相続放棄を自分でやろうとしている方のために、相続放棄の経験が豊富な専門家監修のもと、「相続放棄申述書」の書き方について詳しく解説します。
- 1. 相続放棄申述書とは
- 2. 相続放棄申述書はどこでもらえる?書式のダウンロード方法
- 3. 相続放棄申述書の記入例・見本
- 4. 相続放棄申述書の書き方|項目ごとに解説
- 5. 相続放棄申述書の提出方法
- 6. 相続放棄申述書の提出後の手続き
- 7. 相続放棄申述書に関するよくある質問【専門家が回答】
- 8. まとめ|申述書の作成は弁護士に任せると安心
1. 相続放棄申述書とは
相続放棄申述書(そうぞくほうきしんじゅつしょ)とは、相続放棄をする意思を裁判所に伝えるための申請書・申立書のようなもので、相続放棄をするためには必ず作成しなければならない書面です。
相続放棄をするには「相続開始を知ってから3か月以内」に家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出しなければなりません。
また、相続放棄をするには、この記事で紹介する「相続放棄申述書」のほかに、戸籍謄本等の「添付書類」を家庭裁判所に提出する必要があります。
2. 相続放棄申述書はどこでもらえる?書式のダウンロード方法
相続放棄の手続きに必要となる「相続放棄申述書」の書式(ひな型)は、裁判所のウェブサイトから無料でダウンロードすることができます。
記入例とともに公開されているので、記入例を見ながら書いていきます。書式と記入例は下記のリンク先からダウンロードできます。
■申述人(相続放棄をする人)が成人の場合の書式・記入例
■申述人(相続放棄をする人)が未成年の場合の書式・記入例
申述書への記入は手書きでも手書きでなくても、どちらでも構いません。
上記の書式はPDFファイルで公開されているので、多くの方は、このファイルをダウンロードし、印刷した上で、手書きで記入することになるかと思います。
印刷する紙にはA4サイズの白紙を使います。また、印刷する際は両面印刷ではなく片面印刷で印刷し、複数枚になる場合は左端2箇所をホッチキスで閉じてください。
ちなみに、相続放棄申述書に決まった書式はありません。法律に定められた要件を満たしていれば(必要な事項を全て記入していれば)、ワードなどで自作した書類で提出することも可能です。
ただし、弁護士等の専門家ではない方が、自己流の書式でゼロから申述書を作成するのは現実的ではありません。したがって、裁判所のウェブサイトで公開されている書式を利用することをおすすめします。
3. 相続放棄申述書の記入例・見本
相続放棄申述書の作成に入る前に、記入済みの見本を見て完成形を確認しておきましょう。
4. 相続放棄申述書の書き方|項目ごとに解説
ここからは、相続放棄申述書の書き方について詳しく解説していきます。裁判所の様式にしたがって項目ごとに丁寧に説明していきますので、順番にご覧ください。
相続放棄申述書に記入する事項は次の通りです。
以下、記入する内容や注意点を順番に解説していきます。
(1)提出先の家庭裁判所
申述書を提出する裁判所は、「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」となります。
管轄の家庭裁判所は下記のページ(裁判所のウェブサイト)で探すことができます。
地域によっては、「○○家庭裁判所××支部」となる場合があります。
例えば、被相続人の最後の住所地が「東京都中央区」だった場合、提出先は「東京家庭裁判所」ですが、「東京都八王子市」だった場合、提出先は「東京家庭裁判所立川支部」となります。
提出先の家庭裁判所を間違えてしまうと期限渡過などの原因となってしまいます。不安な場合は裁判所に電話をするなどして、事前にしっかりと確認しておきましょう。
(2)相続放棄申述書の作成年月日・日付
相続放棄申述書を作成した日付を記載します。
作成した日と実際に提出した日とで多少の誤差があっても特に問題はありませんが、不安な方は提出する日に記入すれば良いでしょう。
(3)添付書類|チェック形式で記入
添付する書類にチェックをし、通数も記入します。添付する書類の種類や量はケースによって異なります。必要な書類については下記の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
(4)申述人(相続放棄したい人)の情報|氏名・住所・本籍・職業・生年月日・被相続人との関係等
氏名や住所、本籍などは、取得した戸籍謄本等の記載の通りに記入すれば問題ありません。
押印は実印でなくても問題ありません。
職業は「会社員」「会社役員」「自営業」「公務員」などと記載すればOKです。無職の場合は「無職」で問題ありません。
(5)法定代理人の情報は申述人が未成年の場合に記入
申述人が未成年である場合など、一定のケースでは法定代理人の住所や氏名等の情報を記入します。
法定代理人が親権者である場合には、「親権者」に○を、後見人である場合には「後見人」に○を書きます。
成年の方が相続放棄をする場合など、法定代理人がいない場合には何も記入しなくて結構です。
(6)被相続人(亡くなった人)の情報|氏名・本籍・住所・職業・生年月日
氏名や住所、本籍などは、取得した戸籍謄本等の記載の通りに記入しておきましょう。
被相続人と長期間関わりがなかったケースなど、被相続人の職業がわからない場合もあるでしょう。その場合は「不明」と書いておけば問題ありません。
(7)被相続人の死亡日
死亡日を把握している場合には、その通り記載します。
死亡日を正確に把握できていない場合は、死亡診断書や戸籍謄本(除籍謄本)などに記載されていますので、それを参考に記入しましょう。
ご遺体の発見が遅れてしまった場合等、お亡くなりになった経緯によっては、戸籍謄本(除籍謄本)に「死亡日 令和●年●月●日〜●月●日頃」といったように、幅のある記載がなされていることがあります。その場合は、申述書にも「令和●年●月●日〜●月●日頃」と記載しておけば問題ありません。
(8)申述の趣旨
「申述の趣旨」には、「相続の放棄をする。」と記入します。裁判所のウェブサイトからダウンロードした書式にはすでに記入されていると思いますので、何も書き足さなくて結構です。
(9)申述の理由
続いて、「申述の理由」を記入していきます。裁判所のウェブサイトからダウンロードした書式では、「相続の開始を知った日」「相続放棄の理由」「相続財産の概略」というように、記入すべき内容が整理されていますので、これに従って各項目に記入していきます。
(10)相続の開始を知った日|期限に影響するので注意
一般的には、相続人の死亡日になるかと思いますが、事案によっては警察等から死亡の通知を受けた日など、死亡日以外の日付になることもあります。
また、先順位の相続人が相続放棄をしたことで、後順位の相続人であるあなたに相続権が移ってきた場合には、「先順位の相続人が相続放棄したことを知った日」を記入します。
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」にしなければなりません。つまり、申述書に記入する「相続の開始を知った日」は、相続放棄をすることができる期間(期限)の起算日を家庭裁判所に伝えるためのものです。
ここに記入する日付から、すでに3ヶ月以上が経過してしまっていると、相続放棄の申述が却下されてしまう可能性が高くなりますので間違えなように注意しましょう。
期間を正確に数えた結果、すでに3ヶ月以上が経過している場合には、すぐに弁護士等の専門家に相談した方が良いでしょう。
3ヶ月の期限が過ぎていたとしても、家庭裁判所に対して合理的な説明をすれば相続放棄が受理される可能性があります。弁護士に依頼をすれば、裁判所に説明するための「事情説明書」や「上申書」を作成してくれます。
(11)相続放棄の理由|チェック形式で記入
あなたが相続放棄をする理由について、当てはまる理由を見つけてチェックします。当てはまる理由がない場合には「その他」を選んで自由に記述します。
相続放棄の理由について厳密に考える必要はなく、心情として最も近いものを選択すれば問題ありません。
例えば、「他の相続人や親族と関わりたくない」「遺産分割に関与したくない」という理由で相続放棄をする方もいるでしょう。そのような場合は、最も近い理由である「生活が安定している」にチェックをしておけば問題ありません。
なお、放棄の理由について、裁判所や裁判官から怒られたりすることはないのでご安心ください。
(12)相続財産の概略(資産・負債)
相続財産とは、亡くなられた方が残した遺産のことです。「遺産」や「財産」というと、土地・建物・預貯金などのプラスの財産をイメージしがちですが、ここにいう「相続財産」には、借金やローンなどのマイナスの財産も含みます。
相続財産の概略に記入する不動産(土地・建物)の面積は大体の数字で構いません。手元に不動産登記などがある場合には、それを見て記入すれば良いでしょう。
現金・預貯金の金額についても大体の金額で構いません。通帳や残高証明書などがあればそれを見て記入すれば良いでしょう。
有価証券(株式など)や負債についても同様で、残高がわかる資料があればそれを見て記入します。
中には、相続財産について正確に把握できていない方も多いと思います。その場合は、わかる範囲で記入すれば問題ありません。相続財産が不明な場合は、余白に「不明」と記入しておけば問題ありません。
なお、「相続財産について調査をしておらず、何をどれくらい持っていたのか見当もつかない」という方であっても、それを理由に相続放棄が却下されることはありませんのでご安心ください。なぜなら、「相続財産を把握すること」は相続放棄が認められるための条件ではないからです。
収入印紙を貼る
収入印紙とは、国庫収入となる租税や手数料などの徴収のために政府が発行する証票です。見た目は郵便切手と似ていますが、郵便切手とは別物ですので間違えないようにしましょう。
収入印紙(800円分)は、相続放棄申述書に直接貼りつけます。収入印紙は郵便局や法務局、一部のコンビニで購入できます。
なお、兄弟姉妹など複数人の方がまとめて相続放棄をする場合であっても、申述書は各自1通ずつ作成します。したがって、800円×人数分の収入印紙が必要となります。
申述書は代筆・パソコン入力もできる
相続放棄が本人の意思によるものであれば、相続放棄申述書は代筆で作成しても構いません。この場合、代筆者への委任状は不要ですが、もし家庭裁判所から指示があればそれにしたがって作成してください。
また、相続放棄申述書は、手書きではなくパソコンを使って記入しても問題ありません。
認知症の場合は代筆できない
認知症などにより、申述者本人の判断能力が低下している場合は、相続放棄が本人の意思によるものなのかわからなくなってまうため代筆はできません。
申述者が認知症の場合は、成年後見人をつけた上で後見人が申述書の作成や提出を行うことになります。
弁護士へ手続きを依頼する場合は代理で作成
相続放棄の手続きは弁護士に依頼することができます。弁護士に依頼すると、弁護士が代理人として申述の手続きを全て行ってくれます。
この場合には委任状が必要です。一般的には、弁護士に相続放棄を依頼する際に契約書に署名することになりますが、その際に委任状への署名も求められるでしょう。契約書や委任状は弁護士が用意してくれます。
5. 相続放棄申述書の提出方法
相続放棄申述書と添付書類(戸籍謄本等)が揃ったら、それらをまとめて家庭裁判所に提出します。
(1)管轄の家庭裁判所に提出する
家庭裁判所は全国各地に存在しますが、提出先となる家庭裁判所はどこでも良いわけではありません。
提出先は、申述書の始めの方に記入した「亡くなられた方が最後に住んでいた住所地の家庭裁判所」となります。
(2) 郵送で提出することもできる
家庭裁判所への提出は、家庭裁判所に直接持参しても提出しても良いですし、郵送で提出しても構いません。
近所に提出先となる家庭裁判所がない場合には、郵送で提出するのが現実的な方法となるでしょう。
直接持参して提出する場合には、念のため、免許証等の身分証明書と印鑑(認印)を持っていくと良いと思います。なお、裁判所によっては入口で危険物の荷物チェックが行われます。
郵送で提出する場合には、書類を封筒やレターパックなどに入れて送ります。多少の雨や折り曲げにも強いレターパックを利用するのがおすすめです。
また、郵送で提出する場合には相続放棄の期限にも十分注意してください。3ヶ月の熟慮期間内に、家庭裁判所に必要書類を受け取ってもらわなければなりません。
「郵送に数日かかったことで期限に間に合わなかった」ということがないように、余裕を持って行動しましょう。
提出した書類は基本的に返ってはきませんので、必要に応じてコピーをとっておいても良いでしょう。
6. 相続放棄申述書の提出後の手続き
相続放棄申述書を提出しても、まだ相続放棄が完了したわけではありません。ここからは、相続放棄申述書を提出した後の手続きについて説明します。
(1)家庭裁判所から届く「照会書」に回答する
申述書等の提出後、1週間~2週間ほど過ぎると、家庭裁判所から相続放棄をしたい人のもとに「照会書(回答書)」が届きます。
「照会書(回答書)」には、相続放棄をしたい人に対しての質問事項が書かれています。相続放棄をしたい人は、この質問への回答を記入した回答書を、裁判所に返送する必要があります。
質問の内容は、申述書に記入した内容を再確認や、相続放棄の申述が自分の意思に基づくものであるかの確認がメインです。
裁判所によって書式や質問内容が異なることがありますが、一般的にはチェックボックスにチェックするような形式であり、難しいものではありません。多くの方は、数分程度で記入が終わるかと思います。
回答書には2週間程度の返送期限が記載されているので、遅れないように注意しましょう。返送を忘れて長期間放置していると、相続放棄の申述が却下されてしまうリスクがあります。
相続放棄回答書の具体的な書き方については、下記の記事で詳しく解説しています。
(2)相続放棄申述受理通知書を受け取る
回答書を送ってから10日前後で、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
「相続放棄申述受理通知書」は、相続放棄の申述が受理されたことを示す書面です。この通知書が届いたら、相続放棄の手続きが完了したと理解して問題ありません。
なお、「相続放棄申述受理通知書」は再発行ができません。後々必要となる可能性もあるので、捨てずに保管しておきましょう。
また、後述する「相続放棄申述受理証明書」とは別物です。名前が似ていて紛らわしいですが、両者を混同しないようにご注意ください。
(3) 相続放棄申述受理証明書の申請(任意)
「相続放棄申述受理証明書」は、相続放棄が受理されたことを第三者に証明するための書面です。
この「受理証明書」は、家庭裁判所から自動的に送られてくるものではなく、必要な場合に申請して取得するものです。
例えば、被相続人が借金をしていたケースで、金融機関等の債権者から借金の支払いを求められた場合などに必要となる場合があります。
「受理証明書」については、下記の記事で詳しく解説しています。
7. 相続放棄申述書に関するよくある質問【専門家が回答】
最後に、相続放棄申述書の作成やそれに付随する内容に関して、よくある質問をまとめてご紹介します。
Q. 複数人が同時に相続放棄する場合はどうする?
A. 兄弟全員で相続放棄するなど、複数人が同時に相続放棄することも可能です。
その場合、各申述人が1通ずつ「相続放棄申述書」を作成します。
ただし、共通する添付書類は1通で足ります。全く同じ添付書類を複数添付する必要はありません。
Q. 相続放棄申述書の記載ミスの訂正方法は?
A. 相続放棄申述書の書き間違いがあったときは、間違えた部分に二重線を引き、その上に訂正印を押して、そばに訂正内容を記載します。
Q. 相続放棄申述書は折っても大丈夫?
A. 折り曲げて封筒に入れて提出しても問題ありませんが、不安な方はレターパックなどで提出しましょう。
弁護士が依頼を受けて相続放棄の手続きを行う場合は、レターパックライトやレターパックプラスで提出する方が多い印象です。
Q. 相続放棄申述書のほかに必要な書類は?
A. 相続放棄の手続きには、申述書の他にも必要となる書類があります。戸籍謄本(除籍謄本・改正原戸籍)のほか、返信用の郵便切手なども同封しなければなりません。必要となる戸籍謄本類は亡くなられた方との関係(続柄)によって変わります。詳しくは下記の記事で解説していますのでご覧ください。
Q. 相続放棄の申述にかかる費用は?
A. 手続きを自分で行った場合は、収入印紙代や戸籍謄本の取得費用などで、約3,000円~5,000円かかるのが一般的です。ケースによって必要となる戸籍謄本等の量が異なることから、最終的にかかる費用にも幅があります。
Q. 申述書の記載に不備があった場合どうなりますか?
A. 裁判所から連絡が入るかと思いますので、指示に従ってください。
申述書の記載に不備があると、最悪の場合相続放棄が認められなくなる可能性もあるので、不安な方は弁護士に手続き代理を依頼しましょう。
8. まとめ|申述書の作成は弁護士に任せると安心
この記事では、相続放棄の申述書の書き方や提出方法などについて解説しました。
裁判所の様式にしたがって作成すれば、書く内容自体はそれほど難しいものではありません。一方で、申述書や添付書類などに不備があると相続放棄の失敗につながることもあります。
申述書の書き方がどうしてもわからなかったり、却下されるリスクを軽減したいという場合には、弁護士等の専門家に任せた方が良いでしょう。
当サイト「相続放棄ナビ」では、相続放棄を扱っている弁護士を掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。