相続放棄の理由が「関わりたくない」ときの申述書の書き方 – 親族と疎遠の事例

元弁護士

山内 英一

関わりたくないときの申述書の書き方 相続放棄に関するコラム

疎遠となっている親族と関わりたくない場合など、相続放棄の理由が「関わりたくない」という場合、相続放棄申述書にはどのように記載すれば良いのでしょうか。同様のケースで実際に手続きを行なったことのある専門家が解説します。

Q. 相続放棄の理由が「関わりたくない」ときの申述書の書き方は?

A. 相続放棄の理由は、自分の心情に最も近いものを選択すれば問題ありません。例えば、疎遠となっている親族と関わりたくない場合には、「生活が安定している。」などを選択すれば良いでしょう。

1. 疎遠の親族と「関わりたくない」ことを理由とする相続放棄も可能

結論として、 「他の親族と関わりたくない」「相続に関わりたくない」という理由であっても、相続放棄をすることができます。相続放棄をするか否かは個人の自由であり、基本的にはどのような理由であっても良いのです。

例えば、次のようなケースで相続放棄をすることは可能です。

事例1


Aさんの両親は、Aさんが幼い頃に離婚し、Aさんは母と二人で長い間生活をしてきました。

Aさんは成人した後も父と会うことはなく、父がどこでどのように暮らしているのかもよく知らない状態となっていました。

ある日、Aさんは父が亡くなったことを知らされます。父には再婚相手もいるようでしたが、Aさんは長年父と会っておらず、仮に遺産があったとしても相続する気はないため、相続放棄をすることにしました。

「亡くなられた方(被相続人)の債務が多くなければ相続放棄できない」とか、「遺産が少なくないと相続放棄できない」といったルールはありませんのでご安心ください。

2. 相続放棄申述書の書き方【記入例】

裁判所が公開している相続放棄申述書の書式には、「放棄の理由」として、次の6つの選択肢が用意されています。

放棄の理由
  • 被相続人が生前に贈与を受けている
  • 生活が安定している
  • 遺産が少ない
  • 遺産を分散させたくない
  • 債務超過のため
  • その他(自由記述)

これらのうち、自分の心情に最も近いものを選び⚪︎で囲みます。

例えば、「親戚と関わりたくない」ことが唯一の理由である場合には、「生活が安定している。」を選択すれば良いでしょう。

また、「関わりたくない」という理由で相続放棄をする場合、被相続人の財産状況が全くわからないということもあるでしょう。このような場合、申述書の「相続財産の概略」の部分には、「不明」などと書いておけば問題ありません。

3. 照会書・回答書の書き方【記入例】

相続放棄申述書等の必要書類を家庭裁判所に提出すると、約1週間〜2週間後に、家庭裁判所から相続放棄照会書(回答書)が送られてきます。

この時点では、まだ相続放棄は完了しておらず、相続放棄回答書に必要事項を記入して返送しなければなりません。

照会書に記載されている質問事項は各裁判所によって異なることもありますが、基本的には同じようなものです。場合によっては、申述書に記載した「放棄の理由」を改めて尋ねる質問も含まれています。

例えば、「あなたはどうして相続放棄をするのですか。」というような質問です。

回答が選択式となっている場合には、申述書と同様に「生活が安定している。」などを選択すれば問題ありません。

また、自由記述が必要となる質問形式であれば、「他の相続人と関わりたくないため」「被相続人とは疎遠であり、相続する意思がない。」などと簡潔に記入すれば良いでしょう。

このように回答しても、相続放棄の理由について裁判所から怒られたり、これを理由として不受理となることはありません。

4. 疎遠の親族の相続放棄をする際の注意点

疎遠の親族の相続放棄をする際には、次の点に注意しましょう。

(1)手続きの期限は相続開始を知ってから3ヶ月

相続放棄の手続きは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」以内に行わなければなりません(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」と呼びます。

3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄をすることができなくなってしまいます。その場合、単純承認したものとみなされ、通常通りすべての財産を相続することになります(民法921条2号)。

手続きを自分で進める自信がない方や、忙しくて時間がとれない方などは、弁護士等の専門家に手続きの代行・代理を依頼した方が良いでしょう。

(2)後に資産があったことが判明しても相続できない

相続放棄は、一度手続きが完了すると撤回することができません。仮に、熟慮期間がまだ残っていたとしても撤回はできません。

(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。

民法919条1項

そのため、相続放棄をした後になって、「実は被相続人には多額の預金があった」とか、「実は不動産を所有していた」といった事実が判明したとしても、それらの財産を引き継ぐことはできません。

もし、「相続に関わりたくない」とは思いながらも、「多額の相続財産(遺産)があるのなら、法律にしたがって相続したい。」という気持ちがあるのであれば、焦って相続放棄をしないようにしましょう。

そのような場合は、まずは可能な限り相続財産の調査を行い、特に財産がないようであれば相続放棄をするという方針で進めた方が良いと思います。

5. よくある質問【専門家が回答】

最後に、相続放棄に関するよくある質問と回答をご紹介します。

Q. 申述書を提出すれば相続放棄は完了する?

A. 相続放棄の手続きは、申述書を提出しただけでは完了しません。裁判所から送られてくる「照会書(回答書)」を返送し、相続放棄が受理されたことを示す「相続放棄受理通知書」を受け取って初めて完了します。

なお、弁護士に手続きを依頼した場合には、裁判所との「照会書(回答書)」のやりとりの過程が省略されることもあります。

手続きの詳しい流れについては、下記の記事で解説しています。

Q. 相続放棄の手続きは自分でできる?

A. 相続放棄の手続きは自分で行なっても問題ありません。ただし、事案によっては必要書類の収集が大変だったり、受理されないリスクが高くなることもあります。自分でやるのが不安な方は、弁護士に依頼した方が良いでしょう。

Q. 相続放棄を誰かにやってもらいたいときは誰に頼めば良い?

A. 相続放棄の手続きを専門家に任せる場合は、弁護士か司法書士に依頼します(行政書士や税理士は専門外です。)。弁護士と司法書士の違いや費用の相場については、下記の記事で詳しく解説しています。

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