んでいた場合について説明します。
ここでは、相続放棄をした本人が、家の管理義務(保存義務)を負っているケースを想定しています。

(1)他の相続人がいる場合

本記事の1でも説明したとおり、相続放棄をした人が、相続放棄の時に故人の家に住んでいた場合、その家について管理義務(保存義務)を負うことになります。

では、この管理義務(保存義務)はいつまで負わなければならないのでしょうか。

答えは民法940条に規定されています。

簡単にまとめると

  • 他に相続人がいる場合には、その相続人に財産を引き渡すまで
  • 他に相続人がいない場合には、相続財産清算人に財産を引き渡すまで

管理義務(保存義務)を負うことになります。

つまり、今回は他の相続人がいる場合に該当しますから、他の相続人に財産を引き渡すまで管理義務(保存義務)を負うということです。

したがって、相続放棄後は、すみやかに他の相続人に家を引き渡し、家の解体費用はその相続人が負担すべきでしょう。

(2)他に相続人がいない場合

他に相続人がいない場合、相続放棄をした人が、相続財産清算人に財産を引き渡すまで管理義務(保存義務)を負うことになります。

相続財産清算人に財産を引き渡した後は管理義務から解放されますから、相続放棄をした人が解体費用を負担する必要はありません。相続財産清算人への引き渡し後に家の解体が必要ということになれば、基本的には相続財産から解体費用が捻出されることになるでしょう。

相続財産清算人の選任の申立ては、相続放棄をした本人が申し立てることもできると解されていますから、自身で申立てをしても良いでしょう。

ただし、相続財産清算人の選任を申し立てるときに、裁判所に20万円~100万円程度の「予納金」を払わなければならない可能性があります。

予納金とは、相続財産清算人が財産を管理するのに必要な経費や相続財産清算人の報酬に充てられるお金のことです。

相続財産清算人への報酬は相続財産から支払われますが、相続財産が少なくて報酬が支払えないと見込まれる場合には申立人が負担することになっています。

予納金が必要となるかどうか、また、必要であるとして具体的にいくらになるのかは、実際に申し立てを行うまでわかりません。

結局のところ、このパターンでは、相続放棄後に一定の出費が必要となる事態は想定しておいた方が良いでしょう。

4. 相続放棄後に家を解体せず放置するリスク

空き家

他の相続人がいないケースで、相続財産清算人の選任の申立てをすることもなく、そのまま空き家を放置してしまうような事例は多く見られます。

では、相続放棄をした後に、残された家を解体せず放置しておくとどのようなリスクがあるのでしょうか。

(1)損害賠償請求をされるリスク

相続放棄した古い空き家の屋根や壁が台風や地震などで倒壊し、通行人にケガをさせたり、近隣の住宅や車を損壊してしまったりする可能性はゼロではありません。

このような場合、近隣住民やケガをした第三者から損害賠償を請求されるリスクがあります。

結論として損害賠償責任を負わなくて済んだとしても、訴訟等に巻き込まれる精神的負担は大きいですし、弁護士に対応を依頼すれば当然弁護士費用がかかります。

(2)事件やトラブルに巻き込まれるリスク

損害賠償請求をされる以外にも、様々なトラブルに巻き込まれるリスクがあります。

空き家を放置することで発生するトラブルの例
  • 放置された庭木などに害虫が発生し近隣トラブルになる
  • 放置された草木が越境して近隣トラブルになる
  • 空き家に動物が住み着いてしまう
  • 不審者の侵入やゴミの不法投棄など刑事犯罪に巻き込まれる など

5. 相続した上で家を解体せず放置するリスク

では、相続放棄をせず、原則どおり相続をした上で、売れる見込みのない空き家などを放置した場合はどうでしょうか。

(1)近隣トラブル等の原因となる

相続をした場合も、近隣トラブルに発展しうる点は同様です。草木・害虫・動物・ごみの不法投棄などによる近隣トラブルに発展する可能性があります。

(2)所有者が損害賠償債務を負う可能性

また、台風や地震などの自然災害の際に、窓ガラスや塀が損壊し、それが原因となって他人に怪我を負わせてしまったり、他人の財物を損壊してしまう可能性があります。

その結果、空き家の所有者が損害賠償責任を負う可能性があります。

ケースによっては、5,000万円〜2億円程度の損害賠償責任を負うことも想定されます。

参照:公益財団法人 日本住宅総合センター|「空き家発生による外部不経済の実態と損害額の試算に係る調査」

(3)固定資産税の増加、資産価値の低下

相続した家について、「そのうち売却しよう」と考えていたものの、仕事が忙しくて手がつけられなかったり、空き家を物置のようにしてしまって、長期間放置してしまうケースも見られます。

その場合も、不動産を所有していることに変わりはありませんから、毎年、固定資産税等の税金を納めなければなりません。また、十分な管理をしないまま年数が経過することで、不動産自体の価値どんどん低下していきます。

なお、「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、自治体が「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある」などの特定の状態であると判断した「特定空家等」は、固定資産税の「住宅用地の特例」という優遇措置が適用されなくなる場合があります。

それにより、例えば、これまでは住宅の用地に対して最大1/6に軽減されていた固定資産税の課税標準額が元の割合(6倍)に戻り、支払う税金が今までの約4倍になることも想定されます(空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報|国土交通省)。

6. 相続放棄した家の解体費用の相場

家の解体

空き家を放置しておくリスクや、使い道のない空き家の維持管理にかかる労力やコストを考えれば、速やかに家屋を解体してしまった方が良いこともあるでしょう。

解体費用の金額は、建物の造りや大きさによって大きく異なります。一般的には100万円〜400万円程度の範囲で収まることが多いでしょう。

なお、解体工事で一般的に使われる「単価」とは、1坪(約3.3㎡)あたりにかかる解体費用のことを指し、建物全体の解体費用を算出する際には「坪単価×延床面積(坪数)」という式を使います。

1坪あたりの解体費用の大体の相場は次のとおりです。

構造解体費用の相場(1坪あたり)
木造住宅の解体工事2~5万円程度/坪
鉄骨造住宅の解体工事3~5万円程度/坪
RC住宅の解体工事4~6万円程度/坪
建物の解体費用の相場

ただし、通常は、上記の計算式で算出される解体費用が、最終的な解体工事費用の総額となるわけではありません。

なぜなら、解体費用以外の「付帯工事」や「追加工事」にかかる費用も必要となるからです。

追加でかかる費用の例
  • 塀、門扉、フェンスなどの撤去費用
  • 産業廃棄物の処理費用
  • 樹木の伐採・伐根・処分費用
  • 役所への届け出費用
  • 重機手配の費用
  • 整地にかかる費用 など

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7. まとめ|空き家や実家の解体は状況に応じた判断を

相続放棄をしたとしても、自身が管理義務(保存義務)を負うのか、あるいは、他の相続人がいるのかといった事情により、予定される解体費用の負担者も異なります。

まだ相続放棄をしていない方は、自身が相続放棄をした場合にどうなるのか見込みを立てた上で、あえて相続するという選択も含め、最も損失が少ない方針を選んでみてはいかがでしょうか。

最近は、老朽化が進んだ空き家なども積極的に買い取ってくれる専門業者や、物件を無償で譲渡できるサービスなども存在しますので、利用を検討しても良いでしょう。

また、すでに相続放棄をした人については、自身がどのケースに該当するのか確認した上で今後の方針を考えると良いと思います。

相続放棄や相続財産清算人選任の申立てなどの法的手続きについて相談・依頼をしたい方は、相続関係の業務を扱っている弁護士に相談してみてください。

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