親の借金があることがわかっている場合や、親に借金がある可能性がある場合、その借金を自分が肩代わりしなければならないのか不安に思われている方もいるでしょう。
この記事では、親の借金の返済義務を負わずに済むケースや、負ってしまうケースを示した上で、返済義務を回避する法的な対応について解説します。
1. 親の借金の可能性を簡単チェック!
まずは、親に借金があるかどうかわからない方に向けて、親の借金の可能性を簡単に確認できるチェックリストをご紹介します。
弁護士として多くの方の相談に乗ったり、実際の事例をみてきた中で、「このような方は借金をしている可能性がある」と考えられる項目を10個挙げてみました。
自分の親に借金があるのかどうか不安な方は、下記の項目に当てはまるか確認してみましょう。
- 親が、パチンコ・競馬・ボートレースなどのギャンブルが好き
→借金に困り、債務整理(自己破産・個人再生・任意整理)をする方の中でも、ギャンブルをやめられない方は多くいらっしゃいます。借金を返す資金を得ようとしてギャンブルをするという悪循環に陥っている可能性も否定できません。 - 親が、株・FXなどをしている
→株やFXで損失を出し、多額の借金を負ってしまうケースがあります。 - 親が、自宅や車をローンで購入している
→ローンも借金の一形態です。持ち家を所有している方の多くはローンで購入しているはずですから、完済していない限り借金がある可能性があります。 - 親が自営業者である
→自営業の方は収入が不安定なことが多いだけでなく、開業時の初期費用や事業資金、追加融資など、会社員に比べて借金をする機会が多くあります。公務員や民間企業の会社員の方と比べれば、何らかの理由で借金をしている可能性が高いと言って良いでしょう。 - 大学への通学など多額の教育費がかかっている
→子どもの大学の入学金・学費・仕送りなどに予想以上のお金がかかり、借金をする方もいらっしゃいます。 - 兄弟姉妹が3人以上いる
→教育費とも関連しますが、子育てにはたくさんのお金がかかります。子供の人数が多いほど必要なお金が増えますので、借金をする可能性も高くなるでしょう。 - 親の親戚に自営業者がいる
→親自身が自営業者でなくでも、自営業者である親戚などから頼まれて親が保証人になり、借金を負ってしまうというケースもあります。 - 親に離婚歴がある
→離婚をしたことで収入が大きく減ってしまい、生活資金を得るために借金をせざるを得なくなる方もいらっしゃいます。 - 両親の夫婦仲が悪い
→生活が経済的に苦しいと、イライラしたり家計のやりくりについて口論になってしまうことがあります。 - 家族の中に継続的な治療が必要な方がいる
→疾病の内容によっては多額の治療費が必要となり、借金をせざるを得ないケースもあるでしょう。
なお、上記の項目はあくまでも目安であり、当てはまれば必ず親に借金があるというわけではありませんのでご注意ください。
また、「借金がある=悪いこと」というわけではありません。無理なく返済できる借金であれば、過度に心配する必要はありません。
2. 親の借金に関する法律上の基本知識
まずは、親の借金に関して、最低限知っておきたい基本知識を整理しておきましょう。
(1)親の借金を子どもが支払う義務はない
大前提として、「子どもだから」という理由で親の借金についてを子どもが責任を負うことはありません。
例えば、親であるAさんが、消費者金融からお金を借りたとします。これを法的に見ると、親Aさんと消費者金融との間でお金を貸し借りする契約(金銭消費貸借契約)が成立しているわけですが、この契約は親Aさんと消費者金融との間でのみ効力があります。
このような契約で、自動的にAさんの子供であるBさんまでもが借金を支払う義務を負うことはありません。
(2)亡くなった親の借金は相続で引き継ぐのが原則
一方で、遺産相続については注意が必要です。
相続とは、亡くなられた方(「被相続人」といいます。)が有していた一切の権利義務を、相続人が引き継ぐことをいいます(民法896条本文)。
言い換えれば、プラスの財産(預貯金・株・不動産など)はもちろんのこと、マイナスの財産(借金・ローン・損害賠償債務)も引き継ぐことを意味します。
したがって、借金を負っている親が亡くなったのであれば、その子供である相続人が、その借金を相続して引き継ぐというのが原則的なルールとなります。
(3)親の借金は相続放棄で回避できる
親の借金を相続で引き継ぐのが原則であると説明しましたが、相続人は相続を拒否することも可能です。
被相続人の相続財産の承継を一切拒否することを「相続放棄」といいます。相続放棄をすれば、親の借金を引き継ぐことはありません。
(4)親が子の名義で借金をしていた場合は注意
親の名義では借金の審査が通らなくなってしまったなどの理由で、親が子の名義を使って借金をしてしまうケースがあります。
自身の知らぬところで勝手に名義を使用されていた場合には、支払い義務を負わずに済むこともありますが、自身の名義を使うことを許していた場合(いわゆる「名義貸し」をした場合)には、自身が借金の返済義務を負うことになってしまいます。
「名前だけ使わせてくれれば大丈夫だから」などと言われても、名義貸しは絶対にしないようにしましょう。
3. 親の借金を調べる方法
借金の存在について、親が子どもに話さないことも多いでしょう。では、親に借金があるかどうか、その子供が調べることはできるのでしょうか。
特に、親がすでに亡くなってしまった場合には親に直接聞くことができませんので、様々な手段を使った借金の確認方法を知っておく必要があります。
(1)個人信用情報機関から信用情報を取り寄せる
亡くなった親の借金の有無を調査するときに役立つのが、個人信用情報機関が保有している情報です。
相続人は、必要書類を個人信用情報機関に提出することで、被相続人の信用情報の開示請求をすることができます。親の借金を調べる方法としては、もっとも一般的な手段といってよいでしょう。
ただし、開示請求をしても、被相続人の過去の借金の全てを事細かく知ることができるわけではありません。信用情報機関に記録されていない借金が存在する可能性もあるという点は留意しておきましょう。
個人信用情報機関とは
個人信用情報機関とは、銀行などの金融機関が個人にお金を貸すときに参照する情報を保有する機関です。クレジット契約などの内容、債務の支払状況、残高がいくらなのか、といった情報がデータとして管理されています。一定期間返済が滞ったり、自己破産したりすると、事故情報(延滞情報、ネガティブ情報などということもあります。)としてその情報も登録されてしまいます。俗にいう「ブラックリスト」とは、このような事故情報が個人信用情報機関に登録されることを意味します。
消費者金融・クレジットカード会社からの借金
消費者金融等からの借入れについては、「JICC」という個人信用情報機関に情報開示請求を行います。
クレジットカードの利用による残債については、「CIC」という個人信用情報機関に情報開示請求を行います。
銀行からの借入れ・ローン
銀行・信用金庫・農協等からの借入れについては、「全国銀行協会」に情報開示請求を行います。
参考:全国銀行協会公式サイト
(2)契約書・借用書などを探す
借金をする場合は、当事者間で契約書や借用書を作成して、各自保管しおくのが一般的です。
もし被相続人の遺品などを整理する機会があれば、そのような書類がないか探してみましょう。
(3)通帳や取引履歴を確認する
被相続人の預金通帳がある場合には、入出金の履歴を確認します。預金通帳がなければ、取引していたであろう金融機関に対して、取引履歴の取得を申請します。
通帳や取引履歴を見て、定期的に誰かにお金を支払っている形跡がある場合、誰かに借金を返済している可能性があります。
振込先の名称が記載されいている場合は、そこに問い合わせて確認してみましょう。
(4)不動産の登記から辿る
親が不動産(土地・建物)を所有していそうば場合は、法務局で対象となる不動産の登記事項証明書を取得します。
不動産登記は土地と建物で別々で管理されていますので、両方取得するようにしましょう。
登記事項証明書を見ると、所有者の氏名や、抵当権等の担保権が設定されているか否かがわかります。
簡単にいうと、「不動産に抵当権が設定されている=借金が返済できなくなったとき、不動産を売却して借金を支払う予定である」ということですので、抵当権が設定されていれば、親に借金がある可能性があります。
なお、親が住居として利用していた不動産に抵当権が設定されているのであれば、それは住宅ローンの担保として設定されているものであるケースがほとんどでしょう。
(5)個人間の借金や連帯保証は発見しづらい
親が知人からお金を借りていたり、友人の連帯保証人になっていたりした場合は、信用情報機関などに記録は残りませんから、その存在を発見できないこともあります。
親の借金を調査するにも、一定の限界があるという点は理解しておきましょう。
4. 親の借金の肩代わりを求められたときの対処法
次に、親の借金を肩代わりしないための対処法について解説します。
(1)親の債権者から返済を迫られても拒否する
まずは、親がまだ生きているにもかかわらず、親の債権者から支払いを求められたケースです。
この場合、親の借金について子どもが借金を返済する義務はありません。「自分の親の借金なんだからお前が払え」などと言われても、拒否しましょう。
なお、「少額でもいいから払ってください」と言われても、支払わないようにしましょう。借金の一部を返済することで、時効のカウントがリセットされてしまうなどの不利益があるためです。
債権者の中には、借金が時効により帳消しになってしまうことを防ぐために、「1,000円でいいから払ってください」などとお願いし、時効による債務の消滅を阻止しようとする人もいます。
(2)親の借金の保証人・連帯保証人にはならない
親の借金について、保証人や連帯保証人になるよう求められても、できるだけ応じないようにしましょう。
自身が保証人や連帯保証人になることは、自身を当事者とする保証契約を締結することを意味します。
簡単にいえば、自身が借金の当事者となっているようなものです。
あなたが親の借金の保証人や連帯保証人になっている場合、親の死亡時に相続放棄をしたとしても、保証債務が残ってしまいます。
つまり、相続放棄によって借金の支払いを拒否することができなくなってしまいますので注意が必要です。
(3)親の債務整理(自己破産・個人再生・任意整理)を検討する
親がご健在で、借金を返済できずに苦しんでいるのであれば、債務整理(自己破産・個人再生・任意整理)を検討するよう促してあげるのも一つの方法です。
債務整理には、自己破産・個人再生・任意整理という大きく3つの方法があります。
債務整理の種類 | 概要 |
---|---|
任意整理 | 債権者と交渉して利息をカットしてもらったり、返済期間を変更してもらったりすること |
個人再生 | 所有する住宅を残しながら借金の総額を減額してもらえる法的手続き |
自己破産 | 裁判所に申立てをして、借金を実質0にしてもらえる法的手続き |
債務整理をすることで、借金をした本人の生活がリセットされ、その子どもが抱える不安も解消されることも期待できます。
なお、債務整理は、取り扱える金額などに制限がある司法書士よりも、そのような制限のない弁護士に相談・依頼した方が良いでしょう。
(4)親の借金を相続しそうになったら相続放棄を検討
借金を負っている親が亡くなり、自身が相続しそうになった場合は、相続放棄を検討してみましょう。
相続放棄とは、亡くなられた方(被相続人)の権利義務の承継を拒否する制度のことです。
相続放棄をすると、プラスの財産(土地・建物・預貯金等)もマイナスの財産(借金・ローン・損害賠償債務等)も一切相続しないことになります。
プラスの財産も手放さなければならないなどのデメリットもありますが、借金が多額の場合は相続放棄をした方が損失が少なく済むこともあります。
相続放棄について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
相続放棄には3ヶ月の期限がある
相続放棄の手続きは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」以内に行わなければなりません(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」と呼びます。
3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄をすることができなくなってしまいます。その場合、単純承認したものとみなされ、通常通りすべての権利義務を引き継ぐことになります(民法921条2号)。つまり、親の借金を引き継ぎ、あなたがその返済をし続けることになります。
「うっかり期間を過ぎてしまった」「そのようなルールは知らなかった」といった理由だけでは、期間経過後に相続放棄を受理してもらうことはできませんので注意しましょう。
熟慮期間経過後でも裁判所が相続放棄を認めてくれるケースがある
先ほど、3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄をすることができなると説明しました。ここで「原則として」という留保をつけたのは、例外があるからです。
つまり、親の死亡を知ってから3ヶ月以上経っていても、例外的に相続放棄を受理してもらえることがあります。このことは、裁判所のウェブサイトでも周知されています。
「相続放棄の申述は,相続人が相続開始の原因たる事実(被相続人が亡くなったこと)及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に行わなければなりません。ただし,相続財産が全くないと信じ,かつそのように信じたことに相当な理由があるときなどは,相続財産の全部又は一部の存在を認識したときから3か月以内に申述すれば,相続放棄の申述が受理されることもあります。
相続放棄の申述|裁判所HP
例外的なケースではありますが、相続財産が全くないと思っていたのに、3ヶ月以上経った後になって被相続人が多額の債務を負っていたことが発覚した場合には、相続放棄が認められることがあるのです。
実際に、被相続人が死亡したことを知ってから1年以上が経過していたにもかかわらず、相続放棄が認められた裁判例なども存在します。
相続放棄の手続きは弁護士に依頼するのがおすすめ
相続放棄の手続きは自力で進めることもできますが、失敗は許されません。必要書類を間違えてしまったり、うっかり期限を過ぎてしまうと、それだけで相続放棄ができなくなってしまうこともあるのです。
特に、親の借金が多額の場合は失敗したときのダメージも大きくなってしまいますから、できれば弁護士に依頼した方が良いでしょう。
弁護士であれば、必要書類や手続きの流れを熟知していますし、職務上の権限で戸籍謄本等の必要書類を役所から速やかに取得することもできます。
また、家庭裁判所とのやりとりも弁護士が全て代理して行ってくれますので、依頼者は精神的な負担、時間、労力を大きく削減できます。
(5)親の借金を相続してしまったら自身の債務整理を検討
万が一、相続放棄の期限が過ぎてしまうなどして相続放棄ができなくなり、親の借金を相続してしまった場合には、あなたが借金を返済することになります。
問題なく返済できそうであれば良いですが、中には金額的に支払えないケースもあるでしょう。
そのような場合は、ご自身の債務整理(自己破産・個人再生・任意整理)も検討しましょう。
5. 親の借金に関するよくある質問【専門家が回答】
Q. 親が死亡したら住宅ローンの残金はどうなる?子が返済しなければならない?
A. 亡くなった親の住宅ローンの残金を返済する必要があるか否かは、団信(団体信用生命保険)に加入しているかどうかによって異なります。
団信(団体信用生命保険)とは、住宅ローンを完済する前に契約者が亡くなってしまったとき、住宅ローンの残高がゼロになる保険のことです。一般的に、住宅ローンを組む場合、ほとんどの方が団信に加入していると思います。まずは、団信に加入しているかどうかを確認しましょう。
団信に加入せずに住宅ローン融資を受けている場合、住宅ローンの契約者である親が亡くなっても、住宅ローンの返済義務が消えることはありません。つまり、子どもなどの相続人に債務が承継されるのが原則となります。
その場合、家の価値や使用の予定、他の相続財産の状況等も踏まえた上で、相続放棄するかどうかを検討することになるでしょう。
Q. 借金に時効はある?消滅時効って何?
A. 借金の返済義務も、一定の期間を経過すると消滅します。これを消滅時効といいます。消滅時効は、以下のどちらか短い方の期間が経過した際に成立します(民法166条1項)。
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間(主観的起算点)
②権利を行使することができる時から10年間(客観的起算点)
「権利を行使することができる」とは、借金の弁済期(返済期限)が到来した状態を意味します。
親の借金について消滅時効が成立しているのであれば、適切な方法で時効を援用し、債務を消滅させるのが賢明です。時効が成立していそうな場合は弁護士に相談してみましょう。
Q. 離婚した親や絶縁した親の借金は誰が支払う?
A. 自身の父母が離婚していたとしても、その子どもは父の相続人になりますし、母の相続人にもなります。
そのため、離婚後全く会っていなかったとしても、父や母が借金をしていれば、その借金も含めた財産を相続人が引き継ぐのが原則です。絶縁した親の場合も同様です。
したがって、離婚した親や絶縁した親の借金を引き継ぎたくなければ、相続放棄を検討することになるでしょう。
Q. 親に勝手に保証人にされていた。どうすれば良い?
A. 親に勝手に連帯保証人にされてしまった場合、債権者から支払いを求められても応じなくてよいというのが法律上の原則です。
ただし、勝手にされた連帯保証契約について追認をした場合など、支払い義務が生じてしまうケースもありますので、自身で対応するのが不安な方は弁護士に相談してください。
Q. 連帯保証債務は相続放棄できない?
A. 亡くなった親が誰かの連帯保証人になっていた場合、その連帯保証債務は相続財産に含まれます。したがって、原則として相続人がその債務を引き継ぐことになりますが、相続放棄をすれば債務を引き継がなくて済みます。
他方、注意したいのは、親の借金について自分が保証人や連帯保証人になっており、親が亡くなったケースです。この場合、相続放棄をしても、自身が負っている保証債務は残りますので、借金の支払いを回避することはできません。
6. まとめ|親の借金に関する問題は弁護士に相談を
この記事では、親の借金の調べ方や、肩代わりを求められたときの対処法について解説しました。
基本的には、相続放棄という制度が用意されていますので、過度に心配する必要はありません。また、相続放棄ができない場合であっても、時効の援用や債務整理など、解決策が全くないわけではありません。
とはいえ、いざ自分が当事者となれば、不安な点や疑問点が出てくるでしょう。そのようなときは、手遅れになる前に、弁護士に相談するようにしてください。
初回の相談を無料としている法律事務所もありますので、まずは相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。