他の相続人や親族と関わりたくないときには、相続放棄をしてしまうのも一つの方法です。この記事では、実際の解決事例とともに、相続放棄の効果や具体的な手続きについてわかりやすく解説します。
1 他の相続人と関わりたくないAさんの解決事例
まずは、他の相続人と関わりたくないという理由で相続放棄をしたAさんの事例をご紹介します。
(1)相談に至る背景
Aさんには、長い間会っていなかった兄がいました。ある日兄が亡くなったことを知らされたAさん。兄の相続人は、Aさんの他、姉B・弟C・甥Dを合わせた計4名の方がいました。
亡くなった兄にはいくらかの遺産がありましたが、兄弟間の仲が良好ではなかったこともあり、しばらくして姉B・弟C・甥D間で相続に関する言い合いをするようになりました。
Aさんは自身の暮らしが安定しており、本件の相続に関して姉B・弟C・甥Dと関わりたい気持ちも特に無かったので、相続放棄をすることにしました。
当初は自分で相続放棄の手続きを進めようとしたAさんでしたが、仕事で忙しく、手続きを自分でするくらいなら弁護士に依頼した方が楽で精神的なストレスも感じないと思い、弁護士に相談するに至りました。
(2)本件の進め方
Aさんとしては、亡くなった兄の財産状況に関わらず相続放棄をする意向でしたので、財産調査は特に行いませんでした。弁護士が申述書の作成、必要となる戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍等の収集、家庭裁判所とのやりとりなどを全て行い、熟慮期間内に家庭裁判所への申述を完了させました。
(3)無事に解決へ
相続放棄の申述は問題なく受理されました。Aさんは遺産分割協議に参加する必要も無くなったので、相続に関して姉B・弟C・甥Dと連絡することもなくなりました。
仮に姉B・弟C・甥Dが相続放棄をしたとしても、Aさんが管理義務(保存義務)を負う相続財産は特にありませんでしたので、ストレスなくこれまで通りの生活を送ることとなりました。
ここからは、解決のポイントや注意点について順に解説していきます。
2 相続放棄をすると相続人ではなかったことになる
相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。冒頭の事例で言えば、Aさんが相続放棄をすると、相続人は当初からBCDの3名だったことになるのです。
3 相続放棄をすれば遺産分割協議に参加する必要がなくなる
遺産分割協議とは、被相続人が亡くなった後に、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きです。もし話し合いで決着がつかなかった場合には、調停や審判へと発展していきます。「調停」とは裁判所で行う話し合いのようなもの、「審判」は裁判所が客観的な立場から解決方法を示す手続きです。
相続人の人数が多く、仲もそこまで良くないとなると、遺産分割協議がこじれてしまう可能性も高くなります。
このような場合に相続放棄をすれば、相続放棄をした人が初めから相続人ではなかったものとみなされる結果、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。
4 「他の相続人と関わりたくない」という理由で相続放棄を利用する人もいる
相続放棄をする理由について法律上特に制限はありません。基本的にはどのような理由であっても相続放棄をすることができます。冒頭の事例のように、「他の相続人や親族と関わりたくない」といった理由で相続放棄をしても何ら問題はありません。
他の相続人に対して敵対的な感情を持っていなくても、
- 亡くなった親や兄妹とは疎遠・絶縁状態である
- 親が早くに離婚しており、ほとんど関わりのない親が亡くなった
- 相続について話し合うのが面倒
といった状況で、相続放棄を選択する方もいます。
なお、相続放棄の利用件数は年間約26万件(令和4年 司法統計年報 3家事編)ととても多いですから、「他の相続人や親族と関わりたくない」などの理由で相続放棄をしている方は相当数いることが予想されます。
5 相続放棄申述書の「放棄の理由」はどう書く?
「他の相続人と関わりたくない」という理由で相続放棄をする場合、相続放棄申述書にある「放棄の理由」の部分の書き方に迷ってしまうことがあるかもしれません。
しかし、「放棄の理由」は裁判所から深く追求されるようなものではありません。近い理由である「生活が安定している」にチェックをしておけば良いでしょう。
6 相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きは、次のような流れで進んでいきます。
- STEP1 相続人が誰であるかを調べる
- STEP2 相続財産を可能な限り調査する
- STEP3 家庭裁判所に提出する必要書類(戸籍謄本等)を取得する
- STEP4 相続放棄申述書を作成する
- STEP5 相続放棄申述書と添付書類を家庭裁判所に提出する
- STEP6 家庭裁判所から送られてくる照会書(回答書)に必要事項を記入して返送する
- STEP7 家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届く
- STEP8 必要に応じて「相続放棄申述受理証明書」の発行を申請する
一般的に、相続放棄の手続きは上記のような流れで進みますが、「他の相続人と関わりたくない」という理由のみで相続放棄をする場合は、相続財産がどうであれ相続放棄をする人が多いと思います。
そのような場合には、STEP2の相続財産の調査はしなくても問題ありません。相続財産の調査をしなくても相続放棄は問題なく受理されるのでご安心ください。
なお、相続財産の調査をしなかった場合、相続放棄申述書の「相続財産の概略」という部分には、「不明」などと記載しておけば問題ありません。
7 相続放棄にかかる費用
相続放棄にかかる費用は、①手続きの全てを自分で進める場合、②司法書士に依頼する場合、③弁護士に依頼する場合で異なります。
(1)手続きの全てを自分で進める場合
相続放棄の手続きには、収入印紙代や戸籍謄本の取得費用などで、約3,000円〜5,000円かかるのが一般的です。手続きの全てを自分で進めた場合には、これらの費用だけがかかります。
(2)司法書士に依頼する場合
手続きを司法書士に依頼した場合には、上記の実費に加えて、司法書士への報酬として3万円〜5万円程度が必要となるのが一般的です。
(3)弁護士に依頼する場合
手続きを弁護士に依頼した場合には、合計で5万円〜10万円程度の費用がかかります。詳しくは、下記の記事をご覧ください。