遺産の中に不動産(土地や建物)が含まれているものの、その不動産が売れそうになく、使い道もないため、処分に困る方も多くいらっしゃいます。
そのような方は、相続放棄を検討してみましょう。ただし、相続放棄にはデメリットや思わぬ落とし穴も存在します。この記事を読んで、不動産の相続放棄に関する正しい知識を身につけてください。
1. 相続放棄とは
相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」の熟慮期間内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれか一つをしなければなりません。
そのうちの一つの選択肢である「相続放棄」は、遺産を相続することを拒否し、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない方法です。
もし期間内に相続放棄または限定承認をしなかった場合には、単純承認したものとみなされます(法定単純承認)。つまり、通常通り相続し、被相続人の債務を含む全ての相続財産を引き継ぐことになります。
相続放棄をするには、必要書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
2. 不動産も相続放棄できる
相続放棄を行った場合、相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったものとして扱われます(民法第939条)。
もちろん、遺産に不動産が含まれる場合であっても相続放棄は可能です。
相続放棄をすれば、被相続人が所有してた不動産や預貯金等のプラスの財産、借金等のマイナスの財産、いずれも一切相続することはありません。
つまり、親の借金など、本来引き継ぐこととなる負債や債務も引き継がなくて良くなります。
遺産をすべて合計するとプラスにはなるものの、田舎の土地や老朽化した空き家などを引き継ぎたくないという理由から、あえて相続放棄を選択する方もいます。
なお、「一部の財産だけ相続放棄して、その他一部の財産だけ相続する」ということはできません。例えば、「いらない土地や建物だけ放棄して、預貯金は相続する」といったことはできません。
また、一度相続放棄してしまうと、その後撤回することはできません。
3. 相続放棄をしたら不動産はどうなるのか
では、相続放棄をしたら不動産はどうなるのでしょうか。①他に相続人がいる場合と、②他に相続人がいない場合とで結論が大きく異なりますので、2つの場合に分けて解説します。
(1)他の相続人がいる場合
前述のとおり、相続放棄をすると、自分は初めから相続人ではなかったことになります。その結果、相続する権利は他の相続人に移ることになります。
相続人となるべき人の優先順位は民法で決まっており、そのルールにしたがって相続権が移ります。
他に相続する人がいる場合は、その人が相続により不動産を取得することになります。
不動産を相続により取得した人は、相続登記を行い、取得した不動産の名義を自身に変更する必要があります。なお、相続人が複数人いる場合には、不動産は共有名義となります。
相続放棄と相続順位については、下記の記事で詳しく解説しています。
そもそも法定相続人の基本がわからないという方は、下記の記事をご覧ください。
(2)他に相続する人がいない場合
一方で、自分が相続放棄をした結果、相続する人がいなくなることもあります。
例えば、
- そもそも自分以外に相続人がいない
- 後順位の相続人も全員相続放棄をしてしまった
というようなケースです。
この場合、相続財産は最終的に国庫に帰属することになります。つまり、国のものになるのです。
しかしながら、放っておけば自動的に国が処理をしてくれるわけではありません。
場合によっては、国庫に帰属させるまでの手続きを行なってくれる「相続財産清算人」を裁判所に選任してもらうなどの手続きが必要になることもあります。
他に相続人がいなくなってしまったときにどうなるのかは、下記の記事でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
4. 相続放棄後も不動産の管理義務が残るケースは?
相続放棄をしたら例外なく全責任を免れるわけではありません。一定の条件のもとで、放棄した相続財産を管理する責任(保存義務)を負うことがあります。
(1)保存義務が発生する条件
保存義務が発生する条件は、民法に規定されています。具体的には、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」者に限り、保存義務を負うと定められています。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
民法940条
逆に言えば、相続放棄の時に、相続財産を現に占有していなければ保存義務を負うことはないということです。
例えば、既に自分は暮らしていない実家や、自分が管理や支配をしていない空き家・山林などは、「現に占有している」とはいえず、相続放棄後も管理責任を負わない可能性が高いといえます。
※ 相続放棄後の相続財産の管理義務は、2023年(令和5年)4月の民法改正によって変更されました。改正前にも、相続放棄後の管理責任は存在しましたが、改正後は「(相続の放棄をした者が)放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」場合に限り、財産を保存する義務が発生する旨明文化されています。
(2)保存義務の具体的な内容
もし、あなたが相続放棄をして、空き家などの保存義務を負った場合、具体的にどのようなことをすれば良いのでしょうか。
この点について、求められる具体的な内容までは法律に定められていません。
そのため、ケースバイケースになってはしまいますが、例えば次のような管理をイメージすると良いかと思います。
上記の内容はあくまでも例であり、状況に応じた行動が必要である点には注意しましょう。
例えば、一定の財産的価値があるにもかかわらず空き家を安易に解体してしまうと、保存や管理の範囲を超えた「処分」と判断されてしまい、相続放棄の効力が無くなってしまうリスクもあります。
(3)いつまで保存義務を負うのか
民法940条には、相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間に限り責任を負う旨が明示されています。
つまり、
- 他に相続人がいる場合には、その相続人に相続財産を引き渡すまで
- 他に相続人がいない場合は、裁判所に選任された相続財産清算人に相続財産を引き渡すまで
保存義務を負うことになります。
相続放棄後の空き家の保存義務については、下記の記事で詳しく解説しています。
5. 相続放棄した空き家の解体費用は誰が負担する?
相続放棄をした結果、空き家などの不動産が残ってしまった場合、そのまま建物を放置しておくと倒壊などの危険が生じる場合があります。
そのような場合、空き家を解体することも検討すべきでしょう。
では、空き家の解体費用は誰が負担するのでしょうか。
結論として、自分以外に相続人がいる場合には、相続財産はその相続人に引き継がれますので、基本的にはその相続人が解体費用を負担することになるでしょう。
一方で、他に相続人がいない場合には、基本的に相続財産生産人が相続財産を処理する中で、必要に応じて相続財産の一部を解体費用に充てるなどの処理がされるものと考えられます。
誰が解体費用を負担するのかについては、下記の記事で詳しく解説しています。
6. 相続放棄以外の選択肢
(1)相続して不動産を売却する
老朽化した空き家や、一見需要がなさそうな土地であっても、不動産会社に買い取ってもらえることがあります。
中には、買い手がつきづらい空き家や訳あり物件などを専門的に買い取っている不動産業者も存在します。
「こんな不動産は売れないだろう」と諦めてしまうのではなく、まずは専門業者に査定を依頼してみることをおすすめします。
上場企業を含む大手不動産会社が運営する、不動産一括査定サービスは下記の記事でご紹介しています。
また、大手企業では取扱を断られてしまうような空き家や訳あり物件を積極的に買い取ってくれる専門業者は下記の記事でご紹介しています。
(2)相続して土地活用する
不動産を相続した上で、土地を活用して最大限の収益化を図るという方法もあります。
アパート経営などが土地活用の王道ではありますが、その他にも、駐車場・コインパーキング、太陽光発電、コインランドリーやトランクルームなど、様々な活用方法があります。
土地活用のプランは、自分であれこれと考えるよりも、その道のプロに活用方法を提案してもらう方が効率的です。なぜなら、土地が存在するエリアの市場調査なども含めて無料で行なってもらうことができるからです。
「売れるような土地ではないから、土地活用もできないだろう」と自己判断で諦めてしまう前に、まずは無料で利用できる土地活用プランの一括請求などで情報を集めてみると良いでしょう。
(3)相続土地国庫帰属制度の利用
「相続土地国庫帰属制度」は、不要な土地を国に引き取ってもらえる制度です。相続放棄とは異なり、相続をした上で不要な土地だけを手放すことができるのが本制度の利点です。
ただし、どのような土地でも引き取ってもらえるわけではなく、一定の条件や審査がある点には注意が必要です。
例えば、建物がある土地は本制度の対象外ですので、土地上に建物がある場合は、建物を解体するなどして更地にする必要があります。
このように、相続土地国庫帰属制度の対象となる土地は限定されますが、条件を満たせば土地の維持管理に伴う経済的負担や責任から解放されるメリットを享受できます。
7. まずは不動産価値の査定から始めよう
「不要な不動産を相続しそうだが、何から始めて良いかわからない」という方は、まずは不動産の無料査定から始めてみましょう。
不動産に少しでも価値があるのか、全く価値がないのかによって、取りうる手段も変わってくるからです。
可能であれば、不動産の無料査定を進めつつ、余裕を持って相続に強い弁護士に相談できると理想的です。