この記事では、「遺族年金は相続放棄した場合でも受け取れるの?」と疑問を持たれている方のために、遺族年金と相続放棄について解説します。結論として、相続放棄をしても遺族年金は受け取ることができます。遺族年金以外にも、相続放棄をしても受け取れるものがありますので、それらについても合わせて説明します。
1. 相続放棄をしても遺族年金は受け取れる
相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産(借金やローン)も含めた一切の相続財産を引き継がないことになります。そのような説明を聞き、「相続放棄をしたら遺族年金も受け取れない」と思われている方も多いのではないでしょうか。
しかし、結論として、遺族年金は「相続財産」に含まれませんので、相続放棄をしても受け取ることができます。
(1)遺族年金とは
遺族年金は、故人が加入していた年金制度に基づき、その遺族に支給される年金です。この制度は、故人が社会保険に加入していた場合に、遺された家族の生活を支援する目的で設けられています。主に、亡くなった人の配偶者や子ども、場合によっては両親が受給資格を持ちます。
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
遺族基礎年金は、国民年金に加入している人(自営業、専業主婦、学生など)が亡くなった場合に受け取れる年金です。
遺族厚生年金は、厚生年金に加入している会社員が亡くなった場合に受け取れる年金です。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の具体的な受給者は以下のとおりです。
・遺族基礎年金
国民年金に加入中の方が亡くなったとき、その方によって生計を維持されていた18歳到達年度の末日までにある子(障害者は20歳未満)のいる配偶者または子
・遺族厚生年金
厚生年金に加入中の方が亡くなったとき(または、加入中の傷病がもとで初診日から5年以内に亡くなったとき)、その方によって生計を維持されていた遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母の中で優先順位の高い方)
(2)遺族年金は受取人固有の財産として扱われる
遺族年金は国が運営する社会保障制度の一部であり、遺された家族や親族のために支給されるものです。
このことから、遺族年金を受けとる権利は亡くなった人の配偶者や子ども固有のものであって、相続財産には含まれないものと解されています。つまり、遺族年金は相続放棄の対象外ということになります。
したがって、相続放棄をしたとしても、受給するための要件さえ満たせば遺族年金を受けとることができますし、遺族年金を受け取った人が相続放棄を行うこともできます。
なお、遺族年金の申請手続きの時効は5年です。この期限を過ぎると、過去に発生した遺族年金を受給できない可能性があるので忘れないようにしましょう。
2. 相続放棄をしても未支給年金は受け取れる
未支給年金についても、遺族年金と同様に理解することができます。すなわち、未支給年金は「相続財産」に含まれませんので、相続放棄をしても受け取ることができます。
なお、「遺族年金」と「未支給年金」は別物ですので、遺族年金の請求とは別に請求する必要があります。
(1)未支給年金とは
未支給年金とは、故人が生前に受け取る権利がありながら、さまざまな理由で受け取っていなかった年金です。
例えば、年金が2ヶ月に一度支給される場合、被相続人が亡くなったタイミングによって未支給年金が発生します。
(2)未支給年金は受取人固有の財産として扱われる
未支給年金は、「死亡した年金受給者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹またはこれらの者以外の三親等内の親族」であって「死亡の当時に生計が同一だった方」が受給することができます。
逆に言えば、「死亡した年金受給者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹またはこれらの者以外の三親等内の親族」であっても、死亡当時に生計を同じくしていなかった者は受給することはできません。(国民年金法19条、厚生年金保険法37条、国家公務員共済組合法44条、地方公務員等共済組合法47条)。 これらの規定は、相続とは別の立場から、一定の遺族に対して未支給の年金給付を認めるものです。
このことから、未支給年金を受けとる権利は亡くなった人の配偶者や子ども固有のものであって、相続財産には含まれないものと解されています。つまり、未支給年金は相続放棄の対象外ということになります。
したがって、相続放棄をしたとしても、受給するための要件さえ満たせば未支給年金を受けとることができますし、未支給年金を受け取った人が相続放棄を行うこともできます。
3. 相続放棄をしても受け取れるお金の例
相続放棄は、故人が残した遺産(相続財産)の全てを引き継がないための手続きです。逆に言えば、相続財産に含まれないと解釈されるものについては、相続放棄をしたとしても受け取ることができます。
この章では、遺族年金や未支給年金のように、相続放棄を行った際にも受け取れるものやお金について解説します。
(1)香典・御霊前
一般的に、「香典」や「御霊前」は、被相続人の葬儀に関する出費に充てることを主な目的として、葬儀の主宰者(喪主)に対して贈与されるものです。
つまり、被相続人が保有していた財産(相続財産)ではありません。したがって、相続放棄をする予定の人や、すでに相続放棄をした人であっても、香典や御霊前を受け取ることができます。
(2)生命保険金(死亡保険金)
被相続人が死亡した際に支払われる生命保険金(死亡保険金)は、契約上「受取人」が誰に指定されているかによって結論が異なります。
まず、受取人として法定相続人が指定されている生命保険金(死亡保険金)は、その法定相続人固有の権利であって、故人(被相続人)が持っていた権利ではありません。したがって、「相続財産」には含まれませんので、相続放棄をしても受け取ることができます。
保険契約上、受取人が指定されていなかった場合については、保険の約款を確認する必要があります。
約款で「受取人の指定がない場合には、法定相続人が法定相続分に従って受け取る」などと規定されている場合には、受取人の指定がある場合と同じように考えて、相続放棄をしても受け取ることができると考えられます。
上記とは異なり、「受取人=亡くなった人自身(被相続人)」となっている場合は注意が必要です。このようなケースでは、生命保険金(死亡保険金)は「相続財産」として扱われます。したがって、相続放棄をする予定の人や、すでに相続放棄をした人は受け取ることはできません。もし保険金を受け取ってしまうと、法律上遺産の相続を認めたものとして扱われます(法定単純承認)。
(3)仏壇、お墓、仏具などの祭祀財産
仏壇・お墓・仏具・位牌などの祭祀財産は「相続財産」とは別物として扱われるため、相続放棄をしても受けとることができます。
ただし、祭祀財産に換金性があり、それが社会通念上あまりにも高額な場合には相続財産として取り扱われる可能性がある点には注意が必要です。
例えば、純金の仏壇や仏像などです。相続財産を受け取ったと評価された場合には、法定単純承認が成立し、相続放棄はできなくなってしまいます。
4. 相続放棄をすると受け取れないお金の例
反対に、相続放棄をする予定の人や、すでに相続放棄をした人は、次のものを受け取ることはできません。
- 被相続人が受取人となっている死亡保険金
- 被相続人が借りていた家の敷金
- 被相続人の過払金
- 受取人が定められていない未払いの給与
- 被相続人が誰かに貸していたお金
これらのお金を受け取ってしまうと、相続財産を「処分」したとして、相続を認めたものとして扱われる可能性が高いでしょう(法定単純承認)。
つまり、相続放棄ができなくなったり、すでに受理された相続放棄の効力が否定されたりするリスクがあります。
相続放棄をする人が受け取れるもの、受け取れないものの具体例については、下記の記事で詳しく解説しています。気になる方は事前に確認しておきましょう。
5. 相続放棄の手続き
相続放棄の手続き自体は、そこまで複雑なものではありません。必要な書類を収集・作成し、管轄の家庭裁判所に提出することで手続きを進めることができます。
ただし、戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍などの見慣れない書類を、不足なく、制限期間内に集めなければなりません。そういう意味では、手続きが難しく感じる方もいらっしゃるでしょう。
相続放棄の手続きの流れや必要書類については下記の記事に詳しくまとめていますので、一度確認してみましょう。
6. 相続放棄をするときの注意点
相続放棄の手続きには、いくつかの重要なポイントがあります。正しく理解しておかないと、相続放棄が受理されないなど想定外の問題に直面するリスクがあります。ここからは、相続放棄を行うことを検討している方のために、最低限知っておきたい注意点を解説していきます。
(1)相続放棄の期限は「相続開始を知ったときから3ヶ月」
相続放棄の手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行わなければなりません(民法915条1項本文)。この期間のことを「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。
この期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄はできなくなってしまい、強制的に相続したものとして扱われます。法律で定められた3ヶ月というタイムリミットは意外と早く到来しますので、迅速に行動することを心がけましょう。
特に、「相続財産の全体の金額を調べてから相続放棄をするか否か決めたい」という方や「収集する戸籍謄本が多くなりそう」という方は、より早く行動を開始する必要があります。弁護士等の専門家の力も借りながら、計画的に進めていきましょう。
(2)相続財産を勝手に処分すると相続放棄できない
相続手続きでは、故人の財産の取り扱いに細心の注意が必要です。特に、相続放棄を検討しつつ「遺品整理」や「形見分け」などを進めてしまうと、法律上相続を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうことがあります。
一方で、法律は必要最低限の保存行為、例えば故人の家財を保護したり、清掃したりすることは許容しています。
どのような行為が許されるのか不透明な場合、誤って放棄の権利を失わないように、安易に行動しないように心がけましょう。
(3)相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る
相続人が相続放棄を選択すると、その人の相続権は自動的に次の順位の相続人に移ります。相続人となる優先順位は、民法に定められています。
例えば、被相続人の子(第一順位の相続人)が全員相続放棄をした場合、次順位の相続人に相続権が移ることになります。
具体的には、被相続人の直系尊属(両親や祖父母)が健在の場合はそれらの方(第二順位の相続人)に、第二順位の相続人がすでに死亡している場合には、被相続人の兄弟姉妹や甥姪(第三順位の相続人)に相続権が移ります。
たとえ、第一順位の相続人が相続放棄をしたとしても、第二順位や第三順位の相続人らに「第一順位の相続人が相続放棄をしましたよ。」という通知が行くわけではありません。裁判所はそのような手続きを行ってはくれません。
後順位の相続人らが、自分に相続権が移ってきたことを知らないまま過ごしていると思わぬトラブルにつながることもあります。できれば、自分たちが相続放棄をしたこと(あるいはする予定であること)を後順位の相続人らに連絡してあげましょう。
(4)相続財産の管理義務(保存義務)が残ることがある
多くの人が「相続放棄さえすれば一切の義務を回避できる」と誤解していますが、実際にはそうではありません。
一定のケースでは、相続放棄をした後も相続財産を管理する責任(管理義務・保存義務)を負わなければならないのです。特に、使い道のない空き家や、山林・農地などの不動産については、その責任が負担になりがちです。
相続放棄をする前に、”自分が管理義務(保存義務)を負うことにならないか”はしっかりと確認しておいた方が良いでしょう。
管理義務(保存義務)については下記の記事で詳しく解説しています。
7. まとめ|困ったら弁護士に相談を
ここまで、遺族年金と相続放棄、及びそれに関連する事項について解説しました。最後に、おさえておきたいポイントをまとめます。
「相続についてわからないことがある」「相続放棄の手続きをプロに任せたい」などとお考えの方は、自己判断で行動してしまう前に、弁護士等の専門家に相談してみましょう。