「故人の携帯電話を解約してしまったら、相続放棄ができなくなるのでは?」「相続放棄をした後なら携帯電話の解約をしても良いの?」とお困りの方のために、被相続人の死亡時の携帯電話・スマホの解約と相続放棄の関係について解説します。
結論としては、相続放棄をするのであれば、なるべく何もせず、相続放棄をすること(あるいは完了したこと)を携帯会社に伝えておけば良いでしょう。
1. 相続放棄前に携帯を解約すると、相続放棄ができなくなる可能性がある
相続放棄をする際に多くの方が悩まれるのが、「故人の携帯の解約をしても良いかどうか」です。
結論として、相続放棄をする前に故人の携帯を解約すると、相続財産を「処分」したものとして、相続放棄ができなくなってしまう可能性がないとは言い切れません。できれば解約の手続きはせず、相続放棄の手続きを優先して進めた方が良いでしょう。
すでに故人の携帯を解約してしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、まだ諦める必要はありません。単に携帯を解約したに留まるのであれば、適切な説明を家庭裁判所に対して行うことで、相続放棄が受理される可能性もあるでしょう。
すでに故人の携帯を解約してしまった方は、相続放棄をすることを自己判断で諦めるのではなく、手続きを進めてみましょう。弁護士に手続きを依頼し、家庭裁判所への説明も合わせてお願いしても良いと思います。
(法定単純承認)
民法921条1号
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
2. 相続放棄前に遺産から携帯料金を支払うと、相続放棄ができなくなる可能性がある
次に、相続放棄をする前に、故人の未払いの携帯料金を、遺産から支払ってしまった場合について見ていきます。
前提として、相続放棄をすれば、未払いの携帯料金を含めた故人の債務を引き継ぐことはありません。つまり、相続放棄をするのであれば、故人の未払いの携帯料金は支払う必要がありません。
そうであるにもかかわらず、故人の預貯金などの相続財産を、故人の未払いの携帯料金に充ててしまう行為は、相続財産の「処分」に該当するでしょう。
したがって、遺産から携帯料金を支払うと、相続放棄ができなくなる可能性があります。
3. 携帯本体を売却・譲渡すると相続放棄ができなくなる可能性がある
次は、故人が使用していた携帯やスマホの本体を売却したり、他人に譲ってしまったりした場合です。
故人が遺したものを売却したり他人に譲る行為が「処分」や「隠匿」(民法921条3号)に該当するか否かは、その物に経済的価値があるのかどうかが重要な基準となります。
「売却」については、経済的価値があるからこそ行うのでしょうから、基本的には相続財産の「処分」や「隠匿」に該当すると考えて良いでしょう。
一方で、売って値段がつくようなものではない使い古された携帯電話を誰かに譲ってしまったという程度であれば、「処分」や「隠匿」に該当しないと考えられます。
いずれにしても、相続放棄をより確実に行いたいのであれば、売却も譲渡もしない方が良いでしょう。
4. 相続放棄をするなら携帯電話の名義変更もしない
故人が使用していた携帯電話やスマホの名義を自分に変更する行為は、相続財産を自分のものにする行為ですから、相続財産の処分等に該当してしまいます。
相続放棄をより確実に行いたいのであれば、携帯電話の名義変更はしないようにしましょう。
5. 相続放棄するなら、あえて自分から携帯の解約をする必要はない
相続放棄をするのであれば、故人の携帯電話やスマホに関して、基本的にこちらから積極的に解約を申請するなどの行動は必要ありませんし、解約手続きをしなければならない法的義務もありません。
未払いの携帯代の請求書が届くなどして焦ってしまうこともあるかもしれませんが、それらの責任を回避するのも相続放棄のメリットですから、一度冷静になって行動しましょう。
後ほど説明するように、携帯会社には、相続放棄をすること(あるいは完了したこと)を伝えておけば足ります。
6. 相続放棄するなら携帯料金を支払う必要もない
繰り返しになりますが、相続放棄は、被相続人の債権債務を含めた一切の相続財産を放棄するものです。
したがって、相続放棄をすれば、未払いの携帯料金を含めた故人の債務を引き継ぐことはありません。
つまり、相続放棄をするのであれば、そもそも故人の未払いの携帯料金は支払う必要がありません。
7. 相続放棄をしたことを携帯会社に伝えればOK
相続放棄をする場合は、以下のように進めましょう。
- 相続放棄の申立てをする
- 携帯会社に対して相続放棄した旨の申告をする(任意)
まずは相続放棄の手続きを優先して進めます。
(1)相続放棄の申立てについて
相続放棄の手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行わなければなりません(民法915条1項本文)。この期間のことを「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。
この期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄はできなくなってしまい、強制的に相続したものとして扱われます(法定単純承認)。
3ヶ月というタイムリミットは意外と早く到来してしまいますので、なるべく早く行動するようにしてください。
特に、「相続財産の全体の金額を調べてから相続放棄をするか否か決めたい」という方や「収集する戸籍謄本が多くなりそう」という方は、通常よりも時間がかかってしまう傾向があります。弁護士等の専門家の力も借りながら、余裕を持って手続きを進めていきましょう。
相続放棄の手続きの流れについては、下記の記事で詳しく解説しています。
(2)携帯会社に対して相続放棄した旨の申告をする(任意)
KDDIやドコモ、ソフトバンクなど、携帯会社に対して電話をし、相続放棄した旨の申告をします。その後の処理については、各社から案内があるでしょう。
なお、相続放棄をしたことを第三者に示す場合には、相続放棄申述受理通知書や、相続放棄申述受理証明書を利用します。
相続放棄申述受理通知書は再発行できませんので、原本の紛失にはご注意ください。
8. 迷ったら何もしない方が良い
「これからする予定の相続放棄をより確実に行いたい」「すでにした相続放棄の効力に極力影響を与えたくない(無効にしたくない)」というお気持ちなのであれば、故人の携帯電話については基本的に何もしない方が安全です。
これくらいなら大丈夫だろう、と安易に行動してしまうと、相続放棄が認められなかったり、相続放棄を認めたくない債権者などに相続放棄の効力を争われ、相続放棄が無効となる可能性もあるので注意しましょう。
携帯電話の解約の他にも、相続放棄の前後にやってはいけないことややらない方が良いことがたくさんあります。ご不安な方は、下記の記事も合わせてご覧ください。
より確実に相続放棄の手続きを進めたい方は弁護士に相談・依頼することをおすすめします。