この記事では、「相続放棄に関する相談は市役所でできる?」「相続放棄の手続きは市役所でするの?」とお悩みの方のために、相続放棄の正しい方法や市役所の活用方法について解説します。
結論として、市役所で相続放棄に関する相談ができることはありますが、市役所で相続放棄の手続きを進めることはできません。相続放棄の手続きは、家庭裁判所で行います。
1. 市役所で相続放棄の相談ができることも
多くの市役所(区役所・町役場・村役場)では、「無料法律相談会」のようなものを定期的に開催しています。そのような機会を利用すれば、相続放棄に限らず、遺産相続についての相談をすることができます。
(1)弁護士等の専門家に無料で相談可能
市役所で行われている法律相談は基本的に無料です。市区町村から委託された弁護士等の専門家が相談に応じてくれるのが一般的です。例えば、次のような相談会が開催されています。
対象者 | ○○市民(在勤・在学含む) |
相談内容 | 民事問題(相続、金銭貸借、離婚、不動産貸借など日常の法律問題)について |
相談員 | 弁護士(相談員となる弁護士を選ぶことはできません) |
相談時間 | 1枠30分。2枠の予約は不可 |
(2)相談時間が短いなどのデメリットも
弁護士等の専門家に無料で相談できるメリットがある一方で、市役所や区役所での相談には次のようなデメリットも存在します。
通常、市役所での法律相談はあくまでも相談がメインであり、その場ですぐに弁護士と契約できるわけではありません。
相談を聞いてくれた弁護士にその場で依頼したい場合であっても、改めてその弁護士が在籍する事務所を探し、相談予約を取る必要があります。
弁護士への依頼を前提に相談したい方は、二度手間となってしまいますので、初めから法律事務所に相談をした方が良いでしょう。
2. 相続放棄の手続きは市役所ではできない
相続放棄の手続きそのものは市役所で行うことはできません。相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要ですので、間違えないようにしましょう。
(1)相続放棄するには家庭裁判所への申述が必要
相続放棄をするには、家庭裁判所への申述が必要です。申述とは、相続放棄申述書や添付書類(戸籍謄本等)を、家庭裁判所に提出することを意味します。
書類の提出先となる家庭裁判所は、「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」です。家庭裁判所であればどこでもいいわけではありませんので注意しましょう。
裁判所の管轄区域は、裁判所のウェブサイトから対象となる地域を探して確認します。
相続放棄の詳しい手続きの内容や流れについては、下記の記事で詳しく解説しています。相続放棄をするには、申述書等の提出の他にも、裁判所から送られてくる照会書(回答書)への返送なども行う必要がありますので、事前にしっかりと確認しておきましょう。
(2)期限は「相続の開始を知ってから3ヶ月」以内
相続放棄の手続きには期限があります。具体的には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所への申述を行わなければなりません。この期間のことを「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。
熟慮期間を経過してしまった後は、原則として相続放棄をすることはできません。期間内に手続きを進めることができるよう、時間に余裕を持って行動しましょう。
3. 相続放棄に必要な戸籍謄本等の取得は市役所で行う
相続放棄の手続きには、相続放棄をする本人の戸籍謄本などの書類が必要となります。前述のとおり、市役所で相続放棄の手続きを進めることができませんが、相続放棄の手続きに必要となる戸籍謄本などの書類は市役所や区役所から取得します。
(1)相続放棄の必要書類を確認
まずは、相続放棄の必要書類を確認しましょう。
相続放棄の手続きに必要なものには、①全員共通で必要となるものと、②被相続人との続柄によって追加で必要となるものがあります。
全員共通で必要となるものは次のとおりです。
書類等 | 取得方法等 |
---|---|
相続放棄申述書 | 裁判所のウェブサイトで公開されている書式(PDF)を無料でダウンロードして作成します。→「相続放棄に使える書式・記入例・見本一覧」 |
被相続人の住民票除票 または戸籍附票 | 住民票除票は被相続人の死亡時の居住地の役所から、戸籍附票は本籍地の役所から取得します。取得には1通数百円の手数料がかかります。 |
申述人(相続放棄をしたい本人)の戸籍謄本 | 申述人の本籍地の役所から取得します。取得には1通数百円の手数料がかかります。 |
収入印紙(800円分) | 収入印紙は郵便局や法務局で購入できます。 相続放棄申述書に貼り付けて使用します。 |
郵便切手 | 郵便切手は郵便局やコンビニで購入できます。 必要枚数や金額は、事前に管轄の家庭裁判所に確認します。 |
被相続人との続柄によって追加で必要となるものは次のとおりです。
被相続人との続柄 | 必要となる添付書類 |
---|---|
配偶者 子 | ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
代襲相続人である直系卑属 (孫・ひ孫) | ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被代襲者(被相続人の子)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
直系尊属 (父母・祖父母) | ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
兄弟姉妹 | ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
甥(おい) 姪(めい) | ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被代襲者(被相続人の兄弟姉妹)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
必要書類の詳細や取得方法、よくある質問(Q&A)については、下記の記事で解説しています。
(2)戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍は郵送で取得可能
戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍は、市役所や区役所に行って取得することはもちろん、郵送で取得することも可能です。
郵送で取得する場合には、市役所や区役所に対して、申請書、定額小為替、切手を貼った返信用封筒等を送付する必要があります。
郵送での申請に必要なものは市区町村によって異なることもありますので、各自治体のホームページなどで確認しておきましょう。
なお、市区町村によっては、戸籍謄本等をコンビニで取得することもできます。各書類の取得方法は下記の表のとおりです。
書類 | 取得方法 | 請求先 |
---|---|---|
戸籍謄本 | ・役所に出向く ・郵送で請求 ・コンビニで取得 | 対象者の本籍地がある役所 |
除籍謄本 | ・役所に出向く ・郵送で請求 | 対象者の本籍地がある役所 |
改正原戸籍 | ・役所に出向く ・郵送で請求 | 対象者の本籍地がある役所 |
戸籍附票 | ・役所に出向く ・郵送で請求 ・コンビニで取得 | 対象者の本籍地がある役所 |
住民票除票 | ・役所に出向く ・郵送で請求 | 被相続人の最後の住所地の役所 |
相続放棄に必要な戸籍謄本などの書類の取得方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
4. 市役所でできる相続に関する手続き等
相続に関して、市役所でできる手続きをまとめましたので参考にしてください。
(1)死亡届
死亡届は、主治医等が記入する「死亡診断書」と同じ一枚の用紙になっていることがあります。右側が「死亡診断書」で、左側が「死亡届」です。
死亡診断書と同じ用紙になっていない場合は、役所の窓口に設置してある死亡届を使います。
死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡したときは、その事実を知った日から3か月以内)に届け出なければなりません(戸籍法86条1項)。
提出先は、次のいずれかの市役所・区役所・町村役場となります。
- 被相続人が死亡した地域
- 本籍地
- 届出人の所在地
参考:法務省|死亡届
なお、多くのケースでは、役所で死亡届の提出をする際に、あわせて「火葬許可証」の発行の申請もすることになるでしょう。
ただし、死亡届の提出・火葬許可申請の手続きは葬儀社が代行してくれるケースもあります。
(2)国民健康保険・介護保険の資格喪失届
国民健康保険に加入していた方が亡くなった場合には、死亡から14日以内に「国民健康保険資格喪失届」を亡くなった方の住んでいた市区町村役場に提出します。
介護保険の被保険者だった場合も同様で、死亡から14日以内に「介護保険資格の喪失届」を提出します。この際、介護保険被保険者証も同時に返還します。
(3)世帯主の変更届
被相続人が世帯主だった場合は、死亡日から14日以内に居住地の市区町村役場に「世帯主変更届」を提出し、新しい世帯主を届け出る必要があります。
特別な理由がないにもかかわらず届出を怠った場合、5万円以下の過料を科される可能性があります(住民基本台帳法52条2項)。
なお、世帯主変更届を提出する必要があるのは、世帯に15歳以上の人が2人以上残っているケースです。世帯に誰も残っていない場合や、世帯主が死亡して、世帯に残ったのが1人だけの場合は提出不要です。
(4)戸籍謄本・除籍謄本・住民票等の取得
相続放棄をする・しないに関わらず、相続発生後は多くの場面で「戸籍謄本」「除籍謄本」「住民票」等の書類を求められます。
これらの書類は、市役所や役場から取得します。市区町村によってはコンビニで取得することもできます。
(5)相続に関する各種相談
相続に関連する手続きに関してわからないことがあれば、相談窓口等を利用しても良いでしょう。
また、相続放棄をすべきか否かなど、法的な相談をしたい場合には、市役所で行われている無料法律相談会などを利用しても良いと思います。
5. まとめ|相続放棄の手続きは弁護士に依頼してもOK
この記事で解説したように、市役所では相続放棄等に関する相談ができることはありますが、相続放棄の手続きを市役所で行うことはできません。
相続放棄するには家庭裁判所への申述が必要となりますので、間違えないようにご注意ください。
ただし、相続放棄に必要な戸籍謄本等は、市役所等から取得することになります。
相続放棄の手続きを自分で行うが不安な方や面倒に感じる方は、必要書類の取得も含めて弁護士に依頼することもできますので、弁護士に相談・依頼してみてはいかがでしょうか。